創造者
「なぜだ、なぜ自分と敵対する者をわざわざ創る必要があるのだ」
「暇つぶしとか」
ズルっとなったぞ――。暇つぶしって、「ひつまぶし」に聞こえたぞ――。
「魔法を使えるようになった種族がどんどん魔法を進化させ、種族を創り出すレベルまで到達しただけのことよ。たぶん」
「だけのことって……」
飲み終えたコーヒーカップをクルクルと回す。どうでもいいが、ポタポタ雫が飛び散っている。ベッドのシーツにも。
「創りだされた側と創った側では大きな違いだ」
「そうかしら。今は別に大差はなくて」
うううーん。そうなのかも知れないが、やっぱり創った側でありたいだろう。
品種改良する方と品種改良される方だったら、する方が優位に立っている気がするだろ。
遺伝子組み換えする方とされる方だったら、する方が強そうだろ。
「もしかしたら、お前も……女神も創られた側かもしれないぞ」
女神だなんて大層な名前をひけらかし創った側気取りかもしれないが、さっきの話からすると絶対に違うとは言い切れないだろう。
「うーん、生まれた時のことなんて覚えていないから、あり得るかもしれないわ」
「だとすれば、俺みたいな全身金属製鎧で首から上が無い種族が、この世界の最初に居たのかもしれない!」
俺達デュラハン族! 人間も魔族も女神さえも私の祖先が創り出した説!
「それはない」
「くそ~。なんでだよお。即答するなよお」
なんで俺達が最初説だけはあっさり否定されるんだよ~。今では絶滅危惧種扱いされている貴重な種族なのだぞ。首から上が無い全身金属製鎧の種族は。
「わたしなら出来るわよ」
「なんだと」
何が出来ると言いたいのだ。
クスクス笑っている魔王妃は、いったいなにが可笑しいのか理解できない。
「ひょっとして、俺の顔になにか付いているのか」
「それはない。顔すら無い」
ちくしょー。せめて乗り突っ込みしてほしかったのに。シクシク。
「わたしに無限の魔力があれば、世界中の人間を首から上が無い、『全身金属製鎧の女子、胸小さ目』に変えることだってできるわ」
「――!」
体中が稲妻で撃たれたような気分だ。無限の魔力で、そんなことができるのか。
「バ、バカな。しかし、えーと、でも、いいのか、無限の魔力をそんな私利私欲のために使っても」
今まで一人たりとも同種族の女子を見かけたことが無かったのだ。女って、母さんだけと思っていたのだ。
私で我が種族は絶滅するものと諦めかけていた。それが、ここにきて急にハーレムだと? 一夜にして絶滅の危機からハーレムだと~!
雷鳥やイリオモテヤマネコもビックリだぞ――! ピヨピヨニャー!
「だが、本当にいいのか、そんなことをしても……」
「いいに決まっているじゃない。無限の魔力なのだから」
「……」
なんか、魔王妃が昔、石像になっていた理由が分かったような気がする。なったというより、されたのだろうなあ。思考回路がデンジャラスだ。
「聞こえているわよ。心の声が」
少し目を細める。
「あ、今のは嘘です」
「ならいいわ」
……。やりにくいなあ。
「だから、ちょっとだけでいいからとデュラハンからも魔王様にお願いしてみてよ。無限の魔力をほんの少しだけ貸してって」
ほんの少しを顔の前で親指と小指を使って表現する。親指と人差し指よりは遥かに多そうだ。
「……馬鹿馬鹿しい」
以前、魔王様が魔王妃に無限の魔力を貸してしまい、散々な目にあったのを思い出す。同じ失態を二度と繰り返す訳にはいかない。
「わたしにしかできないかもよ」
顔を寄せてきて片目をパチッと閉じて見せる。ウインクは古いぞと言いたい。昭和感が出ていて冷や汗が出る。
「今の話は、聞かなかったことにする」
危うく魔王妃の口車に乗ってしまうところだった。立ち上がり部屋を後にしようとした。
「あ、デュラハン。新しいジャージはせめて上下お揃いの色にしてね」
「……考えておこう」
魔王城前の商店街にある魔シマムラで、最安値のジャージを買っておこう。
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