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第6話 魔物退治

続きです

ケイタは都の入り口である門の前に立っていた。ここでアルネと待ち合わせた後、近くの森へ初仕事に行く約束を事前にしていたからだ


「女神様、ほんとに彼女を信用してよかったんでしょうか」


「心配無用ですよ。もし彼女が邪神の眷属であれば私が一目見ればすぐにわかりますので。単に仲間を探していただけでしょう」


ふと、ケイタは前から抱えていた疑問を尋ねる


「そういえば、魔物っていったい何なんですか?」


「それは…彼女との会話のネタにした方がいいんじゃないでしょうか」


丁度その時、門の向こうから駆け足でアルネがこちらへやってくる


「お待たせ、はい。これ持ってきたから使って」


そういって手渡されたのは刃渡り1メートルほどはあろうかという大きなサーベルだった。両手にずっしりとした重みを感じ、鞘をずらすと鋭く光る刀身がレプリカでない本物の真剣であることを現していた


「ありがとう、助かるよ」


「あたしが使わなくなった奴だから良いのよ。でもこれは貸しにしとくから」


アルネの悪戯な笑みがケイタに向けられる。二人は横並びに森へと続く街道を歩き始めた


________________


「あのさ、魔物ってどういう生き物なのかな?」


ケイタのその言葉に、アルネはあからさまにあきれ返ったような態度をとる


「そんなことも知らなかったの!? なーんか緊張感がないと思ったら、魔物が何かも知らないなんて。あんたの国に魔物はいなかったの?」


「いや…悪かったな世間知らずで」


仕方ない、といった態度でアルネは魔物について語り始める


今から千年以上も前、邪神対女神の大戦争が起こった際邪神が世界中に解き放った悪魔、それが世代交代を経ていったなれの果てが現在の魔物なのだという。大戦争から千年以上たった現在でも以前根絶はできておらず、世界各地に住み着き自らの本能に従って人々に対して殺戮や略奪を繰り返しているそうだ。悪魔と魔物の根本的な違いはその繁殖力の強さであり、悪魔は邪神によって直接想像されて巨大な体躯と人間にも劣らない知性を備えているが、魔物は体も人と比べてそれほど大きくなく知能も犬以下だが繁殖力が強く根絶が難しいのだという


「まぁでも、そいつらのおかげで私たちの仕事があるんだけどね」


のんきに語るアルネ。ふとケイタは疑問に思う。地球でも猟師のような似た仕事はあったが、猟銃もなければ自分以外に仲間もいなさそうなアルネがどうやって一人で危険な動物を仕留めているのか


「なぁ、その仕事ってずっと一人で続けてたのか?」


「ん? うん…まぁね」


なにかバツが悪そうな、触れられたくない話題に突入したとき特有のそっけない態度をケイタは感じ取っていた


「でも私が一人でも戦えるのは、女神さまが下さった権能のおかげよ」


自身を取り戻したかのようにアルネは誇らしげに語る


「いうまでもないけど、人間にあって魔物にない一番の強みが魔法を操る権能の力を持ってることだから。これさえあればここら辺の低級の魔物なんて怖くないわ」


そういってアルネがパチンと指を鳴らすと同時に、指先からパっと火花が散る。その力はケイタが村で見たベックルのもの若干似ていた


「質問はもう終わり? なら早く行くわよ。日が暮れるまでには森につかなきゃ」


速足で歩くアルネの後を、送れぬよう追いかける。


それからどれほど歩いただろうか。見慣れた原っぱも目的地に近づくにつれて少しずつ移り変わる。今ケイタの目の前にあるのはそびえたつ黒く背の高い木々とその下にポツンと建っていた小屋だった


「あそこが目的地よ」


アルネが小屋に近づくとドンドンと小屋の扉をたたく


「ごめんくださーい。おじさんいる?」


アルネの呼びかけに答えて出てきたのは白い髭と髪を蓄えた老人だった


「ああ、お嬢ちゃんかい、よく来たね」


そう言った老人にアルネは自分が背負っていた荷物を預ける。ここはこの森の管理人の住む小屋なのだろうか


「いつもすまんな、ワシがもう少し若ければ…」


「いいのよ無理しないで」


すると老人はちらりとこちらを見るとにこりと笑い、アルネに耳打ちする。アルネはそれを聞いて取り乱したような反応をしていた。少し後ろの方で待機していたので何を言ったのかはよくわからなかったが、アルネはそそくさとこちらに戻ってくる


