得意と自信
偉人のアインシュタインさんが言ったらしい、熱いストーブに手を置くと1分が1時間に感じる、でも可愛い女の子の隣に座ってると1時間が1分に感じると。
つまり、楽しいことしてると時間たつのが速くて、つまんないことしてると時間たつのが遅いって話しだな。
そこで現在の俺だ、最高に楽しいフォートファイトを信頼できる友人と、素晴らしい美少女の隣でやってる俺は、もはや時間を超越しているといっても過言ではない。
相対性理論って凄い、1ミリも理解してないけど。
気づけばお外が真っ暗だ。
おうちに連絡しなきゃ心配されちゃう!
わりと真面目に心配されるな、こんな時間まで普段出歩かないし、それにこんな陰キャになってからというものの、過保護になってる。
約1名なんだけど。
「あ、そろそろ帰んないと、これラストで」
今は普通に公開モードでプレイしてる、100人同時のサバイバルゲームだな。
とりあえずPINEで帰りが遅くなることを連絡しておこう、捜索願とか出されたら、恥ずかしくて学校いけなくなる。
「もう帰るの?まだ21時前じゃない」
「いやいや、むしろ渚は門限とかないの?」
「んなもんないわよ」
「えぇ、以外に黒原家って奔放なんだな」
驚きだ、もっと厳格に門限が定められて、なんならリムジンでお迎えでも来るのかと思ってたよ。
そういやこいつ学校も電車だったな。
別にストーカーではないぞ、1年も同じクラスに通うと自然にわかるんだ。
「別にいいでしょ、良介こそ門限?」
「俺も門限は決められてないけど、こんな時間まで出歩いたことないから、心配される」
「………そう、それもそうね、心配されるわね」
「なんだよその間は、しょうがないだろ、こんなになってから家族にやたら心配されるんだよ」
「え?ええ、そうよね」
なんか渚の様子がおかしい、男のくせに門限あるの?とか思ってるのだろうか。
「おう、まだ未成年なんだから2人ともちゃんと帰れよ、駅までは俺がおくってくからさ」
「とかいって、ばんちゃんの家ほとんど駅じゃん」
「ああバレた?」
あっけらかんと笑うばんちゃんに、釣られて俺も笑う。
なんつーかめっちゃいいとこ住んでるよな。
「そういやばんちゃんって1人暮らしなの?」
「──ん?そうだよ、稼げるようになったからな、このマンションも買ってるし」
「えっ!?」
今日一番の驚き、でもないけど驚いた。
色々あったしな。
「ローンだけどな、それもあってもっと稼ぎたいんだよ」
「おおう、なんか切実なんだな、協力できなくてごめん」
「いいんだよ、気にすんな!現実だとかなり殊勝になるな、良介は!ははは」
「……いいだろ別に」
ばんちゃんは楽しそうにゲラゲラ笑ってる。
人がちょっと下手に出ればこれだ、今度1V1でボコボコにしてやろう。
「あ、始まったわよ」
ここからは楽しくフォートファイト、俺達は順調に敵を倒し、ラストは綺麗に勝利した。
「それじゃ、帰るよばんちゃん、色々とサンキュー」
この恩はいずれ返そう。
そうだな、ばんちゃんより有名な配信者になって、俺がばんちゃんを助けてやろう。
できれば。
「おう、またこいよ!」
「了解、渚は帰らないの?」
「帰るわよ、こんなのと2人っきりにされたら、なにされるかわかったもんじゃないわ」
「俺の信用はいったい……」
「一緒に帰りましょ」
「オッケー」
「ああ放置ですねわかります」
仏みたいに達観してんなばんちゃんは。
ばんちゃんは言ってた通り駅まで送ってくれた。
最後に俺の肩を叩く。
「──良介、いつでも来ていいからな、用がなくても遊びにこい、渚もな」
やっぱなんだかんだ、頼りになるのがこの男だ。
足向けて寝れねーよ。
「サンキューばんちゃん、また来るよ」
