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第10話 決闘

ケイタは外の慌ただしさで目が覚める。まだぼんやりとする頭で寝室を出ると屋敷の中をメイドたちが駆け回っていた動き回っていた


「女神様、います?」


「はいはいなんでしょうか」


ケイタが呼びかけてすぐ、ナギの姿が浮かび上がるように横に現れた


「なんなんですかこの騒ぎ、寝てる間に何かあったんですか?」


「あーこれですか? 外に集まってる群衆のせいですよ。ケイタさんがここにいるって聞きつけて人が集まってるんでしょうね。暇な奴らですよまったく」


ナギが呆れたように言って見せた直後、ケイタの存在に気付いたメイドがこちらに駆け寄ってくる


「申し訳ありませんケイタ様、早朝からこのような事態でして…屋敷の責任者が外の群衆に対して対応しておりますが行っても聞かず、塀を越えて乗って中に入ろうとする者までいまして…」


「はぁーそうですか、俺が追い払うしかないのかなぁ」


「そうしていただけると助かります。あぁそれと…国王陛下の方からケイタ様に出入り許可証のほうが出ております。王宮に用がある際はこれを衛兵にお見せください」


そうメイドから言って渡されたのは金属製の札に模様が描かれたものだった。ケイタは礼を言ってそれを受け取るとローブのポケットにしまう

その後、身支度を済ませると言ってもう一度寝室に入ったケイタはナギに呼びかけた


「で、今日はどうしましょうか。もし予定がないなら王宮ってところに行ってみたいんですけど」


「おお、珍しく主体的じゃないですか! 良いと思いますよ。差し迫ってやることもありませんし、ギャリックに関する情報収取にもなりますしね」


「あー、そうですね。まぁ僕は観光するぐらいの気だったんですけど。ともかくまずは外にいるとかいう群衆を追い払わなきゃいけないんですが、なんかいい方法ありませんか?」


「いい方法ですか? そりゃケイタさんが、うるせぇぞ! 俺の睡眠を邪魔する奴は誰だ! って怒鳴り散らすのが一番だと思いますけど」


「えぇ、ほんとうですか?」


そういうとケイタは部屋を出て屋敷の出入り口へと向かう。扉の向こうから聞こえてくる狂騒にため息をつくと、壊さない程度に力を込めて扉を突き飛ばすように開いた

バンッと大きな音と共にあっけにとられた群衆の視線がケイタに集まった。そのままずかずかと屋敷の庭へと出ると声を張り上げて叫ぶ


「おい、うるせぇぞ! 邪魔だからさっさと帰れ!」


怒声に驚いたのか、庭の中や門によじ登ろうとしていた群衆は潮が引いていくように塀の外側へと逃げて行った。あれだけ騒いでいたのが嘘のように静かになり、屋敷から離れた位置でこちらを見つめる群衆たちに満足する。外で対応していたメイドや侍者から礼を言われ、王宮へ行く予定があると告げると速やかに門が開かれたのであった

すると、開かれた門の向こうから見覚えのある顔が入ってくる


「おはよ。やっと起きたの? こんな騒ぎが起こってた割に熟睡出来てたんじゃない」


「なんだ、いたのかアルネ。いや疲れてたから起きれなかっただけだよ。で、きょうは何しに来たんだ?」


「え? えーと、特に用事は無いけど、ケイタになにか予定があるなら付いていこうかなーって。じゃ、邪魔にはならないから、いいでしょ?」


「ん、まぁいいんじゃないかな。今から王宮に行くつもりだったけど一緒に来る?」


「え、いいの!? 絶対行くわ!」


こうしてケイタとアルネの二人は屋敷の用意した馬車に乗り、王宮へと向かうのであった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


