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第4話 前途多難

続きです

村を出てからしばらく歩いたころ、藪を続くけもの道は途切れ、代わりに大きな石畳の街道が姿を現す。


「えっと、確か都が山を越えた先って言ってたので、こっちに歩いていけばいいですね!」


うきうきで前を進むナギにケイタは尋ねた


「女神様、都へ行く途中でこの世界の秘密について教えてくれるって言ってましたよね? そろそろ話してくださいよ」


ナギはピタリと動きを止め、素早く周囲を見渡す


「おっと、そういえばそうでしたね。うーん何から話しましょうか…とりあえず我々の目標から話すのが無難ですかね」


そういってナギはふわりと宙に浮くと反転してこちらを向いた


「ここに来る前に、ケイタさんには異世界で救世主になっていただきたいというお話はしましたよね?正確に言うと、我々の究極の目標は邪神及び配下の邪神教徒達を排除しこの世界に私率いる女神教の威光を取り戻すことにあります」


女神教というのは初耳だが、邪神なるものにケイタは聞き覚えがあった


「邪神教徒? そういえば村を襲ってきた賊も邪神教徒なんでしたっけ」


「村長の話が正しければそうなりますね。恐らくあのような邪神教徒達が世界中でテロや殺人、略奪などを繰り返しているのでしょう」


「そ、そんなことを?」


「えぇ。そして彼らが崇めている神こそが、我々が倒さなければならない相手、邪神ティムライなわけです」


まともな相手じゃないことはわかっていたがスケールの大きい話にケイタはたじろぐ


「…邪神、ティムライですか。倒せっていいますけど、僕なんか魔法使ってどうにか賊を倒せるかってレベルなのに邪神なんて強そうな相手戦えったってどうしようもないですよ?」


「何もいきなり倒せとは言いませんよ。奴は手ごわいですから。ここから遥か北方に拠点を構えそこで受肉し、着々と軍勢を揃えているようなので、まずは我々も準備しなければいけません。今やらなければいけないのは力と、名声と、仲間を集めることです。魔法と剣術の鍛錬を積み、邪教徒を倒して人々の注目を集め、そして共に戦う仲間を探すのです!」


「なんだか…気の遠くなりそうな作戦ですね」


ケイタは若干弱気になり始めていた。新しい、第二の素晴らしい人生が待っているのだと甘い誘い文句に頷いてしまったが、いざ話を聞いてみればケイタが想像していたよりも事は重大で深刻だった

だが今更どうにもならない、来てしまったからには世界を救うしかないのだ。それに…


(家へ戻るよりもまだこっちのほうがマシかもな)


そんな気さえしていた


「あまり気負いしないでくださいね。幸いにもティムライはまだそれほど力をつけてはいないようですし、それに転移初日で邪教徒の首を取るなんて、ケイタさんの働きは私の期待以上ですから!」


「そうなんですか? ならいいんですけど…でもどうして邪教徒達は好き好んでテロや略奪をするんですか? 悪いことをするにしても何かしらの理由があると思うんですけど」


ナギは少しうつむきがちになると考えこむ。少しの間沈黙が流れ、再び顔を上げると言った


「そうですね。それを話すと長くなりますが、ケイタさんには教えておいた方がいいでしょう。…まず私たち高次元知性体、人間には女神とよばれていますが…私たちは人間の"祈り"からエネルギーを得ることで生きながらえています」


「こ、高次元知性体? 祈りからエネルギー? どういうことですか?」


「人間が想像するのは難しいかもしれませんね。まず、生命は知らず知らずのうちに大地からのエネルギーを吸収する力を持っていて、このエネルギーは他者を強く思うことでその相手と自分のエネルギーの容量を共有できるという特徴をもっているのです。高次元知性体はその性質を利用し、人間が私たちに強く祈ることで共有させたエネルギーから…ほんの少し、気持ちだけをいただいてる訳です」


