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第7話 悪魔退治

満天の星空と月明かりの下、ケイタとナギはベックルの首があるという場所まで飛行していた。まだ調整が難しくうっかり速度を出しすぎたり、逆に絞りすぎたりとなかなか安定しないが、それを知ってか知らずかナギの進む速度は速い。後を追うのがやっとだった。


「ちょっと速いんですけどー、待ってくださいよ」


「ん? あーはいはい」


そういうと、少し遠くにいたナギが目の前にテレポートしてくる


「大丈夫ですか? 目的地はあと少しですよ」


「よくそんな速く飛べますね。ついてくのがやっとですよ」


「そうですか? まぁ、この姿はプロジェクターのようにこの世界に投影してるだけなので飛んでいるわけでは無いんですよ。映す場所を移動させてるだけなんです」


ナギの説明に妙に納得する。速度も一定で体がブレるようなこともないので変だとはケイタも感じていた


「へぇー便利ですね。思ったんですけど、女神さまは何ができて何ができないんです? なんで自分で邪神と戦わないんですか?」


「そうですね、私の力は万能ですのでケイタさんが想像するようなことは何でもできるでしょう。しかし無制限に使えるわけでは無いのです。そもそも私が、高次元知性体が同じ高次元知性体である邪神を直接攻撃したり傷つける方法は存在しないのです。ただし、前にも説明した通り我々は人間の信仰からエネルギーを得てその存在を維持しているので、エネルギーを使いすぎたりエネルギーを供給する信仰者がいなくなれば極度に弱体化しいずれは消滅する運命にあります。ようは直接倒すのではなく彼の…邪神の信者や邪神を恐れる人々を減らし、奴を"餓死"させれば良いのです」


「なるほど…」


そこまで言われてケイタは考える。すっと感じていた疑問を今質問するべきな気がしていた


「じゃあ、なんで俺なんでしょうか。邪神が自分の信者や悪魔を使役しているなら女神さまも似たようなことをしてもいいんじゃ? なんで俺一人を呼び出して邪神と戦わせようと思ったんですか?」


その言葉を聞いたナギがほんの一瞬、笑みのような表情を浮かべた気がした


「それはですね、救世主を作るためですよ」


「救世主?」


「ええ。悪魔が蔓延るこの時代に、人々には象徴が必要なのです。奇跡を起こし魔を払い、人々を救済するのは遠い存在の神ではなく同じ人でなければ。人であるからこそ、その行いが民衆の尊敬を集め模範であり続けるのです」


ナギは恍惚とした表情で語る


「そしてそれは絶対的な存在として死してなおいえ死すればこそ永遠にこの世で称えられ続け絶大な…」


そこまで言い、ナギは電源が切れたようにおとなしくなった。かと思えば、いつもの落ち着いた様子に戻る


「っとまぁ、難しいこと言いましたが要は私がやるよりもケイタさんがやった方が信頼を集めやすいってことです。同じ人間同士ですしね。あとは単純に私は邪神のように"モノづくり"ができるほど器用ではないってのもありますが」


「信頼ですか、まぁ尊敬されるように頑張りますよ」


「ええ、頼りにしてますよ」


二人は飛行を続ける。こうしてナギと会話をしている間もかなりの距離を飛んでいた筈だが特に景色が変わることは無い。地平線の果てがうっすらと青みを帯び始めたのが見え、再びナギが口を開く


「ケイタさんそろそろ首のある場所に近づいてきました。用心してください」


「用心?」


落とし物を拾う程度の気でいたケイタに不穏な言葉が引っかかる


「はい、今回ベックルの首がすぐ見つかった理由でもあるんですが…実はかなりの邪気、悪魔特有の魔力を放っているんです」


「どういうことですか? 奴は人間に見せかけた悪魔だったってことですか?」


「いえ、私がケイタさんと一緒に村でベックルの死体を見た時は邪気を感じませんでした。もしかすると死後発動する時限式の悪魔化魔法がかかっていたのかもしれません」


「時限式? そんな魔法まであるんですか」


「ええ、なんにせよ用心してください」


そのままゆっくりとナギは降下していく。そこには原っぱのど真ん中に木々の生い茂る場所がポツンと残っていた。ナギの後を追い、ケイタは木々をかき分けて地面に降り立つ


「感じますか? この不快な気配を」


そういわれてケイタは初めて意識する。確かにこの木々の生い茂るスペースに近づいた時から居心地の悪い空気が漂っているような気がした


「言われてみれば…これが邪気ですか?」


「そうです、あちらの方から流れているので行きましょう」


「了解です」


そして草木をかき分けて少し進んだ先に"それ"はあった。落下の影響か葉っぱと髪の毛がぐちゃぐちゃに絡まった物体の中からベックルが不気味な死に顔をのぞかせていたのだった

