成長しない者
「しかし、それはあくまでもRPGでの話。実際の実話ではございません」
はあ、はあ、はあ。
魔王様のお口車に乗せられるところだった。危なかった。
「う、うん。実話って……ノンフィクションのこと?」
剣と魔法の世界はどんなに頑張ってもノンフィクションにはなりませんが……。
「魔王様だからといってのんびり鷹をくくっていてはいけません。成長は必要不可欠なのです」
「必要不可欠とな」
「万が一にでも人間などにやられぬよう、毎日剣や魔法の修練を行い、体を動かして頭を使い、全魔王軍の『お手本』にならなくてはいけないのでございます」
玉座に座ってポテチ食べてるところなど見られては、全軍の士気に悪影響を及ぼすでしょう。
「最近、ぜんぜん成長していないでしょ」
新しい魔法を編み出したり、新しいことに挑戦したり、筋トレしたり、ダイエットしたり。
――このままでは例年の如く、正月に冬太りしてしまいますよ――。クスクス。
「予が成長すれば、さらに新たな禁呪文も完成するであろう」
「え、禁呪文ですか」
ちょっと嫌な予感がするぞ。魔王様の禁呪文は、どれもこれも正真正銘の禁呪文だ。ドラ〇もんの四次元ポケットから飛び出す道具級に質が悪い。冷や汗が出る。
「すべての人間を一瞬にして魔族に変える魔法とか」
顎に指を当て、たった今思いついたように言ってのける。
「うわー。それ、鬼ですね」
サラリと言ったがとんでもない禁呪文だぞ、それ。
「そうぞよ。もう世界観ぶっ壊れは確実。世界は魔族に統一され平和になりハッピーエンドぞよ」
まさに世紀末のような禁呪文だぞ。一瞬で魔族にされてしまう人間達が可哀想に思えてならない。
「そんな禁呪文があるのですか」
「今はない。だが、人間にせよ魔族にせよ、夢であれ目標であれ、想像できるものはいずれ実現させる力を持っておる」
「……」
「魔族は人間よりも長寿。人間よりも優れた能力を得ることは容易い」
「……」
「予が成長しようと努力すれば、直ぐにでも世界は予の思うがままになろう」
魔王様が悪い顔をしてみせるので胸がキュンとしてしまった。
「……ははあっ」
魔王様の思うがまま。そのお言葉に鳥肌が立った。私は全身金属製鎧のモンスターなのに、鳥肌がブツブツと出た。じんましん級に出た。
もし人間がすべて魔族になるのなら……二度と人間との争いは起こらないだろう。しかし、それで本当にいいのだろうか。争いがなくなれば四天王として武勲を上げる機会も無くなってしまう
――俺は……争いを求めているのではないだろうか――。
「それよりデュラハン」
――。
「はい」
「卿の方こそ成長していないではないか」
「――! と、と、突然、なにをおっしゃるのですか」
ドキッとしてしまうではありませんか。ハハハ。
「必殺技も、『デュラハン・ブレッド』とかいうダサいネーミングの技だけではないか」
「――!」
ダサいって酷いぞ! ドイヒーだぞ!
顔があったら涙ダラダラ流して泣いてしまうところだぞ――!
さらには、そう言われて反論できないところが情けない。だが、私は毎日の雑務が多過ぎて、剣の修練などしている時間が無いのだ。魔王城の掃除や洗濯。スライムの遊び相手や魔王様の暇つぶしのお相手……。くだらない雑務ばかりを星の数くらいこなしているのだ。
まるで、社長が自らの地位を取られないよう部下に膨大な雑務を押しつけているのと同じだ――。
「言い訳だけは成長しておるのお」
「お褒め頂き恐縮です」
深く頭を下げる。私めはちゃんと成長しているのでございます。
「誰も褒めておらぬ。予に対して偉そうに言う前に、デュラハンこそ皆に成長っぷりを見せてはどうだ、プププ」
「ぎょ、御意」
まさか返り討ちにあうとは思っていなかった。
なんか……悔しい。プププと笑われると。
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