馬車を降りてすぐ目の前に現れたのは石造りの壁と、ケイタの背丈の倍ほどの高さの門だった

外の城門で警備をしていた兵士よりも立派な装備をした衛兵が門のすぐそばで控えており、ケイタは彼らにもらった王宮への出入り許可証を見せた


「噂に聞くケイタ殿でらっしゃいましたか。お連れの方も中へお通しします」


そうしてゆっくりと音を立てて開く門の下を潜りぬける。中に入って目につくのは背の高い植物や一面に植えられた花だった。基本的に石造りで無機質な城下の街とは違い自然あふれる庭の中を舗装された道に沿って歩くような造りになっており、そしてその行く先には華やかな模様が描かれた建物が建っていた。あれが王宮なのだろうとケイタは考える


「ここに来るのは初めてでしょ? 私は何回か来た事あるから案内してあげるわ」


アルネに連れられるがまま、ケイタは凝った造りの庭を巡りながら王宮の入り口と向かっていた。その時、唐突にナギが姿を現す


「むむむ…ここが城下に漂う邪気の源とばかり思っていましたが、そこまで強く臭うわけではありませんね。もう少し広い範囲を捜索すれば何かわかるでしょうか? ケイタさんもよく観察してください」


周りにわからない程度にケイタは頷いた


「あっ…」


その時、何かを呟いてアルネが突然歩みを止める。彼女の向く方を見れば、そこでは王宮の入り口と思われる場所で大柄な男が仁王立ちしていた。整っているが派手ではなく、腰に剣を下げた男はこちらの視線に気が付いたのか、大股でずかずかと歩きながらこちらに近寄ってくる。男はケイタから一瞬も目を逸らさず、十分に距離が縮まったところで口を開いた


「失礼、あなたがケイタ殿で間違いないか?」


恐らく自分に用があるのだろうと感じ取っていたケイタは迷わず答える


「その通りです。何か自分に用でしょうか?」


「そうか、衛兵から王宮にケイタ殿が来たと聞いて先回りしてきたんだ。決闘を受けてほしいと思ってね」


「え、えぇ?」


決闘と聞いてケイタは理解が追い付かず困惑する。が、アルネの態度の変わりようは速かった


「い、いきなり何言いだすんですか、マンゼンさん!」


「アルネもケイタ殿と知り合いだったのか。意外だな」


この二人が知り合いのように振舞うのを見てケイタの理解はさらに遠くなっていく


「あ、あの、貴方は何者なんでしょうか?」


「あぁすまない、私としたことが。先に自己紹介をすべきだったな。私はマンゼンという、この国で近衛部隊の隊長として国王に使えているものだ。この度は悪魔をたった一人で屠ったと言う君の実力をぜひ決闘にて図らせてもらいたい」


なぜこうも次から次へと問題が降りかかるのかとケイタはうんざりするような気持ちでいた。ナギに目配せするが、さぁ? というような身振りをするだけで何も言わない。ケイタはため息をついた


「勘弁してくださいよ、決闘なんてしても僕に得はないでしょ。興味ないのでお引き取り願えますか?」


ケイタのそっけない返答にマンゼンは少し口元を吊り上げて見せた


「ほう? まさか悪魔を屠った男ともあろうものが決闘を受けれぬとは驚いたな。自分の力に自信があるのであれば何も恐れることは無いであろうに、もしや悪魔の死体は他人が倒したものを拾ってきたのかな?」


