にらめっこ
「……………………」
「……………………」
物は試しだと言うことで、俺はJILLとにらめっこをしている。
笑いは取らないから変顔じゃないんだけどね。
わかったことは、JILLの目ならもう全然大丈夫ってことと、よくよく見るとJILLがホントに人形みたいに整った顔立ちをしてるってことだ。
睫毛は凄い長いし、唇は薄くて小さいし、挑発的な瞳はとても魅力がある。
ずっと見ていたい反面、恥ずかしくなってきた。
「うーん、平気だな、やっぱ意味ないな」
「そう?ちょっとだけ逸らしてたじゃない」
「いくら平気だっていっても、ずっと目を合わせるのは普通じゃないだろ」
「恥ずかしくなってきただけなのに、言い訳しちゃって」
「なっ」
「はい、図星~ウヒヒ」
この女こなれていやがる。俺が顔を赤くしてるのをニヤニヤと眺めている。
ゲームじゃ対等だけど、リアルだとアリとゾウ並みに差があるな。
「あんまりからかってやるなよJILL、一応だけど効果はありそうだな、主に女の子に対する免疫の取得に」
一連のやりとりを見ていたばんちゃんは、そう言うと最後に「んじゃ俺とやるか」と付け加えた。
「……了解」
「大丈夫?まだ顔が赤いわよ?」
「うるせ!」
「ウヒヒ」
JILLとばんちゃんが入れ替わり再スタート、ばんちゃんは笑いかけてきたり、睨み付けてきたり、なんか変な顔をしたりしてる。
普通ににらめっこしてるみたいじゃないですか。
「──平気だな」
「なぜだ……なぜJILLでは赤面して俺には何もないんだ……」
「ばんちゃんがどこにでもいそうな顔だからでしょ?私と一緒にしないでもらいたいわね」
この女、マウント取るためならなんでもディスりやがる。
「ばんちゃんごめん!でも普通ならいい練習になったよ、世の中ほとんどの人が普通なんだから、だから良かったよばんちゃんが普通で!」
「……それで慰めてるつもりなのか?」
「ロクにコミュニケーションを取ってこなかった男よ?多分だけど慰めてるわね」
おかしい……ダメだったみたいだ。
人間観察暦はや2年、人の顔色を伺って生きてきた俺は昔よりもコミュニケーション能力が上がってると思っていたのに。
違うのか、俺がやっていたのは机上の空論、やはり経験値は現場にこそ溢れていると言うことなのか。
「でもばんちゃんとも出来て良かったよ」
「ああ、ちょっと挙動不審なのは否めないけど、概ね大丈夫そうだな、そこはJILLと学校で練習してくれ」
「今までJILLと全く関係ない生活してたのに、急にJILLとにらめっことかしても平気なのか?」
何か勘ぐられたりしないかね、付き合ってるんじゃないかとか。
「平気よ、まず私が良介と親しげに話してても誰も勘ぐったりしないわ。私がこんなでかいだけの木偶の坊と仲良くしてても、黒原さんは誰にでも優しいんだなって好感度が上がるだけよ」
「木偶の坊……」
「──なにか?」
「なにもございません……」
やっぱJILLと口喧嘩したらダメだ、リアルを知った今、前よりも勝てる気がしなくなってきた。
1睨みされたらこれですよ。
「ま、教室で露骨に仲良くにらめっこなんてしないわよ、場所は私が用意するから任せておきなさい」
「はい、よろしくお願いいたします」
「いい心がけじゃない、やるのは放課後ね、あんた部活入ってなかったわよね?どうせ暇でしょ?」
「入ってないから大丈夫だけど、JILLも入ってなかったか」
「私も帰宅部よ、たまに生徒会があるくらいだから」
「じゃあ暇なときは頼む」
「暇?毎日やるに決まってるでしょ」
「あ、そうですよね……」
スパルタじゃん……フォートファイトやる時間が減りそう。
「おっし、じゃあhawkもとい良介の人間不信治療作戦はこれで決定だな!何かあればいつでも俺に相談してくれ、家も近いしな!」
「おう、サンキューばんちゃん」
「そうね、にらめっこだけで治るとも思えないけど、そのへんは次の放課後ね」
にっこりと微笑むJILL、なんか不気味だ、ものすごい無茶振りとかされないだろうな。
されるんだろうなぁ……先が思いやられる。
「じゃあ決まったってことで、PC見るだろ?」
「おー、見る見る!」
「しょうがないわね、そこまで言うなら見てあげるわ、それと寒いから膝掛けと、あとパチモンスターもう1本ね」
マジかよ……
