勇者は仲間に裏切られたので、逆行して復讐します
男女双方への性暴力や、やや残酷な描写ありです!
こんな洞窟があったなんて知らなかった。冷たい氷でできた洞窟。
俺は最奥に傷だらけでしゃがみこみ、荒い息で仲間をー否、仲間だった彼らを睨み付ける。
「かわいそうにねー。ユーシャン、君には、人身御供になってもらうよ。」
「この洞窟でその命を捧げ、サマオー国に魔物が寄り付かないよう、術式のための贄とおなりなさいですわ」
周りには三人の仲間と、サマオー国の王、兵士たち。全員俺を殺す気だ。
共に戦ってきた仲間だった。最近、やっと共に魔王を討伐し、ザコモンスターは各地にまだいても、大きな平和に貢献したというのに。
噂には聞いたことがある。人身を使った、禁忌の術式。
洞窟が完成すれば、魔物を寄せ付けず大地に作物が豊富に実る守護洞窟となるとかいうものだ。
仲間をー世界のため命をかけて戦った俺を、その贄にするのか?
「うそ、だ…」
げふっと血を吐く。
集中攻撃を受けてボロボロの体で這って、どこでもいいから逃げようとあがく。
そのとたん、
ザシュッ!ボン!ザク!
仲間たちからの剣が、魔法攻撃が、毒矢が、俺を貫いた。
「かっ…は!!」
涙が出てくる。俺はみんなを、信じていたのに。
「魔王を倒した勇者といえど、四面楚歌ならたわいもないものじゃな。ユーシャン、国のためにとっとと死ね」
サマオー国の王様が、俺を豚を見る目で見下ろす。
旅の始まり、親兄弟のいない俺を認めて、お前は勇者にふさわしいと送り出してくれた人だったのに。
全部、このために?
「あなたは人柱として死ぬのです。大義のためですから、醜く這うのをやめてください」
ドシュ!逃げようと伸ばした手を矢が射ぬく。「あぐっ…!!」
ユミは、クールな少女だけど仲間思い、そう思ってたのに。魔法でもかけられたのかよみんな、そう呻く俺を、バカなこと言ってるって目で見下ろしてくる。
助かっても、もうこの右手は使い物にならないだろう。
仲間のため、世界のため、必死で鍛練してようやく魔王を倒したのに。
「勇者様。いつかは、わたくしを助けてくれてありがとうございますわ。あのときは本当にピンチでしたの」
可憐な魔法使いのサリーが、可愛らしく微笑んだ。
そう。以前サリーは敵に窮地に追い込まれ、仮死したことがあった。
その時俺は決意して、サリーを生き返らせるかわりに、精霊に寿命の七割を差し出した。
寿命はかなり減って、早死に確定したけれど、仲間のためだから後悔はなかった。けれど…。
「わたくし、いつも勇者様に好意を示してきましたわ。すきすきーって。でも、それはあなたが強くて守ってくれそうだからだけですの」
サリーが、仲間の騎士のもとへ歩みより、腕を組む。
「でもね、わたくし、早死にする人を伴侶なんて無理ですわ。だから、シンユ様と添い遂げたいんですの。私たち、少し前からお付き合いをはじめたのよ。だから、安心して死んでくださいませ」
幸せそうな彼女の手には、いつのまにか、騎士と同じ位置に指輪がある。
「ほんと、彼女まで取って悪いねユーシャン。」
そして、騎士が微笑んだ。イケメンで優男で、でも旅のはじめの頃からの知己で、戦場では背中を預ける相棒だった。
「手柄ももらうつもりだよ。君じゃなくて、僕が魔王を倒したことにするから」
彼はいつも優しかった。「ユーシャンはまっすぐで仲間思いだよね、でもお人好しすぎるよ、また人を庇って怪我してさ」が口癖だった。
でもそのシンユは。
「ユーシャンはほんとお人好しだよね…僕もずいぶん前から計画を知ってたんだけど、まさかこんなにきれいに騙せるなんて驚いたよ。本当君って、ばかだよねー」
そう言って、俺の足の腱を切った。「ぎゃあああああ!!」
嗚咽がひっきりなしに漏れる。痛みだけじゃなくて、悲しみ、恨み、そして怒り。
「ひっ…ぐっ…う…うぅ…ッ!!ずびっ」
周囲がゲラゲラ笑っている。
…許さない。許さない許さない許さない!