警戒し、少しずつ距離を詰めるが特に反応はない。やがて少し手を伸ばせば届く距離までたどり着くがやはり頭部が動き出すような気配はなく、ケイタは髪の毛をつまんで頭部を持ち上げる


「うへぇ」


「やはり邪気を放っていますが反応はありませんね。悪魔化が進行する前だったのか…?」


その瞬間、まさに一瞬きの間に、ベックルの目が見開き口から異常に伸びた舌がケイタの左目を突き刺す


「うああああぁあああああぁ!」


たまらず持っていたベックルの頭部を投げ捨て左目を抑えて倒れこむ


「ケイタさん!? 大丈夫ですか!」


「ふはははははは! バカがっ、かかりおったな!」


見れば首だけだったベックルが、ブクブクと音を立てながらまるで種子から芽が出るように大きくなっていた


「くくく、まさかノコノコと邪気をたどってこの私の首を取りに来るとは、辛抱強く待った甲斐があったというもの。抵抗はあったがやはりあの方から聖獣の力を授けていただいて正解だった。クソガキめぇ…この間はよくも不意打ちで雷撃などかけてくれよったな! 簡単には死なせん、なぶり殺しにしてくれるわぁ!」


激昂するベックルの体はいつの間にか見上げるほどの巨体となり、それはゴツゴツと醜悪な皮膚に長い爪を備えた悪魔と呼ぶにふさわしい外見が出来上がっていた


「ケイタさん走って!」


「うおおおらあぁあああああ!」


ベックルの振り下ろした腕は間一髪でケイタの懐をすり抜け樹木を粉砕する。真っ二つに折れた丸太が轟音を立てて吹き飛んでいく様は、その凶悪なまでの暴力とそれを体で受けた先にある末路を示していた

ケイタは考えるまでもなく背を向けて走る


「逃げるなあぁぁぁぁ!」


腹まで響く雄たけびを背に受けてケイタは一層逃げる足を速める。藪を突き破り樹木を乗り越え、たどり着いた先にあったのは一面の野原。逃げてる間に木々の生い茂った空間を抜けて出たのだ

ケイタは再び空へ飛びあがろうと魔力に意識を集中させる


「待ってケイタさん」


いつのまにか目の前に立っていたナギに制止される


「いいですか、この先の冒険ではあんな化け物がしょっちゅう出てくるのです。今ここで逃げては一体いつ立ち向かうというのですか? あなたはこの世界の救世主になるのですよ」


ナギの言葉の意味にケイタは青ざめる


「あ、あれと、あれと戦えって言うんですか! さっき倒した犬みたいなやつとはわけが違いますよ! ゾ、ゾウよりデカい生き物なんて俺は見たことないんですから!」


そうこうしてる間にもベックルの木々をなぎ倒す音がケイタに迫ってくる。図体が幸いしてこちらにやってくるのが遅れているようだったがそれもいつまでもつか、ケイタは追い詰められていた


「落ち着いて、あなたはまだ自分の力を知らないだけ。きちんと力を使えば確実に勝てる相手です。奴も図体ばかり大きいだけで実際の魔力は大したことありません。外見の迫力に惑わされず冷静に、敵を見て、己を理解すれば勝てる相手だとわかるはずです」


それでも、本当にそうだろうかとあの木々を粉砕した腕力を思い出してしまう。だが確かに巨体に変身を遂げても生首だったころと感じる邪気に大した差は無かった。恐怖と勇気がせめぎ合う中、震える手で背中のサーベルを握りしめる