「なんで私はついでみたいな扱いなのよ、納得いかないわ」
ムスッと腕を組んだ渚を見て苦笑いしたばんちゃんは、渚の肩も叩いた。
「お前はしっかりしてるからな、良介を頼んだぞ」
「セクハラよ」
バシッとばんちゃんの手を叩く。
「──っあいた」
「私に任せておきなさい」
ニタリと笑う渚は、頼りにしていいのかわからない雰囲気を醸し出す。
ばんちゃんに頼りにされて嬉しかったとみたね、言ったら殺されるから言わないけど。
「そんじゃまた」
「さよなら」
「おう」
改札を通ったあとも、ばんちゃんは手を振って、結局見えなくなるまでブンブン手を振ってた。
「ねえ」
ふと渚が話しかけて来る。
「ん?」
「良介、凄い注目されてるわよ」
あんまり意識しないようにしてたのに、いうかねこの人は。
元から目立つ見た目だ、背のでかい貞子だからな、なんたって。
それに加えて今は渚がいる、超がつく美少女だ。大和撫子といったら頭に思い浮かびそうなくらいの。
そりゃ目立つわな、それが変なのといたら。
「…………別々に帰ろう」
「は?」
「それじゃ」
俺はシュタっと手を上げて踵を帰す。
「まちなさい、そっちはホームが違うわよ」
また力強く腕を捕まれる、逃がすつもりはないらしい。
視線が強まる。
「わかった、わかったから、手を離してくれ、注目度が上がる」
「はいはい、もう逃げたらダメよ」
「……理解しました」
「まったく、私に腕をつかまれるって聞いたらクラスの男子、全員が羨ましがるわよ?もったいないわね」
「自分でいうの?」
「事実だし」
「さいですか」
俺も悪い気分じゃない、クラスの男子の1人だ。
でも今はよくない、人目、ダメ、絶対。
俺もこいつくらいの自信があれば視線を克服できるのだろうか。
魅力、学力、家柄、ゲーム、どれが彼女を自信づけているのか、気になるところだ。
電車もまだ来ないし、聞いてみるか。
「渚はなんでそんなに自信家なんだ?」
「なによ急に」
「人前で堂々としていられるのは自信からだと思うんだよな、俺もゲームじゃイキり気味だし……でもリアルでってなるとなそうもいかないだろ?」
「そうね、確かに私はなんにでも自信があるわ、それこそ運動もね」
「──え?」
本気で驚いた顔をしていたら、渚にひと睨みされてしまう。
しょうがないじゃん、どっからどうみても運動音痴だし。
「はあ、その自信はね、別の得意から持ってこれるのよ」
「得意?」
「そう、例えば勉強ね、頑張って勉強してクラスで1番になったら嬉しいでしょ?そうなるとね、自信もつくし、時間をかけただけ効率もよくなる。次は学年でトップを目指そうって気持ちになる」
これは渚の実態件か、たしかにこいつは学年トップ、それに全国模試でも1桁順位をとっているって話しだ。
半端ねぇ。
「それは分かるな、ゲームも上手くなって敵を倒せると、もっと上手くなりたいって思うしな」
「でしょ?そうして1つを極めるとね、思うのよ。これだけ効率よく勉強できる私なら、スポーツだって頭を使って、無駄な動きを減らしていけば、その辺のやつより絶対上手くできる、そう思えるのよ」
「う、うん?そうなのか?」
「納得いかなそうね?」
「なんか暴論すぎないか」
そもそも運動は身体能力も重要だから頭だけじゃできない、渚本人が一番わかってると思うけど。
渚は人差し指をこめかみに当てて悩む、親指を立てたらペルソナを呼べそうなポーズだ。
「うーんそもそも理論的な話しじゃなくて、精神論なのよね、これ」
「体育会系の特有の根性でかたづけるような話しは苦手だぞ、俺は」
「バスケ得意なのに?」
「前は平気だった、今は苦手なの」
「じゃあ練習ね」
「……はい?」
「得意と自信を紐付ける練習よ」
意味のわからない事を言い出したね、ついに。