「…つまりそれって」


一瞬これを言ってもいいものかと迷うが、真実を知る人類代表として言っておかねばならないと決心した


「僕ら人間のエネルギーをネコババしてるんですよね?」


「ちょ、ちょっと! そんな人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!」


「いや、だって事実でしょ! いやまったく恐ろしいですね人の知らないところで生命エネルギーを吸い取ってるだなんて。まぁ僕は神様とか信じてないんで大丈夫ですけど」


「む、無神論なんてひどい! じゃ、じゃあ言いますけどケイタさんは今までほんとに一度も神に祈ったことがないんですか? …受験の合格発表の時とか。あぁ、神様! 僕の人生が懸かってるんです、なんとかしてください!…とか。一生に一回くらい思ったことがあるんじゃないですか?」


「うっ いやそれは…」


「ふふん、そりゃあそうですよね。だって祈りは精神の安定を得ようとする人間の本能ですから。それに、私だって一方的に人間から搾取してるわけじゃありませんよ? ちゃんと人間に尊敬されるように豊穣を約束したり、災害からまもったり…私だっていろいろ仕事してるんですよ!」


「わ、わかりましたよ。僕が悪かったですって…」


むすっとしながら顔を近づけていたナギまた冷静な顔に戻る


「…おっと、話が逸れてしまいましたね。しかしながら、ティムライのやり方は私とは異なります」


「何がどう違うんですか?」


「私は人間に利益を与えることで信仰を得ていますが、邪神はその逆、つまり人間たちを恐怖によって支配し崇めさせているんです。災害、疫病、戦乱など人の力ではどうしようもない危機に瀕したときにも神にすがろうという意識が高まりますから。確かに人口の調節などで限定的に人間を追い詰めることはあっても、邪神がやっていることは明らかに度が過ぎています。邪教では人間が富と幸福を得ることは罪で地獄で罰せられると教えられているんです」


「は!? そんな無茶苦茶な、人間は幸せになっちゃいけないっていうんですか!?」


「邪教徒達はそう考えています。人類に災いが起こるのは、富や幸福を得て増長している人間たちに邪神が怒っているから。邪神の許しを得るには神に祈りを捧げながら質素な生活を送り、同時に富や幸福を得ている人間を邪神の代わりに罰してやらなければいけない。そういった考えの元、彼らは豊かな村を襲ったり商人の家を焼き討ちしたり、果ては貴族の殺害をたくらんだりするのです」


「ど、どうしてそんな無茶苦茶な思想が流行るんですか? 誰だって富と幸福が得られるならそれに越したことはないでしょう。邪教徒はどうして自分の生活を縛ってまで他人を不幸にしようとするんですか?」


「それはティムライの戦略のせいです。主に邪教を信仰してるのは災害や飢饉で生まれた貧民な訳です。失うものもなく、日々飢えと戦っている人々を狙い、"お前たちが貧しいのは食料をため込む隣人のせいだ。税をため込む貴族のせいだ。あいつらがいる限りお前たちは貧しいまま、神の怒りも収まらない。奴らへの懲罰こそ神の意思だ" そう吹き込んで貧しい人々の負の感情を煽っているのです」


「とんでもないやつですね…」


「なんで邪神って呼ばれるか分かったでしょう? だからこそ私たちの手で止めるのです」


そう。邪神を倒して世界を救うという条件でこの世界にやってきた以上、これはケイタ自身が何とかしなければいけない問題なのだ。人々の幸福はケイタに掛かっていると言っても過言では無い

(そうだ…俺がやらなきゃいけないんだ…)

自分にのしかかる責任の重さを痛感し、ケイタは戸惑う

二人の間に流れる重苦しい空気を察したのか、ナギは慌てて話しかけてくる


「な、なにも今すぐに戦うってわけでは無いですよ! ケイタさんもこれから修行すればもっとつよくなりますし、それに私のサポートもありますからね!…さぁ、重たい話はこれくらいでいいでしょう。今度は魔法についてでも話しますか」


「そうですね、そっちの話のほうが気が楽そうです」


「わかりました。まず魔法というのはさきほども話した"エネルギー"を使って行われます。人間たちは"魔力"って呼んでるみたいですけど。これは宇宙で起こるあらゆる現象を再現できる程万能で、私のような高次元知性体の存在を維持できる程の莫大な力がありますが、通常人間では扱うことができません。ただし、私が"権能"を与えた人間は別です。この世界で魔法が使える人間はみな私が与えた権能を使って、自分が保有してる魔力分だけ魔法を使うことができます」