「…わかりました」


「いいですか! 奴は図体だけのザコ。現にあなたは奴を一度殺してる、恐れるに足らないのです!」


意識を集中させ、体の奥に眠っていた魔力を叩き起こす。出し惜しみなしの全力の魔力が、ナギの力強い言葉と共にケイタの全身を駆け巡り、そして…震えが止まった


「我が戦士にして世の救世主ケイタよ! 今だけは慈悲女神の名を忘れ、悪魔すら恐怖する凄惨な暴力で邪悪を滅するのです!」


ケイタの魔力は絶頂を迎える。圧倒的な力に裏打ちされた自信が恐怖を嗜虐心へと変え、それを感じ取ったありとあらゆる生物が彼の周囲から離れようと逃げまどう。ただ一体を除いて


「うおおおおいたぞおおおおぉ!」


夏の虫が火に巻かれようとしていた


空を切る音と共にケイタの姿が掻き消え、その瞬間ベックルの巨体が人形のように宙を舞った

あらぬ方向へと曲がった手足を振り回しながら散々に樹木に激突した後、ようやく勢いを殺し着地したベックルは力なく巨体を地に転がした。気づけば進んできた道を一瞬で引き返していた


折れた左腕と動かない右足を庇いながらベックルはゆっくりと立ち上がり、自分の身に何が起こったのか考える。追っていた筈の男に何故重傷を負わされたのか、どこにあんな力を隠し持っていたのか、そもそも奴は何者なのか。

答えが出るよりも速くケイタの追撃が来る


「ウォォォォォ!!!!」


苦痛の混じった鈍い雄たけびに合わせて、真上から大振りのこぶしが高速で突入してきたケイタの頭上に降ろされる。が、次の瞬間には深々とめり込んだケイタのサーベルによって醜く分厚いこぶしの皮から真っ赤な血肉がむき出しになっていた


「ヒッ」


酷い傷跡に怯えの混じった声が漏れ、突き刺さったサーベルを抜こうとした時、やっとベックルはケイタの姿を見失ったことに気が付く


バンッと肉がぶつかり合ったとは思えない音が響く。ケイタの飛び蹴りがベックルの腰に直撃しエビ反りに折れ曲がったまま宙を舞った。すさまじい勢いで木々をなぎ倒し飛んでいく様は初撃の比ではなく、そのまま原っぱまで突き破ったベックルはごろごろと力なく転がる。もはや立ち上がる力すら残っていないにもかかわらず上空から情け容赦のない追撃が襲う


「ヤメ…」


ケイタの止めの一撃、急降下からの踏みつけが頭部に炸裂し悪魔の頑強な頭骨が音を立てて割れる

その後、ベックルは完全に沈黙し動き出すことは二度と無かった


ケイタは動かなくなったベックルの巨体から降りて汗をぬぐうとその死体をまじまじと観察する

そこへナギがあっけにとられたような顔で隣へ降りてきた


「ケイタさん…想像以上ですよこれは」


「がむしゃらでしたけど、意外にあっさり倒せましたね…どんなもんです?」


「ここまで圧倒的な勝負になるとは思ってませんでした。正直骨折ぐらいはするかなと思ったんですがまさか無傷とは」


「…」


「ほらほらそんな顔しないで。勝ったんだから良いじゃないですか結果オーライって感じで」


「はぁ、で。こいつはどうするんですか? 賞金首拾って換金するはずだったのに、これは誰が見てもベックルだなんてわかりませんよ」


ケイタはボロボロになったベックルの巨体を見上げる


「んーそうですね、じゃあこれそのまま都に持っていっちゃいましょうか」


「ええ? こんなもん持ってってどうするんです?」


「そりゃ凱旋するんですよ。悪魔は女神を信仰するすべての人々の脅威、それを一人で屠ったとなれば一躍有名人になること間違いなし! 勇者ケイタの華々しいデビューってわけです」


「おお! それなら目標に近づきますね。借金もチャラになるかな? とりあえず、頭を切り取っていきますか」


「全身のほうがいいのでは? そのほうが迫力があるでしょう」


「それもそうですか」


ケイタはベックルの胴体の下に潜り込むと魔法でその巨体ごと宙に浮いた


「都の方角はあちらです。さぁ行きますよ、人々の歓声があなたを待ってるんです」


日も昇り始め爽やかな朝日が降り注いでいた

ケイタはナギの指し示す方へと向かって飛び続ける






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