プロゲーマー
「おいJILL、Wの方いったぞ」
「おっけやった、SRワンパンヘッショ、ウヒヒ」
JILL正式名称JILL146526は、俺が言い終わるか終わらないか、そんな早さでヘッドフォンから答えを返してくる。
相変わらず女とは思えないような、まるでヒモについたカスタネットを振り回して、叩きつけているみたいな笑い方だ。それでも俺はそれにつられて笑う。
「はははnoobおつ!」
「もう1体いただきました、SRしか勝たん」
「……ヤバすぎだろお前、エイムお化けじゃん」
総登録人口3億5000万人という前代未聞の超人気バトルロイヤルシューティングゲーム、【フォートファイト】同時に最大100人のプレイヤーとオンラインでマッチして最後の1人、もしくは1組になるまで争い順位を競うという単純なルールだが、戦略や技術が必須になる従来までのFPSに比べても非常に難易度の高いゲームとなっている。
因みにこのゲームはTPSでアバターを第三者視点で操り、銃で敵を撃ち倒すゲームだ。
難しさを増長させる最大の特長はやはり建築モードだろう、資材を集めて仕様することで壁、階段、床、屋根の4つの異なるピースを直感的に建てて、銃弾を防いだり、位置有利な高所に上がる事ができる面白い要素だ。
他にも様々なギミックはあるが今は割愛しよう。
そしてこの世界中の人がハマる愉快なゲームを俺達は3人モードでプレイしている。
「おい、ばんちゃん働けよ」
Ban east 、通称ばんちゃんが俺達の3人目のパーティー、というかリーダー的な存在だな。
「いや、もう終わったじゃん今の奴で」
「はい?まだ最後の仕上げが残ってるじゃん、JILLを見習おうよ」
「ウヒョヒョ」
──バババババババババ
killした相手が溶けた場所を銃で撃ち続ける、所謂マナー違反である死体撃ち行為だ、やられるとメチャクチャ腹が立つ。
腹が立たない奴には上手くなる才能がないだろう、強くなる一番の材料は怒りだ。
「いやいや、俺はhawkと違ってぶっ飛んだ売り出し方してないんだわ、JILLやめときなさい」
ばんちゃんは俺ことhawkとJILLを嗜める。
何時もの光景だ。
──だがJILLは無言で撃ち続け、俺もそれに習うようにショッガンをぶっぱなし、ついでにエモートで敵を煽る為のダンスもしておいた。
敵は倒されると、倒された相手の画面を見る事ができる。倒されたって事は自分よりも上手い相手なのだからプレイを見る価値がある。
今みたいに煽られる可能性も過分にあるけど。
「いや無視!?俺一応年上だよね!?」
「はいでましたー!年功序列主義者!いるいるどこにでも、自分が無能なせいで年上として誇る能力が1つもないことを自覚してしまうが故に、年上ってアドバンテージしかないからって、年上だから言うこと聞けって、プププ恥ずかしくないの?」
JILLが変なスイッチを入れて言葉の暴力を無慈悲に投げつける。
相手は勿論ばんちゃんなんだが、聞いてて可哀想になる毒舌だ。というかすげー早口、よく口が回る回る。
エイムも良いけど頭も良いんだよなJILLは、口喧嘩で勝った試しがない、情けないことに。
「まてまてまてまて!何でそこまで言われるの!?俺そんな悪いこと言った!?」
「……人生そんなもんだよばんちゃん」
俺にはそう、慰めることぐらいしか出来ない、だって文句言うと俺もボコボコにされるから。
「成人もしてない奴に人生を説かれる俺!」
「せ~い~じ~ん~?」
「なんでもありません!サー!」
ばんちゃんはまたJILLの地雷を踏んだらしい、何とか解除したみたいだけど。
──バンバン
おっと。
話しに夢中になってるとすぐこれだ。
「は?いった、殺すわ」
「ウヒヒhawkアーマー割れてんじゃん」
「だから殺すとか配信しずらいんだわ!」
「ほいっと、hawkはアーマー回復してなよ、私が全部殺してくるから」
JILLが俺にアーマーを投げつけてくる。
「殺す殺す殺すって物騒なんだよ!また炎上すんだろ!」
アーマーって言うのは要は200あるHPの100から上の部分、アーマーが割れるってのは、HP半分を切ったって事だ。
にしても一番殺す殺すいってんのばんちゃんじゃないかこれ?