俺は何があっても絶対、こいつらを…ッ!!
ドシュ、ドシュ!
シンユの剣が、腕を、足を切り落としていく。
更に胸元からなにかを取り出すのが、朦朧としつつ見えた。ろくなものではないことは分かった。恐らく爆弾とか毒とか、そんな類の…。
にや、とシンユが笑う。
もし、生まれ変わったら。
絶対このことを覚えておいて、二度と、騙されぬようーー
「じゃあね、ユーシャン」
俺の意識はそこで途切れた。
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目覚めると過去に逆行していた。
俺はサリー、シンユ、ユミと焚火を囲んで座っていた。
「…!」がばっと立ち上がると、三人が不思議そうに俺を見た。
「どうしましたの?」
「ユーシャン、連日の無理がたたってるんじゃないのかい?少し休みなよ」
「…明日は中ボスを倒しにいくのだから、浮つかないでください。」
最初、意味が分からなかったが、具合が悪いふりをして一人離れて様子をうかがううちに、俺は過去に戻ったのだと分かった。
体に傷はない。三人は、何も覚えていないようだ。俺だけが覚えている。
「やった、…やったぞ」
俺は口元だけで笑い、三人に聞こえないくらいの小声で決意を固める。「これで、復讐ができる…!」
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俺は、しばらくはいつものように、騙されたことを知らない、お人好しで真っすぐな俺として振舞った。サリーは俺にべたべた引っ付き、シンユは友人づらをし、ユミは目論見など全く外に出さずいつも通りに戦闘していた。
俺の腹底はいつも煮たぎった怒りでぐつぐつしていたけど、決してバレぬよう、笑って馬鹿を演じていた。
最初にチャンスが訪れたのは、戦闘中、ユミと二人きりになった時だった。
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「くっ…!」
ユミが、断崖絶壁に手をかけてぶら下がっている。魔物に追い詰められたのだ。追い詰めてきた魔物はもう倒したが。
「ユーシャン…!」
プライドの高いユミは、決して「助けて」とは叫ばない。俺が気づくのを待っている。
俺はわざと他の魔物と戦って聞こえないふりをした。
「・・っ!」ユミが、悔しそうになるのが分かった。手が限界を訴え始めているらしい。
ついに、「ユーシャン、助けて…助けてください!急いで!」と叫ぶユミ。
俺は今気づいた、という顔をしつつ、駆け寄る。
ユミは、遅いと言いたげに顔をしかめた。すっかり助かる気でいるのだ。
「『助けて』って言えばさあ。助かると思ってたんだよ、俺も」
だが俺の放った言葉に、「は?」と目を見開く。
「俺、知ってるんだぜ。洞窟での人身御供計画」
ユミの目がさらに見開かれる。
俺は一本一本、ユミの指をねちっこく剥がしていった。
「や、…やめっ!」崖の下には、魔物の有象無象がうようよと、獲物を待っている。あんな中に放り込まれたら、四肢を引き裂かれつつ悶え死ぬだろう。
俺は微笑む。「謝ってよ。ユミ。『私のような矮小な者が、勇者様を陥れようなんてすみません』って」
「!?誰が、言うか!!」
俺は指を剥がすのを再開する。「…!ま、待…ッ!!」
ユミはぐっと歯を食いしばり、ついに、『一言もそんなこと思ってないけど』ってのがありあり俺に分かるよう顔をしかめつつ、
「…私のような矮小者が、勇者様を陥れようなんて、すみません…!く…ッ」と呟いた。
「あはははは!ありがとう、ユミ」
「早く、手を…ッ」
「じゃあね」
「…はっ、」
俺はユミの手を崖から払った。
落下していくユミが、一泊遅れて理解して、憎悪と恐怖に目を見開く。
「…ユーシャンーーーーーーーっ!!!」
魔物に呑み込まれた彼女の絶え間ない悲鳴を聞き、俺は満足した。
二人には、戦闘中彼女が落下したと伝えよう。
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次のチャンスは、サリーだった。