「い、行くわよ!」


訳も分からず彼女の後を追う。その後しばらくは無言で森の中を歩き続けた。原っぱを歩いていた時とは違い生い茂る草木が日光と視界を遮り、妙な静けさがケイタの緊張感を高めていた。すると突然アルネが立ち止まって地面にしゃがみ込む。何事かと見つめるとアルネが地面に指をさしていった


「これ見て、魔物の痕跡よ」


アルネが示したところには手のひらより少し大きいぐらいの足跡がくっきりと残っていた。それも複数


「これも何かの魔物なのか?」


「そう、これは腐喰ね。二本足で歩く口の大きな魔物で普段は3,4匹の群れを作ってるの。死体を漁るのが基本だけどこっちが弱っていたり、逆に追い詰められたりするととびかかって噛みついてくるから注意して。奴の歯は鋭くて、油断してると腕をズタズタにされるから」


「わかった」


アルネは足跡をたどるように静かに歩き出す。それに従い、ケイタも彼女の後ろを静かに追ってさらに森の奥深くへと進んで行く。鬱蒼とした森の中でどれほどの時間を過ごしただろうか。微かに見える日光は森に入ったときからそれほど傾いてるようには見えなかったが、焦りと緊張がそれ以上の時間を感じさせていた


「…いた」


すぐそばにいて聞こえるか聞こえないかギリギリの声で耳打ちし身を屈めたアルネに、ケイタも慌てて追従し彼女の指さす方向を覗く。そこにいたのは大きな動物の死骸に頭を突っ込んで一心不乱に内蔵を貪る、二本足で歩くハイエナのような生き物が4匹。死体を囲むように群れているのが見えた

木々や草陰に身を隠し素早く距離を詰めるアルネに、ケイタは四つん這いになってついていくのがやっとだった。その姿がはっきりと認識できる距離まで近づいたところでアルネは再び立ち止まった。そして顔を近づけてささやく


「いい? まず私が群れに突入して奴らをこっちに追い立てるから、あなたはここで逃げてきた奴らを迎え撃って」


その答えに、ケイタは黙って頷く

腐喰の群れに向き直ったアルネはゆっくりと剣を引き抜き、しばらくの間群れの様子を眺めていた。動かず、音も無く、張りつめた緊張だけがその場を支配していた


次の瞬間、アルネは一気に駆け出し剣を振りかぶって群れの中に突入する。動揺し背を向けて逃げ出そうとする腐喰を背後から切りつけ、一匹が力なく地に崩れた

動揺する群れの仲間がアルネから距離を取り、鋭い歯をむき出しにして威嚇する。しかしそれに全く臆することなくアルネは剣を正眼に構えた


「”火剣”」


そうつぶやいた瞬間、アルネの手に握られた剣が松明のように明るく燃えだした。腐喰達の様子の変わり方は明らかだった。怒りに満ち溢れた表情からは一瞬で力が抜け、代わりにおびえるように背を向けて走り出す。その先にいたのは草陰で待ち構えているケイタだった

覚悟を決め、預かっていたサーベルを鞘から引き抜くとケイタは向かってくる獲物を見つめる。一瞬だけ、向こうと目が合ったような気がした。その瞬間藪から飛び出しサーベルを振りかぶって駆け抜ける。驚き慌てて引き返そうとする腐喰の頭に躊躇なく振りかぶったサーベルを力任せに叩きつけた


ダンッ、という音と感触を残して胴体から切り離された腐喰の首が宙を舞った。人形のように転がった死体が非現実的な雰囲気を醸し出していたが、肉と骨を断ち切った言いようのない感触と刀身にこびりついた鮮血がこれが現実であることを示していた


「グァッ!」


のぼせた頭に冷や水を掛けるように吠え声が響いた。瞬間、黒い影が左腕に飛びつき鈍い痛みが走る。目に飛び込んできたのは、自らの腕の肉を引きちぎらんと歯を立ててこちらを睨む腐喰の姿だった。血の気が引き、思考を挟む間もなくケイタは持っていたサーベルの柄を腐喰の頭にたたきつける。

力任せに放った一撃は、形容しがたい感触と共に腐喰の頭を醜く変形させた。そのままの勢いで地面に激突した肉塊は激しく痙攣しながらのた打ち回り、やがて動かなくなる。足を延ばして死体を蹴飛ばすが、二度と動き出すことはなかった。