マンゼンの挑発の意図はあからさまだったが、嫌味な言い方は冷めたケイタの闘争心をくすぶらせた


「…そんなに俺の力に興味があるんですか?」


「もちろん大いにあるとも。やる気になってくれたかな?」


「はぁ…乗り気はしませんけどルールぐらいは聞きますよ」


「ふふ、そうでなくてはな。来たまえ、ちょうどいい場所があるので案内しよう」


そう言って歩いていくマンゼンの後にケイタも続くのだった。ふと、アルネを見ると不安げな表情でこちらを見つめている


「ね、ねぇ、ほんとにやるの?」


「しょうがないだろ、向こうがやりたいって言うんだから。知り合いなら説得してみてくれよ」


「マンゼンさん、どうしてこんなことするんですか。こんな出鱈目な理由で決闘だなんていつものあなたらしくないでしょ!」


前を行くマンゼンが足を止めてアルネの方を向いた


「アルネ、これは私と彼の問題なのだ。ついてきてもいいが部外者は口出しは無用だ」


アルネはうつむいてそれ以上何も言わなかった


「ケイタ殿、きたまえ」


「はぁ、わかりましたよ」


ケイタもマンゼンの固い意志を感じ取りこれ以上の説得は無意味だと悟る。黙ってマンゼンの後に続き、ケイタ、アルネ、マンゼンの三人は宮殿から少し離れたところにある窓の多い建物へと近づいていた

先に建物の入り口に付いたマンゼンが大きな両開きの扉をあけ放つ。中は体育館のような広い空間になっており、数人の男たちが何かの稽古か木製の剣をぶつけ合わせていた

ケイタたちが建物に入ると稽古をしていた男たちの視線がこちらに集まる


「すまないが皆、今から決闘を行うので場所を開けてくれるか?」


マンゼンの言葉に素早く反応し、稽古を行っていた男たちは壁の近くまで移動し始める


「マンゼン殿、何事でしょうか? 後ろの方は?」


「彼はケイタ殿だ。今から彼と決闘を行う」


「ケイタ!? 例の悪魔を一人で屠った?」


マンゼンに話しかけた男はケイタに視線を向けるとその場から後ずさる。端で様子を見ていた男たちも騒がしくなり始めた


「マンゼンさん、僕はまだ決闘すると決めたわけじゃありませんが」


「ここまで来ておいて決闘せず帰ろうなど冗談が過ぎるわ。心配しなくてもルールは今から話す」


マンゼンの目つきが変わり、鋭い視線がケイタを正面から見据えていた


「ずいぶんとやる気ですね。何が目的でしょうか? 彼の魔力は邪悪どころか神聖なんですが…」


ケイタはマンゼンと視線を合わせたままナギのつぶやきに耳を傾けていた


「まず、この地面に描かれている円が見えるだろう? 決闘はこの円の中で行う。まず第一に魔法は禁止だ。木製の剣を持って一体一で向かい合い、相手の体を地面に倒すか、武器を落とさせるか、この円の中から出させれば勝ち。勝てないと悟ったら途中で降参することもできる。その場合はそこで決闘は終わり相手の勝ちになる。単純なルールだろ?」


「なるほど。で、決闘中はその木剣を使って相手に何をしてもいいんでしょうか?」


「もちろん、ただ紳士の暗黙の了解として目つぶしと金的は避けることになっているが従うかは君次第だ」


「わかりました」


「よろしい。おい! 誰か彼に木剣を渡してくれ」


マンゼンの呼びかけに、一人の男がケイタに近寄り手に持っていた木剣を受け取る。真剣を握り慣れたケイタにはそれがおもちゃのように軽く感じられた


「立ち位置が下に記してあるだろう? そこに立ったら開始の合図と共に決闘を始める」


ケイタは言われた通り白線の上に立ち、正面からマンゼンと向かい合った。同時に今まで眠らせていた魔力を一気に解放し全身に漲らせる


周りの空気が一瞬にして変わった。外野で見世物が始まるのを待っていた男たちは、この瞬間に自分がいかに危険な場所に立っているかを本能で理解した

周囲が大慌てで後ずさる中、マンゼンはただ一人表情一つ変えずケイタを見据え自らも魔力を高め始めた。が、それはケイタから発せられる圧倒的な魔力の圧に比べると弱い。勝負の結末を周囲は察し始めていた


「準備はいいかな?、ケイタ殿」


だが、そのような状況にあってもマンゼンの態度が変わることは無かった


「…ええ、いつでもどうぞ」


ケイタは木剣を握りしめ、正眼の構えでマンゼンを迎え撃つ




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