魔王様、成長してください
「なぜだ!」
窓の外のイチョウは黄色く色づき、銀杏が独特の香りを辺りに漂わせている。魔王城にも冬が迫っている。
相も変わらず、今日も魔王城四階玉座の間に魔王様の声が響き渡る。まるで新聞の四コマ漫画のように。
「予は魔王ぞよ。その予に向かって『成長してください』って、物凄く上から目線で失礼ぞよ!」
怒りを露にし、手に握るポテトチップを粉々に握りつぶし……口へと運んだ。
「少々言葉が過ぎました。ですが、魔王様はいつも玉座に座ってばかりでございます」
握りつぶしたポテチを手の平から食べ難そうに食べ終えると、塩や油がついた手の平をローブでゴシゴシ拭くのにガッカリする。ウェットティッシュを準備して差し上げるべきだろうか。いや、魔王様はお子様ではないのだから、私がそこまでする必要はない。
普段からもポテチを食べながら汚れた指で漫画を読んだり、玉座でお昼寝したり、魔王妃とイチャイチャのろけ話をしたり、腹ごなしに腕相撲をしたり指相撲を両手でしたり……。のんびりスローライフが根付いてしまっている。
「兎と亀の話ではございませんが、そのような体たらくブリでは、我が魔王軍が人間どもに敗北する日が訪れるかもしれません」
人間を侮ってはいけません。きゃつらは姑息な性格の持ち主なのです。
「グヌヌヌヌ」
怒るってことは、やはり自負するところがある証拠です。
「今は仲が良い女勇者とて、いつ手の平を返して魔王様を討伐に来るか分かりませんよ」
人間は自分たちの私利私欲のために、簡単に相手を裏切るのです。ルールを作って破るのが得意なのです。
「でも、予に向かって冒頭から、『成長してください』って、酷くない?」
「酷くない!」
魔王軍のために、私は心を鬼にして進言しているのです。
「まあ、人間どもが束になってかかってきても、魔王軍最強の騎士であるこの私、宵闇のデュラハンがいる限り魔王様には指一本……いや二本……。いやいや、やっぱり一本たりとも触れることすらできないでしょうが。とは言わない。自慢しているように聞こえてしまうから。しかし、私は魔王様と違い多忙な身。魔王様と四六時中一緒にいる訳にもいかない。あー心配だ。あー忙しい」
「ゴッソリ聞こえているぞよ。せめて独り言は一人なのを確認してから言え」
「御意」
「……御意って……」
呆れ顔をされるが、本来は私の方こそ呆れ顔をして見せたい。首から上は無いのだが。
「デュラハンはそう言うが、ほら……魔王が成長すると、マズいだろ」
言いにくそうに魔王様がおっしゃる。
「? マズいですと」
成長することがどうマズいのだ。
まあ、魔王様の座を狙う者にしてみれば……マズいっちゃあマズいのかもしれないが。
「予は魔王ぞよ。つまり、RPGでいえばラスボスぞよ」
「RPGとかラスボスとかって、あまりおっしゃらないでください」
世界観が崩れます。
「勇者が必死に経験値を稼いでレベルアップしているときに、ラスボスが同じように成長してレベルアップしていくのだぞよ」
「――!」
ラスボスがレベルアップしていくRPG!
「うかうかしていられません!」
攻略法をネット検索している間にラスボスが強くなってしまう。
「そうぞよ! 『勇者はレベルが1から2に上がった! それとほぼ同時刻に魔王のレベルが9999から10000に上がった! 魔王のレベルがカンストを突破した!』ぞよ」
カンスト突破! レベルの上限がさらに上がるという……人気ゲームでよくあるパターンのやつ! 人気のないゲームではあまり見かけないやつ……。
「勇者は最大HPが、5から8に上がった」
「少なっ!」
せめて最初から二桁は欲しいぞ。ヒットポイント。
「魔王は最大HPが5億から8億に上がった」
「お待ちください! 桁数が小学生低学年の会話レベルでございます!」
3億も増えた体力を削るのに、どれだけ苦戦を強いられるのだろう。
「さらには、『勇者は体力が少し回復する魔法を覚えた』に対して、『魔王は体力が全回復して一定時間点滅して無敵になる魔法を覚えた』ぞよ」
――全回復して一定時間点滅して無敵――!
「そんな魔法を使われたら、絶対に倒せません!」
点滅して無敵って……アクションゲームかっ!
「勇者が村人と話している間にも、ラスボスはどんどんレベルアップして強くなっていき、ある時点で絶対に倒せなくなるぞよ。つまりタイムアップでゲームオーバー」
「タイムアップでゲームオーバー!」
時間制限のあるRPGなんて、嫌だぞ! ゆっくりのんびり攻略してこそのRPGなのだぞ!
「もし、最初からやり直しても、ラスボスは強いままでニューゲーム」
「鬼でございます!」
ラスボスが勇者以上に成長するようなゲームは、成立しないぞ!
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