「えぇ……さっき断ってたのに」
「いいか良介、女心と秋の空だ、ここは男の甲斐をみせる時」
「あとこの部屋なんか臭いわよ?窓開けてよ……あっでもまだ花粉がキツいのよね、なんか消臭剤ないの?霧吹きのやつで」
「JILLテメー!」
「ばんちゃん落ち着いて!」
ばんちゃんがJILLに飛びかかろうとしたのを、後ろから羽交い締めにする。
JILLのやつわざと煽りやがった、全然臭くないのに。
むしろいい匂いだ、設置形の消臭剤もおいてあるし、何よりこっちを楽しそうに眺めてウヒャウヒャいってるし。
「リアルのほうが煽りがいがあるわね、さすがばんちゃん」
「こっちの身にもなってくれよ、良介もう大丈夫だから」
「あーはいはい」
なんというかプロレスみたいなやりとりだな、演技というか茶番というか、面白いからいいけどさ。
人によってはマジで怒りそうだ、そのへんはJILLも見極めてやってるだろうけど。
「それはそうと、2人とも私のことはずっとJILLなわけ?ばんちゃんは名前が板東だからいいけど、私は黒原 渚よ、JILLなんて一欠片も関係ないんだから」
俺は良介って呼ばれてるしな、JILLもそんなこと気にするのか、可愛いとこもあるんだな。
ていうか俺はいつの間に名前で呼ばれていたんだ、自然すぎて気づかなかった、これがリア充のスキルか恐ろしい物を見たな。
ばんちゃんは直ぐに反応した。
「あーそれもそうか、じゃあ渚で」
「は?いきなり名前呼びとか馴れ馴れしいわね」
「なあ良介、俺はもっかい飛びかかってもいいと思うんだ」
「止めるのも面倒だから、落ち着いて。あと俺も黒原って呼ぶよ」
「は?同じゲームやって同じクラスなのに黒原?よそよそしいわね」
「「どっちだよ!」」
「ウヒャヒャ、息ピッタリね」
そしてばんちゃんは考え込むように、顎に手を添えて呟きだした。
「……つかまてよ、なんで俺が渚でダメで良介はいいんだよ」
「なんとなくね」
「なんとなくで!?俺の扱い……」
「ま、なんでもいいけど2人とも私のことは渚って呼んでね、ゲーム名と名字じゃ他人行儀じゃない、私は良介って呼んでるのに」
JILLじゃなくて渚はそう言って唇を尖らせた。
やっぱ可愛いとこもあるらしい。
でも女の子を名前で呼ぶって少し勇気がいるな。
「わかった……じゃあ渚、ばんちゃんのPC見ようぜ」
「わかったわ、それでいいのよ、ウヒヒ」
相変わらず変な笑い方してるけど、可愛い笑顔で笑ってる渚を見て、ドキリとしたのは俺の秘密である。
「あーと、そこの部屋だから先入っててくれ、俺は渚の膝掛けと飲み物持ってく」
さすがばんちゃん、流れるような名前呼びだ。
ばんちゃんはゲームでもフレンドリーだけどリアルでも同じなんだろうな、大学生らしいけど友達も多いのかね。
俺と渚は言われた部屋に移動する。
「うわ、スゲー」
「ここまで来ると壮観ね」
部屋はフォートファイトのグッズが溢れている。
実寸大アーマーポーションや宝箱、それにフォートファイトのマスコットであるアルパカの人形、カラフルな部屋だ。
そしてこの部屋には4台のゲーミングPCが完備されている。
「ばんちゃんが見せたがるわけだな」
「良介みてこれ、顔出しに使うようなカメラとかも既に用意してあるわよ、準備いいわね」
渚が指さすところには立派なカメラが三脚の上に乗っかっていた。
これならいつでも顔出し配信できるな。
最初から俺達を顔出し配信に誘うつもりだったみたいだし、頷けるな、夢のある部屋だ。
「どうだ?凄いだろ?」
得意げな顔で入ってくるばんちゃん、なんか腹立つ顔だ。
手には膝掛けとパチモンスター3本、とりあえず俺も1本貰う。
「つかなんで4セットもPCあるんだよ」
しかも4セット全部が最高品質のゲーミングPCだ、イスや机、マウスにキーボードにいたるまで最高なものだ。
これだけでいくらすることやら。
「フォートファイトは4人プレイまでだろ?そういうことだ」
「私達は3人じゃない」
「まー4人でやる可能性もあるしな、一応だよ」
一応で4セット揃えるのか、稼いでるな。
俺も人のこといえないけど、父さんの年収を超えたときは泣いてたな。
嬉しさ2割、悔しさ8割だって言ってた、せめて20代になってから抜いてくれって。
「しかもいろんな種類のキーマウあるじゃん」