そして渚は何も聞いてないのに、自分語りをしだす。
「私はね元々勉強が得意だったわけじゃないのよ?」
「はあ」
俺が軽く頷いて気のない返事をすると、ジロリと睨まれる。
「真面目に聞かないと……」
「はい!」
思わず敬礼しちゃったよ、怖いんだよ。
「私が元々持っていた自信って、自分の見た目だけだったのよね。だから私思ったのよ、こんなに可愛い私がテスト受けたら全部100点満点とっちゃうなって」
「いやいやなんで!?」
可愛いから100点取れるって、もはや空間ネジ曲がってますけど。
グニャ~っと。
「今のじゃダメかしら」
「さっきより悪いって……」
「じゃあちょっと理屈っぽく言うなら、可愛い私は人から好かれやすい、だから沢山の人が話しかけてくる、そうすると会話する機会が増えて、会話が得意になってくるでしょ。で、誰とでもコミュニケーションがとれる自信が湧いて、人と仲良くなれる」
「確かにそれはそうかもな」
イケメンや美人はそれだけで人生イージーだって、よく聞くしな。
逆に俺みたいな見るからに陰鬱な見た目のやつはハードモードだ。
「今のは可愛いから、会話が得意になったわね。そこで得意になった会話で先生と仲良くなって、勉強を教えてもらい勉強が得意に、得意になった勉強で上手いゲームプレイヤーの研究をして自分のものに。こうして繋げるのよ、無理やりにでもね。そうすれば自信になるわ、あれができるおかげで、これができるようになったから、それもできるんじゃないかなって」
さっきのフワフワした説明より全然いい。
得意なことは別の畑でも役に立つことがあるってことか。
「そう言われると確かに繋がるな」
「でしょ?だから良介は全部の得意を、視線への自信にするのよ」
「簡単に言うけどさ」
俺が泣き言を言うと、渚は叱咤するように言葉を吐く。
「言っておくけど、良介はゲームじゃアジア1位、クラスの男子達が驚くほどバスケが上手い、それに顔も悪くない。これだけあれば私と同じような立場にだってなれるはずよ?いわゆる陽キャやリア充にね」
「俺は別に……いや、確かに陽キャやリア充にできるならなりたい。でも視線を合わせて話せるようになって、楽しく話せるような友達ができればそれでいい」
「アジアをとった男が聞いて呆れるわね」
蔑むような視線で渚が見ている、この目はいくら渚が相手でも辛いし、ムカついた。
「友達作るのの、なにが悪いんだよ?」
「別にそれはいいのよ、でも目標が小さいわね、せめて学校1の美少女、黒原 渚を彼女にするくらい言ってもらわないと」
なんか面食らった、肩透かしだ。
「え?俺はお前を攻略しないといけないの?」
「言葉のあやよ。そうね、ゲームが上手くなると楽しくなって、もっと強くなりたいって、さっき言ってたわよね?」
「ああ」
「現実も同じよ、強くなればなるほど楽しいわ」
「……そっか」
「そう、だから強くなりましょ?私達が組めば世界だって取れるわよ」
「いや、何を目指してるの?」
「ウヒヒ」
「人の目があるぞ」
「うふふ」
「変わり身はや!」
渚は眉をひそめて、唇を開いた。
「……それにしても、なんで良介はそこまで視線に弱いの?」
「……それは」
あまり話したい内容じゃない、思いだすからな。
トラウマなんだよ、じゃなきゃこんなふうになってない。
でも、渚は数少ない、信頼できる友人だ。
協力して貰うのに、原因を話さないなんて道理に反するよな、不義理だ。
イヤな話しだけど聞いて貰おう。
「2年前───」
「あっ電車きたわよ」
んだよ、人がせっかく腹わって話そうとしてるのに。
その後は人生相談もなく、フォートファイトの話しをしながら帰った。
最後に月曜の放課後は教室に残っておけと釘を刺されて。