「なるほど…あれ? じゃあ僕はいつ権能とやらを貰ってたんですか?」


「最初に私の白い世界に来た時にはもう権能を付与していましたよ。権能の使い方は今までで大体理解できましたか?」


「いや、実は賊を追い払った時どういう感じで魔法を使ったか覚えてないんですよ。頭がのぼせるような感覚がして、気づいたら勝手に雷を落とせるようになってたので。その前にちゃんと念じて魔法を起こそうとしたときはうまくいきませんでした」


「なるほど、まぁ最初から魔法を使いこなせるはずもありませんよ。生まれてすぐ立てる赤ん坊はいませんし。おそらくただでさえ膨大なケイタさんの魔力に加え、権能の扱いが未熟だったせいで脳に負担がかかったのでしょう。もうだいぶ歩きましたし、ここらで休憩がてら魔法の練習と行きましょうか」


「いいですね。賛成です」


あたりを見渡し、たまたま近くに生えていた木の下に、背負っていた荷物と生首の入った麻袋を置くとケイタはその場であぐらをかいた。荷物の中をまさぐり、お目当ての水袋を見つけると蓋を外し中身を一気に喉へ注ぎ込む


「ぷはぁー」


ケイタが後ろの木を背もたれ代わりにしながら一息つくと、隣でナギも横座りになった


「ケイタさん準備はいいですか?」


「バッチリです。で、何からやるんですか?」


「では…最初白い世界で魔法を使った時のことを思い出してください。まずは右手で握り拳を作って、体中の見えない力が拳一点に集まってくるようイメージするんです」


「見えない力…? まぁ、やってみます」


ケイタは右の拳を力強く握り、念じる。やっていることは転移してすぐに稲妻を起こそうとした時と同じだった。始めは小さかったエネルギーの感触が、次第に大きく膨らんでくるのが右手を通して伝わってくる。ここまではさほど難しいことではない


「力が集まってる感じはあるんです。でもここからどうやって魔法を起こせばいいんですか?」


「焦らないで、そのままゆっくり目を閉じてみてください。右手に集まってくるエネルギーの流れに意識を集中させるんです」


「エネルギーの…流れですか」


ひとまず言われた通りに目を閉じ、今まで大雑把にしか把握してなかったエネルギーの正体に意識を向けてみる。

言われたことの意味がよく分からずにいたケイタであったが、集中を始めて少し経った頃、おぼろげだったエネルギーの輪郭が徐々に鮮明な力の流れへと変化していく。

拳から肘へ、肘から肩へ。不思議な力の流れの元を少しずつ辿っていくと、それは体中のありとあらゆる場所から、無数の小さな川が集まって大きな川になるようにしてケイタの拳まで伸びていた。これが、今まで漠然としか感じていなかった魔法をつかさどる力の正体だった


「ケイタさん、うまく感じ取れましたかね? ちゃんと成功すれば全身のエネルギー…もとい魔力の流れがよくわかると思うんですけど」 


「なるほど、なんか変な感じですね! 確かに不思議な力が全身を巡ってます」


「わかるでしょう? これが魔法の正体であり、ケイタさんの力の源なわけですね。じゃあ今度は体中の魔力の動きを意識しながらもっかい右手に力を集めてみましょう」


ケイタは再び目を閉じる。今度は全身をめぐる魔力の存在を意識しながら、その力を限界まで引き出し拳一点に誘導するよう試みた。

次の瞬間、まるで燃え上がる炎のように膨大な力がケイタの全身から湧き上がる。それは理性を失うほどの力で賊を殲滅した村での一件をさらに上回るほどの力であったが、前とは違い正気を失うようなことはなく、微かな高揚感でケイタ心は満たされていた


「ふふ…なるほど。これが俺の本当の力ってわけですか。いい気分ですね」


「ケ、ケイタさん!? いったい何ですかその凄まじい力は! 正気は保ててますか?」


「もちろん。で、魔法はどうやって使うんでしたっけ? ただイメージすればいいんですか?」


「そ、そうです。魔力を魔法に変換するには起こしたい現象のイメージが必要です。ただこれが難しくって…」


「じゃ、やってみます」


ケイタはそのままむくりと起き上がった


「あ、ちょっ」


「すーっ…ハァッ!」


威勢よく掛け声を放った次の瞬間、飛び込んできたのは視界を埋め尽くすほどの閃光。そして四方に枝分かれする光の幹。遅れて、周囲に爆音が鳴り響く


バゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!