「誰が来てもいいようにな」
人によってキーボードもマウスも違う種類つかうからな、それにコントローラーでやる人もいるし。
俺達は全員キーボードとマウスだけどね、やっぱ顔出しで色んな人と絡むって事まで視野に入れてるんだな。
さすが俺達の指揮官だ、先が見えてる。
「私が使ってるのもあるわね」
「俺のも」
「当たり前だろ?優先して揃えたぜ」
ばんちゃん最高かよ、こういうとがカッコいい、仲間思いというか、いいやつだ。
渚がニヤリと笑う。
まぁそうなるよな、フォートファイトのオフ会なんだし。
「──やりましょ?」
「いいね、ばんちゃん?」
「おけ!」
手早く準備してスイッチをつける。
フォートファイトはPC以外でも、様々な媒体でプレイ可能だ。でも俺はPC以外でのプレイはオススメしない。
他の媒体じゃ必要スペックが足りてないからだ。
まあ楽しくゲームするだけなら関係ないと思うけど、上手くなりたいならPC、それも高性能じゃないとダメだな。
「1V1やろうぜ」
と、ばんちゃん、1対1でタイマンしようぜってことだね。
「いいわね、良介覚悟しなさいよ今度こそ勝つわ」
「返り討ちにしてやるよ」
基本はサバイバルゲームだけどこうやって練習したりもできる、俺は壁、階段、床、屋根を使った建築が得意で、1V1なら敵なしだ。
なら最強かというと、そうでもない。
俺は素早い建築で有利な高所を取るのが上手いので強いのだが、逆に高所を取らずに下で壁を作って囲む引きこもり戦法は、渚ほど上手くない。
この引きこもり戦法での勝負をBOXバトルという、壁と床で四方と天井、床を塞ぐと正方形になるからBOXだ、練習じゃなくて実際にプレイするとBOXバトルのほうが多用される、だから実際は渚のほうが強い。
ちなみにばんちゃんにもBOXバトルじゃ勝てない。
渚はBOXバトルなら最強で1V1だと最弱、俺とは真反対だ。
ばんちゃんはどっちも平均して上手いって感じだな。
「ああもうっ!」
「はっはっは甘いな、俺から上を奪いたいならもう1人俺を連れてくるんだな」
5本先取の勝負で、5戦やって俺が5本連続で勝って勝利。
めちゃくちゃ悔しそうな顔をしてる、愉快、愉快、学校を誇る美少女を完膚なきまでに叩きのめす、最高に楽しいじゃないか。
「じゃあ渚俺と交代な」
「仇とりなさい、ばんちゃん」
「まかせろ」
この試合は6戦やって俺が5本、ばんちゃんが1本取って俺の勝ち。
「あーダメだ勝てる気がしねー、渚やろーぜ、こんな奴とやってられねーわ」
ばんちゃんはゲーミングチェアにおもいっきり体重をかけている、そのまま倒れそうだ、こちらも暖まってますね、メシウマ、メシウマ。
「私なら勝てるってこと?ま、いいけど、吠え面かかせてやるわ」
人のプレイを見るのも勉強になるよな、俺はばんちゃんと渚の後ろで観戦することにした。
さすが2人ともプロだ、舌を巻くようなプレイが度々繰り出される。
それでも建築の速さはばんちゃんのほうが少し上、その差は少しづつ開いていく。
結果、8戦やって渚が3、ばんちゃんが5本とってばんちゃんの勝利に終わった。
「あーー!練習してたのにーーっ!!」
「あぶねー!ちょっと強くなったな」
「……もうやけよ!BOXやりましょBOX!」
BOXバトルをやると今度は渚の独壇場だからなぁ。
よっぽど悔しかったんだな、まあ気持ちはわかる。
「そうだな、2人じゃなくて3人でやるか」
それでも渚には勝てないし。
「いいわね!」
「よっし、いっちょやるか!」
フォートファイトは上から撃ち下ろすのが圧倒的有利なゲームだ、ダメージ倍率が上がるヘッドショットも上からだと当てやすい。だけどBOXバトルは高所が取れないから、俺の素早い建築があまり機能しなくなり、強さは半減する。
そして渚はBOX内での建築編集が、とてつもなく速く匠だ。
編集は建築の形状を変化させることができ、例えば壁に穴を開けてそこから敵を撃って、また壁を元の形状に戻して、敵からはダメージを受けないようにする。
この編集が渚の真骨頂、気づいた時には。
「うわっ全部渚の壁じゃねーか!ヤバイ、ヤバイ」
こうなって慌ててると。
「はい、終了~」
四方八方を渚の建築に囲まれて、編集で色んな角度から好き放題、蜂の巣にされてしまうのだ。
うん、勝てないねこれは。