ケイタはようやく安堵し、袖をまくって腐喰に噛まれた箇所を確認するが歯形が残っているだけで目立った傷は無かった。そこへアルネがやってくる


「へぇ、二体も倒すなんてやるじゃない。ケガもないみたいだし」


「はは、まぁね」


まくった袖を戻しサーベルを鞘に納める


「でも腕かまれた時は血の気が引いたよ」


「噛まれた…? 頑丈な体してるのね…」


おかしな物を見るような目でケイタを一瞥した後、アルネは転がっていた腐喰の死骸に近づくと持っていたナイフでそれを解体し始めた。慣れた手つきで作業を進めるのを眺めているとアルネがこちらを振り返る


「なにやってんの? あなたも手伝って」


「え? 俺も?」


慣れない手つきで四匹分の死骸の解体を手伝うケイタ。牙、爪、そして毛皮の分離が終わり、それぞれが二つの袋にまとまっていた


「はいこれ。あなたの分ね」


そうして渡されたのは集めた戦利品が詰まった袋の内の片方だった


「こんなに? いいのか?」


「当然でしょ。あなたが倒した分なんだから」


受け取った袋と一緒にサーベルを肩に担ぎ、ケイタは身支度を終わらせる。日が落ち辺りは薄暗くなり始めていた。


「急いで小屋まで戻りましょ。夜になるとこの辺りは狂暴な魔物が出るから」


「わかった」


「…剣の持ち方すら碌に知らなかったわりに、なかなかやるじゃない。これからもよろしくね」


「ああ、こっちこそよろしく」


薄暗く静けさが立ち込める森の中、二人は並んできた道を戻る。アルネの灯す炎の明かりを頼りに細く足場の悪い林道を進んでいき、完全に森が暗闇に包まれたころになってやっと最初に尋ねた小屋まで戻ってきたのだった。

アルネが小屋の扉を開くが中には誰もいない


「あぁ、あのおじさんは近くの村に住んでて夜になると帰っちゃうの。もう年だし最近は危険な魔物も多いから。今日はここで寝泊まりしましょ」


「へー、わかったよ」


「ねぇ、二人っきりになったからって変なこと考えないでよ」


「いや…そんなに信用されてないのか?」


「冗談よ」


そういう割に目が真剣だったようにケイタは思う、実際ここで襲い掛かったらどっちが勝つんだろうか、などと、変な妄想をしながら簡素な寝床にてケイタは眠りについた_______





ドン、ドン


と、強めに肩を叩かれケイタは眠りから覚める。振り返った先にいたのはナギだった


「ケイタさん起きてください」


「はぁ…なんですかこんな時間に」


薄暗い部屋の中で目をこすりながら何とか体を起こす


「ベックルの首の場所がわかりましたよ」


「あぁそういえば首を探してたんでしたっけ」


「そうですよ、あなたがデートしてる間もずーとめぼしいところを飛び回って探してたんですから。で、ついにみつけたってわけです」


「それで? ああ、もしかして今から」


「はい、回収しに行くんです。幸いここから遠い場所にあるわけではありませんから」


嫌な予感が的中し憂鬱になる。一瞬耳をふさいで横になりたい衝動に駆られるが、なんとかこらえる


「はぁ、ならしょうがな…」


「飛んでいけば、ですけどね」


その一言でケイタのトラウマが蘇る


「へぇ!? また飛んでいくんですか、嫌ですよ! そもそも魔封じの足枷が…」


そういわれて初めて足首の圧迫感がないことに気が付く


「それならケイタさんが寝てる間に私が魔法を解いて外しておきましたよ。厄介な魔法じゃなくて幸いでしたね。感謝してください」


「は、はぁ。でも…」


「ケイタさん、まさかビビってます? はぁーあ世界を救う勇者が高所恐怖症なんてみっともないですね。腹くくってくださいよ」


ケイタはうんざりするようなため息をつき、重い腰をゆっくり上げると寝ているアルネを起こさないように跨いで小屋をでる。外はまだまだ暗く日が出るような気配は無かったが、涼しげな風が心地よく夜空には満月が輝いていた

意識を統一し、魔力を体にみなぎらせゆっくりと慎重に体を浮かせる


「できるじゃないですか。今度は慎重に、ゆっくり行きますよ」


「ですね、行きましょうか」


アルネと歩いた高大な森林を上から見下ろしながら、ケイタは飛んでいくナギの後をついていくのだった


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