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新、必殺技


 ああ、昼間から飲み過ぎた。鬼殺しは……まさにその名の通り強いお酒だ。

 廊下に左肩を当てたままズルズルと歩く。こうすることで真っ直ぐ歩ける。

 窓の外からは赤い日が入っている。まさか昼から夕方までダラダラ飲んでしまうとは……。


「新しい必殺技くらい考えないと……ヒック、魔王様に怒られてしまうなあ……ヒック」

 やだ、シャックリまで出てきたぞ。

「必殺~、『鬼殺し』とかでいいんじゃないだろうか。ヒック」

 あ、いい響きだぞ。魔王様に見つかったら一日かけて必殺技を編み出しましたと答えよう。ヒック。

 成長するどころか、退化しているのではないだろうか……。ヒック。一日一歩、三日で三歩。三歩進んで二歩下がるでもいいじゃあないか。魔王様も成長すると、色々とマズいと言っていたからなあ。第一話で。


「大変だデュラハン!」

「どうした、ソーサラモナーよ」

 酒を飲んでいるのがバレないように壁から肩を離して出来る限り姿勢を正す。

「やっちまった、この俺としたことが大失態をかましてしまった」

「別にいいじゃないか。普段から失態続きなのだから」

 部屋でゲームばかりやっているだけじゃないか。

「バカ野郎、俺はお前とは違い頭脳明晰、因数分解、大義名分、魔王様のブレインとして重要な役割を担っているのだ」

 言っている意味がよく分からないのは酒のせいではないだろう。ただ、魔王様の「ブレイン」にイラっとする。首から上が無いので「能無し」と言われても少しイラっとするのだ。

「直ぐに玉座の間に来てくれ」

 ――!

「え、いや、今はちょっと……」

 酒臭いのがバレると非常にマズい。大丈夫かなあ、「はあっ」てやるとまだまだ酒の臭いがする。

「そんなのバレやしない。顔色も分からないし、そもそも口も無いのだから気にするな、早く来いよ」

「引っ張るんじゃない」

 ヨロヨロするじゃないか。

 シャックリがいつの間にか止まっているではないか。


 玉座の間の大扉を僅かに開けて中の様子を伺う。なにやらピンと張り詰めた空気に包まれている。玉座には魔王様が座り……その隣で魔王妃が魔王様に背を向けて座っている。いつものパイプ椅子に。

 さらには一言も会話をしていない。

「ひょっとして、お二人はお喧嘩しているのか」

「ああ」

 小さな声でソーサラモナーと話す。男同士のヒソヒソ話は、エモい。

「夫婦喧嘩は犬も食わないぞ」

「デュラハンなら食うだろ」

「まあな」

 遠回しに魔王様の犬と言いたいのだろうが、ぜんぜん腹立たないぞ。

「いったい何をしてこうなったというのだ」

 ソーサラモナーは知っているのだろ。喧嘩の種を。

「俺が買ってきたお土産、『四つのうち一つはワサビ入り抹茶饅頭、キングサイズ』のせいだ」

「キングサイズ――」

 なんちゅうものを魔王様のお土産に買ってくるのだ! アホ!

「ワサビの辛さは泣けるぞ」

 もし今、食べたら吐くぞ。リバースするぞ。さらにはキングサイズってことは、手の平よりも大きなワサビの塊!

「食べている途中でワサビに気付いてもよさそうなのに……」

 一口で食べきったのかもしれない。昔のサザ〇エさんのエンディングのように……アーアン、あら、ウフフフフ。冷や汗が出る、古過ぎて。

「まさか、こんなことになってしまうなんて」

 爪を噛んでオロオロするでない。ソーサラモナーの爪と指の隙間は茶色い。私の手はガントレットだから、爪や爪のカスが羨ましい。

「どっちがワサビ入りを食べて喧嘩になったのかは分からないが、どうやらここは私の出番のようだな。任せておけ」

「すまない。じゃ、よろしく」

 ソーサラモナーはポンと肩を叩いて、さっさと走って自室へ戻っていった。


 ――面倒事をたくさん処理して、このデュラハンも飛躍した成長を遂げるのだ――。


「お、おやあ。どうされましたお二人とも」

 少しだけ白々しかったかもしれない。扉を開けて魔王様の前まで真っ直ぐ歩く。真っ直ぐ歩けるが、少しだけ内股になっているかもしれない。

「お、おお。デュラハンよ何処へ行っていたのだ」

 ……。

「え、いや、あのお……どこでしょうねえ。どこだったかなあ」

 サッキュバスの部屋と答えたら酒を飲んでいたのが一発でバレてしまう。

「予は何一つ怒らせるようなことをしていないのに、魔王妃が急に怒りだして困っているのだ」

「は、はあ」

 返事に困るぞ。本人の前で言えちゃうんですね、魔王様。

「違うわデュラハン。聞きなさい。魔王様ったら、ソーサラモナーの美味しそうなお土産の『当たり』を独り占めしたのよ」

「え、当たりを独り占めですか。それはいけませんねえ」

 当たりと言えば当たりだが、ハズレと言えばハズレだ。「ししとう」と同音異義か。

「予は一つしか食べておらぬ。さらには抹茶味と書いてあるのに、鼻をモリで突き刺すような刺激的な味わい。まるでワサビ味のようだったぞよ」

 ワサビ味じゃねえ、ワサビだ! とは言わない。

「まあ、そうっスね」

 ソーサラモナーはどれくらいお土産の説明をしたのだろうか。または、包装紙をまったく読まずに開封したのだろうか。この二人なら後者の方だろう。

「魔王妃は三つも食べたのだぞよ。予はたった一つぞよ」

「でも当たりを食べたではありませんか! 当たり以外は、言わば『ハズレ』なのですよ」


 うわあー面倒臭いことになっているぞ。


「要するに、魔王妃様はワサビ入りの『当たり』を食べたかったのでございますね」

 コクリと頷いてプイっと顔を背けるあたりが魔王妃たる由縁か。

 そんなにワサビが食べたいのなら、ワサビチューブを一ダースは買ってきてやるのに……。それか缶に入った粉わさび。水で練るとワサビになるやつ。……ネルネルネルネとはちょっと違う。色は緑色のまま。

「私が自作しましょうか」

 クックパ〇ドとかで検索し、たっぷりワサビを詰め込んだら誰でも作れそうですよ。もしくは、ずんだ餅のようにワサビだけ丸めてもよい。

「おお、そうしよう。さすがデュラハンぞよ」

「ありがとうございます」

 これにて一件落着でございます。

「わたしが食べたいのは、デュラハンの饅頭じゃありません」

「「……」」

 へそを曲げるとはこのことだな。たとえ買い直してきても「嫌」と言って食べないつもりだろう。

「機嫌を直してくれ」

「そうですとも。魔王妃様ともあられるお方が、たかが一つのワサビ饅頭を食べたがって駄々をコネてはお恥ずかしいと思いませぬか」

 パイプ椅子に座るジャージ姿の魔王妃。ちっとも魔王妃らしく見えない。


「……じゃあ、機嫌を直す代わりに、


 ――ほんのちょっとだけ無限の魔力を貸してよ――」


「「――!」」


読んでいただきありがとうございます!


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