聞くのは二度目にも関わらず、ケイタはその迫力に縮こまる。固く閉じた瞼の力を抜くと、飛び散る火の粉の向こう側で草木が派手に火柱を上げているのが見えた。


しまったと思い冷や汗が溢れるも、なぜか背中に熱を感じて後ろを振り返る。そこで大炎上していたのは、先ほどもたれかかっていた木と…革の背負い袋だった


「あ、あぁ!」


「もおおおおおおおケイタさん何やってるんですか!? 火よ消えろ! えい! えい! えい!」


ケイタは火だるまの革袋と無傷の麻袋を両手で掴み、街道の真ん中へと放り投げる。その後、ナギが飛び回って火を消し続けたおかげで大規模森林火災は免れたが、結局それなりの代償を払うことになる


――――――――――――――



「で、この真っ黒こげになった塊が、旅に必要な物資全てが入ったカバンなわけですか」


「はは…そうですね」


「もぅ! なにを笑ってるんですかケイタさん、これじゃ都までたどり着けないでしょう!? 今の状況理解してるんですか? 大ピンチなんですよ!?」


今までになく強い言葉で攻め立てられ、ケイタはしゅんとしてしまう


「調子に乗ってました…すいません」


「はぁ…魔力が急激に高まると普段より気分が高揚することがあります。その反動で後から猛烈なだるさに襲われますが…魔法使いたての初心者にありがちなことです。今回は多めに見ますが…にしても弱りましたね」


うなり声をあげながら腕を組み、しばらく考え込んでいたナギであったが、やがて何かを思いついたのかケイタのほうに向きなおる


「ケイタさん、まだ魔力は有り余ってますよね? だったらとっておきの魔法を教えましょう。この状況を打開する秘策ですよ」


「秘策? いったいどんな魔法なんですか?」


「飛行魔法です。どんなものかは想像つくでしょう」


にやりと笑みを浮かべるナギに対しケイタは少し気味の悪さを感じる


「あの、それって危ない奴じゃないですよね?」


「普通の人間がやると滅茶苦茶危ないし下手すりゃ死にますけど、私とケイタさんならノー問題…のはずです!」


「ほ、本当に大丈夫なんですか!? 信じていいんですか…ってちょっと!?」


いつの間にかケイタの背後を取ったナギは、華奢な見た目にそぐわぬ怪力でケイタの両脇をがっしりと羽交い絞めにする


「万が一失敗しても地球人は頑丈ですから、たぶん30mくらいなら落ちても無傷でいられますよ! 自分の体を信じましょう。というより、ほかに方法はありません。腹くくってください!」


ナギに言われ、ケイタはしぶしぶ覚悟を決める。元々自分が蒔いた種でこういう事態になったという負い目を少し感じていた


「わ、わかりましたよ。でも空を飛ぶなんてイメージしようがありませんよ?」


「その辺は大丈夫です。ケイタさん、まずは先ほどと同じように意識を集中させて魔力を集めてください。ただし今度は右手ではなく、両手両足で均等になるようにです」


いきなり出された新しい課題だったが、これは先ほどの応用ですんなりとクリアすることができた


「あら、あっさりできちゃいましたか。では今から私がケイタさんの魔力を操って飛行魔法を発動しますから、バランスを崩さないよう手足に力込めて踏ん張って下さい。何回か繰り返せばだんだんとコツをつかんでくるはずです」


「わかりました。じゃ、じゃあお願いします」


「では行きますよ…それっ!」


その時、ケイタは真下から強力な圧に押し上げられるような感覚とともに、一瞬にして空へと舞い上がった


「うわあああああ! あぁ!?」


それはまるで遊園地のアトラクションのようだった。恐る恐る下を見ると、それほど離れていない場所に先ほど立っていた黒焦げの木が見えた。高さは20mほどだろうか。見えない力に下から手足を支えられるようにしてケイタは宙に浮いていた


「おお、うまくいきましたね! この魔法は地面との反発する力を利用して浮いてるんです。下から手足を支えられてるのが分かるでしょう? じゃ、それを意識しながら次は前後に移動してみましょう!」


そういうとナギはまたしてもケイタの後ろに回る


「な、なにを」


「それっ!」


突如、短い掛け声とともにすさまじい力で正面に突き飛ばされる。繊細なバランスで宙に浮いていたケイタは当然のごとく制御を失い、ハチャメチャな方向に回転しながら地面に吸い込まれてゆく


(し、死ぬ!!)