「まーたライブ配信で金せびってるよこの人、スパチャスパチャ、バーチャル系に転向したら?」
と、JILLが言うので俺もアーマー回復で暇だから追撃してみる。
「それとも炎上商法かね?商魂逞しいというか、なんといいますか」
「うっせえわ!もう俺が殺す!!」
あーあついに自分で言ったよこの人、何だかんだばんちゃんはノリがいい、やけくそとも言うが。
「「うるせえ、うるせえ?」」
俺とJILLの声が見事に被る、考える事は一緒だな。
「それこそうるせえわ!」
「「ワハハハハハハ!」」
とか言いってたらばんちゃんはマジで1人で3人さばいて来た。
本気で上手いんだよな、ばんちゃんも。
まあそれもそうか、なんたって俺達はアジア大会で優勝した3人だしな。
「おら!ラスイチ!はい、ドン勝~」
勢いに乗ったばんちゃんはそのまま敵を殲滅、勝利した。
「いや、ビクロイな」
ばんちゃんの言うドン勝は別ゲーでの勝利メッセージ、俺達がやってるフォートファイトはビクトリーロイヤル、略してビクロイ。
ばんちゃんは前にやってたゲームの影響を永遠に引き継いでいる、もうこのゲームが出てから3年も経つのに。
「あー私の獲物!ばんちゃんに取られた!」
「知るか、お前らが俺を煽るからだろ」
ばんちゃんはそう言うと笑う、鬱憤を敵に晴らせたみたいだ。
あーもうこんな時間か、時計を見ると午前1時、明日も学校だ。
切り上げるとするか。
「うし、アリーナポイント貯まったな、今日は終わりにすっかなー」
キル数や順位によって得られるアリーナポイント、それが貯まれば貯まるほど強い敵と戦う事が出来るシステム、スキルベースマッチング。
同レベル滞の人間と常に戦うため、油断ならないが、10段階に別れたレベルの中で俺達は最高の10、その中でも頭1つ分は強い俺達には、選りすぐりの猛者達でも少々物足りないと感じるぐらいだ。
「あーもうこんな時間か、高校生は大変だな、今日からだったんだっけ?新学期」
俺は高校2年、成り立てだけどな。
そんでばんちゃんは20の大学生らしい、一番落ち着いてるしそうっぽいな。JILLは俺と同級生って話しだがどうだろ、何分二人とも会ったことがないからな。
「私も落ちるー」
「JILLも高校生なんだよな?」
珍しくばんちゃんが引き留める、いつもならここでお疲れの一言で終わるんだけど、明日は休みか?いいな大学生ってのは。
「は?女性の年齢確かめようとかキモ、しかも年下の成人もしてない女の子の、これだから性の喜びを知った大学生は、盛のついた猿みたいね」
「なぁhawk?俺は怒ってもいいと思うんだ」
「俺なら最初のキモの部分で文句言ってるね」
ばんちゃんはここで盛大に溜息をついて話を続けた。
「何か先が見えるけど言っとく、3人でオフ会しないか?」
「うわー私がJKと見ると否や速攻でオフ会ですか、緩衝材にhawk入れてる所がまたリアル、猿どころか鼠……アンテキヌスね」
「誰が死ぬまで交尾するか!」
話しが見えない、特にアンテ?何とかが良くわからない
「アンテなんちゃらってなに?」
「童貞は黙ってなさい」
「……ひどい」
俺の小さなハートは一瞬で砕けた、ばんちゃんは良く耐えられるね、さっきはごめん、俺も言い返せないや。
「hawk人生そんなもんだ」
ばんちゃんはしっかり俺が言った台詞を言い返してくる、根には持ってたんですね。だけど声には優しく肩を叩かれたようなそんな気すら起きる、哀れみの感情が籠っていた気がする。
「んでだ2人とも明後日の土曜ひま?」
サクッと話しを切り捨てたばんちゃんは俺達を日にち指定でまた誘う、本気らしい。
「いいよーひま」
「えっ?JILL行くの?」
「は?hawk行かないの?」
「いや、その俺はリアルで会うのはちょっとなーなんて」
ネットでは強気になれる俺もリアルではドン引きレベルの陰キャだ、会ってまともに話しが出来るとは思えない。
「何まごまごしてんのよ、キモ」
「……ひどい」
「いいからhawkも参加決定ね」
「俺マジで陰キャなんだけど引かない?」
「あーはいはい、陰キャとかチー牛とかコミュ障とかステータス感覚で使っちゃう人?全部ひっくるめて大体かまってちゃんなのよね、キモ」
「……ひどい」
こうやってちょいちょいリアルはどんな奴かみたいな話しをするんだが、俺がリアルでは陰キャだって話を2人はあまり信じてくれない。
確かにオンラインではネット弁慶ぎみだけど、とにかく俺は人の眼を見て話す事が出来ない、視線恐怖症だ。
「確かにhawkが陰キャって無理あるよな、お前配信でもちょくちょく言ってるけど誰も信じてないじゃん」
「はぁマジでヤバいんだって、お前ら本当に笑うなよな」
「「はいはい」」
こりゃ駄目だ、一回実際に会って笑い者にされないと信じないなこれは、はぁ憂鬱だ。
「つかお前ら家は東京なんだよな?確か、それならどこ住みか教えてくんない、3人が近い所を集合場所にするからさ」
「んーんーさすがばんちゃん使えるね、私は青梅だよ」
「JILL青梅なの!?結構ちかいな俺は福生」
JILLと俺が答えるとばんちゃんは楽しそうに笑う。
「ハハハお前らマジかよ俺は立川、あとJILLは言い方な」
全員同じ青梅線が最寄りらしい、これは確かに笑えるな、もう3人を組んでから1年は経つのにこれで会ってないんだもんな。
「すっごい偶然ね、集合場所どうするの?間とって福生?」
「いや、悪いんだけど2人とも立川来てくんない?俺ん家の住所教えるからさ」
「は?もう家に連れ込むつもり──」
「わかった!ストップストップ、話し進まないから!」
ばんちゃんは大きく息を吸った瞬間を狙って、JILLのマシンガンを制する、なんつうか苦労してんな。
「まあいいけど」
JILLは大人しく引き下がる、珍しい。
「俺も別にどこでも」
「じゃあ決まりだな、PINEでメッセージ送っとくから」
「了解そんじゃお疲れ」
「りょー私もー」
「おつかれさん、俺は1人でやるわ────」
こうして俺はオフ会参加が決定したのだった。