柿の実
朝、家を出て仕事へと向かう途中
指の爪くらいの大きさがある木の実が
アスファルトの上、転がっているのを見つけた
まだ青くて固いそれが
この先どんな姿になっていくはずだったのか
僕はもう知っている
この先、秋へ向けて
もっと大きくなって
オレンジへと色を変えて
立派な柿になるはずだったんだ
この時期から
実をつけいるのかって
最初に気付いたときには
驚いたな
どうにか外に出られるようになった頃
今よりもずっと
人や世界の全てが
悪意の塊だとしか見えなくて
恐かっただけの頃
今更、外をウロつけるようになったくらいでって
明日が不安で仕方なかった頃
同じように転がっていた
小さな柿の実を見て
この時期から実をつけ始めていることを知って
なんとなく
これがちゃんとした柿になるまでくらいは
頑張ってみようって
先のことはそれから不安がろうって
頑張ってみようって
思ったんだ
あれからの僕は
頑張ってみようって
思った僕は
相変わらず一人です
未だに人が恐くて
負い目や不安ばかり抱えて
潰れそうになって
全然、大丈夫からは程遠いけれど
それでも、まだ
どうにか生きています
思った以上に
踏ん張れながら、生きています
他人から見れば
どこがって
笑われてしまうレベルで
苦しがっているのかもしれないけれど
大切なのは
その物差しなんかじゃない
そんな訳で
相変わらず
打たれ弱く不安定な
僕だけど
今年もこの柿が、柿になるまで
取りあえず頑張ってみようって
そんなこと思いながら
アスファルトの上
転がっていた
小さな緑色の柿を
土の上に移して