「うわああああああああああああああああ」


もはやケイタは自分が向いてるのが上か下かもよくわからなかった。

極限まで追い込まれた結果、無理やり体の指揮権を奪った生存本能が出した結論は、先ほど得たばかりの地面と反発する力のイメージを実践することだった。それからは無我夢中で手足を動かし、落ちる体を上げては下げてを繰り返しながら、やっとの思いで宙にとどまることに成功する


「おお、やるじゃないですか!」


「はぁ!? やるじゃないですか、じゃないですよ! 僕を殺す気ですか!?」


「そ、そんなに怒らないでくださいよ。あれくらいの高さケイタさんなら落ちても死にませんし、それにライオンも崖から子供を突き落として成長させるっていうじゃないですか」


「いや、僕はライオンじゃないですから。やるにしたってまず一言くらい声かけるのが普通で…」


「いやぁーにしてもケイタさんは天才ですね! ほんの数十分で魔法の使い方だけでなく飛行の仕方まで習得してしまうなんて! 普通なら考えられないことですよ。正直私もケイタさんがここまで優秀だとは思っていませんでした! 私の予想を良い意味で覆してくる…さすが地球人、いやエリート地球人と呼ぶにふさわしい才能ですね!」


「そうですかね? いやぁははは」


普段人から褒められ慣れておらず、ましてやここまで露骨なおべっかなどケイタには生まれて初めての経験だった。すっかりいい気分になってしまったケイタにはほくそ笑むナギの顔は映らない


「ま、姿勢制御がある程度できるようになれば後は訳ないですよ。出力をちょちょいといじるだけで蝶のように空を舞えるはずです。あ、これを忘れないでください」


そう言うと、どこに隠し持っていたのか生首の入った麻袋をひょいとこちらに放り投げてくる。両手を伸ばしながらうまくバランスを取り、飛んできたものを胸に抱きかかえるが気持ちの悪い感触に耐えられずすぐ片手に持ち変える


「わ、わかりました。じゃあ少しだけ動いてみますね」


ケイタはうまく体重を移動させながら前へ、右へ、左へと自由に進んでゆく。認めたくはないが、先ほどの壮絶な経験が活かされているような気がした


自分はできる

その自信が、一時的に抑えていた魔力を徐々に覚醒させる


「すごいですよ! これが鳥の目線ですか、もっと速く飛べたりします?」


「ええ、もちろんですよ。魔法を使う上で重要なのは魔力の覚醒と、起こしたい事象のイメージです。この2つ次第でどこまでも速く飛ぶことができます」


「わかりました。すぅー…」


ケイタは深く息を吸い、自分の体に眠るありったけの魔力を覚醒させる

全身にみなぎる力と比例して徐々に高揚感が思考を支配して行くのだった


「あの、ケイタさん魔力が多すぎやしませんか? だ、大丈夫ですか?」


「さぁ? 大丈夫じゃないですか。それより速く都へ向かいましょう!」


「え、えぇ。そうですね」


しかし、いざ出発というところでケイタは悩む。


(うーんイメージかぁ…でも何を思い浮かべればいいんだろうな。空飛ぶもので、とびっきり速いのは…)


その時、ふとある記憶がよみがえった


(ああ、あれ、自衛隊の演習見に行った時だったっけな。あれは速かったなー)


イメージも固まり、ケイタは覚醒した魔力を魔法として開放する


(戦闘機…)





バァァァァン!


「はっ!?」


瞬間、爆音が轟き、衝撃波が周囲の木々を吹き飛ばす。


ちりじりになった木の葉が降り注ぐ中、その場で呆然と立ち尽くすナギは、はるか彼方へ飛んで行く小さな飛翔体を見つめていた


「け、ケイタさああああああああああああん!!!!」


ナギの声もむなしく、音速の人型飛翔体がただまっすぐ地平線の先へと消えてゆくのであった




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