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第13話 鍛錬

後日、ケイタはマンゼンと共に鍛錬のため王都近郊の人気のない森林に来ていた


「…信じがたい」


青ざめた顔でマンゼンがつぶやく

目の前にはケイタによって叩ききられた樹木が広範囲にわたって散らばっており、その光景はさながら竜巻が通った後のようだった


「これくらいなら朝飯前ですよ。どうです? 俺の剣術は」


「確かに大した力だ…はっきり言って人間にできることの範疇を超えているので私には何とも評価しがたい。さすがは女神さまがお選びになられた救世主、ケイタ殿一人で邪神を討伐すると言う女神様のお考えも分かる…しかしあれは剣術というよりも、圧倒的な腕力に任せ剣を叩きつけているような印象を受ける。剣を見せてもらえるか?」


「どうぞ」


ケイタは鞘に納めていたサーベルを抜きマンゼンに柄を手渡す


「うむ、使用者の魔力に応じて耐久力が向上する魔法が込められているな。安物ではないようだがこの得物ではケイタ殿の力に耐えられまい。既に刃こぼれも酷い上に刀身も歪んでいる。早急に新しいものを用意しなければ、この得物は長くはもたないだろう」


「そっか…まぁ結構乱暴に扱ってたせいですかね。これって新しいのを王様に買ってもらったりできます?」


「もちろん、王都一の武器工房を紹介しよう。陛下には私が話をつけておくので心配はいらないぞ」


「助かります。ぜひよろしくお願いします」


「…一つ助言をするならば、ケイタ殿の腕力ならば剣やサーベルのような繊細な武器ではなく、もっと乱暴に叩きつけるような物が適しているかもな。例えば斧のような」


そういわれると確かに納得がいった。武器に合わせて自分の持ち味である圧倒的な腕力を抑えるくらいなら、いっそ自分の腕力に耐えられるだけの武器を作ってしまえばいいと言うのはケイタのやり方に合っているような気がした


「なるほど…参考にします。今度は魔法の使い方も教えてもらえますか」


「構わないとも。あの底なしの魔力で魔法を放つとどうなるのか私も興味がある。今までに全力で魔力で魔法を使ったことはあるか?」


ケイタは過去の出来事を思い出す。最初に魔法を放ったのはベックルと遭遇した時だったがあれは感情に任せて放ったものでたまたまうまくいったに過ぎず、その後ベックルと再戦したときは身体能力で圧倒できたので魔法は使わなかった。ケイタは魔力の暴走で王都まで吹き飛んだ時のことで若干トラウマを抱えていた


「何度かありますが、実戦で使ったことは無いですね。戦うときは大抵身体能力に頼ってます。魔法は上手く制御しないと面倒なことになるんで…」


「それは実にもったいないな! ケイタ殿の魔力であれば想像を絶するような魔法を放てるだろう…どうだろう? 試しに今持てる魔力すべてを使ってあの崖に炎魔法を放ってみてはくれないか?」


マンゼンが指さした先は高さ十数メートルはありそうな崖だった


「いいんですかこんなところで?」


「まぁ大丈夫だろう。ここは王都からも離れているし周囲に農村もない。私は魔力の壁にこもっているので全力の魔法を放ってくれて構わない」


マンゼンの後押しを経てケイタは崖の方を向いて魔力を高め始める。これまでに幾度となく魔法を使用した経験から、ケイタの魔力操作の精度は転移した直後と比べて格段に向上していた


安定した状態を保ったま急速に魔力が上昇していく。濃密さを増した力に大気が震え、危機を感じ取った鳥や動物たちが慌ててケイタの周辺から逃げ出し始めた

マンゼンは次第に青ざめ出す。人の限界をあっという間に超越し、それでも留まることをしらずケイタの魔力は高まり続けていた


そしてついに限界を迎え魔力の上昇が打ち止めとなったとき、周囲にはマンゼンほどの実力者でさえ居心地が悪くなるほどの、叩きつけるような魔力の圧がケイタを中心に放たれていた


「ふぅ…これが今の俺の限界です。ところで炎魔法ってのはどうやって放つんでしょうか?」


「あ、あぁ?…炎魔法の使い方を知らないのか?」


「ええ。雷と空飛ぶ奴はできるんですけどそれ以外はまだ習ってないんで」


「不思議なものだな、基礎の基礎たる炎の権能を行使できぬのに雷と空間の権能を行使できるとは…これも女神さまの寵愛の結果なのか? まあいい。炎の権能は文字通り炎の魔法の系統であり、使い方は炎をイメージするだけだ。実物を見たほうがやりやすいなら見せてやろう」


そういってマンゼンが近くにある木に向けて手をかざした瞬間、まるで爆ぜるように木が燃え上がった


「そんなに難しくなさそうですね。じゃあやってみます」


「うむ…私は離れたところから見ていよう」


遠ざかっていくマンゼンを見送り、ケイタは魔法の標的となる崖を見据えていた。全身に巡る魔力に意識を集中させ頭の中に先ほどの燃え上がる炎と熱のイメージを創る。はっきりとしたイメージが固まり、ケイタは崖に向かって手をかざすと自身の体内に込められた膨大な魔力をすべて解放した





ドオオオオォォォォン!






爆音がこだまし衝撃波が森林を駆け抜けた

叩きつけるような爆風を耐え抜いたものの、周囲には焼け焦げた匂いと熱が充満している。そっと目を開け、空高く樹木の残骸をまき散らしながらゆっくり登っていく赤黒いキノコ雲を、ケイタは混乱した頭でただじっと見つめていた


周りを見渡すが先ほどまで目の前にあった崖も、森林もどこにもなく、目の前のクレーターを中心として一帯に焼野原が広がっている。惨憺たる光景を眺め、ふとケイタはマンゼンの安否が頭をよぎった


「おーいマンゼンさん! どこにいますかー!?」


ケイタの問いかけにも返事は無い。飛行魔法を発動し辺りを飛び回ってマンゼンの姿を探していると、そう遠くない場所で魔力の反応があった。そこには茫然と立ち尽くしキノコ雲を眺めるマンゼンがいた


「覚悟はしていたが…まさかこれほどとは」


「マンゼンさん、無事でしたか」


「あぁ…私は何ともないが、しかし恐ろしい力だな。くれぐれも人の多いところでは全力の魔法は控えてくれ」


「あーはい。すいません…」


「なに、謝ることなどないさ。ただ毎度戦闘でこの規模の魔法を使うわけにもいかない。私が接近戦に魔法を応用する戦術を教えよう。ちょうどよく広くて見渡しのいい訓練場も手に入ったことだしな」


「はは…じゃ、お願いします」


マンゼンの冗談にケイタは少し気まずそうな顔で答える

その後マンゼンによる魔法の威力の調整、接近戦との応用、そして戦術に関する入念な指導が行われたのであった






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