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魔王妃の誘惑


 コンコン。

 魔王妃の部屋を軽くノックする。今朝はまだ玉座の間に姿を現していない。どうせ、また夜更かしして寝坊でもしたのだろう。

「はいはーい。どなた」

 明るい声、軽い感じの返事だ。寝起きではなさそうなのにホッとする。魔王妃は寝起きも悪いから。

「デュラハンだ。少し話があるのだが」

「なんだ、デュラハンか」

 なんだとはなんだと言ってやりたい! 遠回しに「残念」と言いたげなテンションで返事をするなと言いたい。

「鍵は開いているから入ったらいいわ」

「失礼する」

 安っぽい木の扉を開け中へ入った。

 魔王妃の部屋は他の者の部屋より広い。二つの部屋の壁をぶち抜いて作ったからちょうど2倍あるのが羨ましい。

 十畳くらいの広さがあるのが羨ましい――。

「話ってなあに」

 魔王妃の姿を見てがっかりした。なぜこのクソ寒い日に下着姿で部屋をウロウロしているのか。

「さ、さっさと服を着ろ」

 首から上は無いのだが背を向けた。

「やだあ、デュラハンの変態」

 ――だったら服を着る前に入れとか言うな! 魔王様や他の魔族に見つかったら物凄く勘違いされてしまうぞ!

「見せブラだから大丈夫よ」

 そういう問題ではないのよ。

「……頭が痛いぞ」

 首から上は無いのだが。


 ベッドの上に脱ぎ散らかしていたジャージに足を通す。ひょっとすると今の今まで寝ていたのだろうか。寝癖も付いたままだ。もう朝の9時半だぞ。始業のベルはとっくに鳴ったのだぞ。

「ドレス洗濯しているじゃない。冬は乾きにくいから嫌になっちゃうわ。せめてもう一着くらい買いなさいよ。魔王軍の予算で」

「いまの魔王軍にそんな余裕はない」

 魔王軍の予算は火の車だ。火のダルマとは少し違う。

「ケチ」

 うるさいなあ。ケチにケチと言うなと言いたい。

「さっさとジャージを穿け」

 魔王妃には上と下の不揃いのジャージがお似合いだ、とは言わない。

「ありがとう。わたしって、何着ても似合うのよ」

「誰も褒めていない」

 褒めていないのに感謝するな。逆にこっちが恥ずかしい。上は緑色で下は小豆色のジャージ。まるで魔中学校の長袖体操服みたいだぞ。


「それで、わたしに話って何だったかしら」

「魔王様が、『人間を魔族にする禁呪文』などとおっしゃったのだが、本当にそんな恐ろしい魔法がこの世に存在するのか?」

 私は魔法が一切使えないから魔法事情に弱いのだ。嘘か本当かすらよく分からん。冗談かジョークかも判断がつかないのだ。笑うところで笑い逃し、後で一人だけ笑うタイプなのだ。

「え、ああ、魔王様の無限の魔力を使えば、たぶん出来るでしょうね」

 魔王妃は茶渋で汚れたステンレスのコップにインスタントコーヒーとお湯を入れ、混ぜもせずに飲み始める。

 ベッドの上でコーヒーを飲むのに違和感がある。さすがは魔王妃と感心するべきなのだろうか。

「あ、零しちゃった」

「……」

「ま、いいか」

「……」


「魔王妃よ、今は魔力を失ったとはいえ、元々は女神であったのだろ」

「まあね」

 ちょっと視線を逸らしながら答える。まだまだ何かを隠しているのが安易に伺える。

「ひょっとして、以前にそんな禁呪文を使ったりしたのか」

 大勢の人間を魔族にしたり、魔族を人間にしたりするような恐ろしい禁呪文を。

「使う訳ないじゃない。っていうか、忘れてしまったわ」

「そんな大事なこと、忘れる訳がないだろ」

 いくら昔のこととはいえ、印象強い記憶は忘れたくても深く記憶してしまうものだ。

「じゃあデュラハンは、今までに食ったパンの枚数を覚えているの?」

 ぱん? 食った?

「一、二、三、四……ってえ! 覚えているはずがないだろ」

 っていうか、大丈夫なのだろうか。冷や汗が出る。どっかで聞いた言い回しだぞ。

「2歳や3歳の頃のことも覚えていないでしょ」

「……たしかに」

 言われてみれば、魔保育園に通い始めた頃の記憶からしかないなあ。生まれた時の記憶も無い。

「わたしだって何年も何年も昔のことなんて覚えていないわ。石像になっていた期間も長かったし」

「……」

 女神が石像になっていた理由って、聞かない方がいいのだろう。絶対に悪いことをしたのが見え見えだから。

 ペロッと舌を出すな。


「今の魔王様より遥か昔にも魔王は存在していた筈だ。さらには、無限の魔力を持つ者も居たのだとすると、人間を魔族に変えた者やあるいは逆に魔族を人間に変えた者も居たのではないか」

「さあ、どうかしら」

 興味なさそうにコーヒーを口へと運ぶ。知らないのか、知っていて知らないフリをしているのか。

「そんなことをわたしに聞いて、どうするの」

 眉をハの字にしてコーヒーを飲み続ける。

「いや、ちょっと気になっただけなのだ。この世界には人間が先に居たのか、魔族が先に居たのかが」

 元女神なら何か知っているのかと思っただけだ。

「あー、なるほど。卵が先かニワトリが先かってことね」

「それは違う」

 さらに、その答えは「絶対に卵!」だ!

「人間であれ魔族であれ、一つだけ分かることがあるわ」

「なんだそれは」

「あ、教えてほしい?」

「……」

 めっちゃ気になるじゃないか、ちくしょー!

 ニヤニヤしている。まんまと手の平の上で踊らされているー!


「ドレス一着でどう」

 無理無理無理。数百万円するドレスをそうポンポン買える筈がない。

「ドレスはムリだ。……せめて……ジャージ一着までだ」

 ない袖は振れない。ジャージなら私のなけなしのヘソクリでなんとか買える。

「……ケチね。まあいいわ、教えてあげる。分かったことは、人間か魔族のどちらか最初に居た方の種族が、魔法を使ってもう片方の種族を創り出したってことよ」

「魔法で創り出しただと――!」


 人間が魔族を? または、魔族が人間を? 創っただと――!


 ホワ~イ! 訳分かんないぞ――。


読んでいただきありがとうございます!


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