彼女は、戦闘中も「助けて、勇者様!私怖い!」とばかりに引っ付いてくるので、シンユがダンジョンの先へと一人進んでいくと、必然、俺はサリーと二人きりになるのだ。
この女、俺が寿命を削ったり死んだりしたら、すぐ鞍替えするくせに。
そんなビッチには、これがお似合いだ。
「サリー、こっちだ!この奥が安全だ!」
「勇者様、分かりましたわ!」
サリーを洞穴の奥へ押し込める。この女、すっかり俺が嘘をつかないと思っている。まあ、俺は絶対に入らないけどな。すると…。
「きゃああああっ!!!」
「ゲラゲラゲラ、人間の女が入って来たぜ!」
「良い肌じゃねえか、取り押さえろ!」
「いやあああああ!!!ユーシャン!ユーシャン!!!」
その洞穴はゴブリンの巣窟だ。俺は見なかったことにして、先に行ってしまったシンユを追いかけた。
「え?サリーとはぐれたの?」
「ああ。こっちじゃないかな。探そう!」
そしてたっぷり二時間、シンユとダンジョンをさ迷ってサリーを置き去りにした。
二時間後、「入口に洞窟があった!そこか!?」とさも思いついたように言って、二人で戻って来た。
果たしてサリーは、ひどい有様だった。
服は破かれ、珠のような肌は擦り傷と汚い液体だらけになり、目はうつろで涙を流している。
もうゴブリンたちはいなかったが、何が起こったか一目でわかる。
サリーの目は俺をとらえるかと思いきや、シンユに注がれ、光を取り戻した。「あ…」
おいおい、既にシンユと付き合っていたのかよ。俺よりイケメンだもんな。
「し…ゆ…さま…」
けれどシンユの反応は。
「うわっ…」ひとこと、そう言って、汚いものを見たように後ずさった。そう、シンユの本性はこっちだ。
俺はサリーにのみ分かるよう、にやりと笑って、「ざまあみろ」と口の形だけで伝えた。
サリーの目は今度こそ絶望に染まり、汚物の中で力尽きた。
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俺はこのように二人への復讐を果たした。
さあ、最後はシンユだ。
シンユとはもう二人旅だ。彼のコップに睡眠作用のある草を煎じ、飲ませた。
シンユが飲み終わるのを見て、俺はにやりと笑い自分も眠り薬入りじゃない方を飲み干す。
これで…、
…?
ぐらり、と視界がゆがんだ。
あれ、なに…?この…眠気…は…。
どさり…。
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目覚めると俺は拘束されていた。
目の前にはシンユ。人身御供にされた時のような、酷薄な笑みを浮かべている。
「おはようユーシャン。眠り薬の入れ替え、気づかなかった?だめだよー人を信用しちゃ」
「…!」
「二人は君がやったの?あの『お人よしユーシャン』が。すごいよねー。」
シンユがにっこり笑う。
「…僕も倒せるとか思ったんだ?」
そして距離を詰めてきた。「…っ!」
「んー。どーんなお仕置きがいいかなあー?君にとって、一番、屈辱的なこと…なんて、どう?」吐息がかかるほど近い。
逃れようともがくけど、ぎちぎちと拘束された腕のせいでろくに抵抗できない。
なぜバレた。薬か?それとも、二人を陥れたのがバレた?それとも…。
考えてる間はなく、シンユの手が服にかかり、ぞっとした。
「な、なにして…っ」
「あー、やっぱり男の体だよねえ。食指が動かないかとも思ったけど、君の絶望と怒りの顔、結構そそるよ」
「やめ…っ、…嫌だあーーーーっ!!」
どんなに泣きわめいても、助けは来なかった。
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服を直しながら、シンユは離れていく。俺はあらゆるところが痛く、それに屈辱でむせび泣いていた。
いろんなことをされた。道具まで持ち出された。最後は泣き叫び許しを乞うてしまった。許されることはなかった。
「結構良かったよ。サリーほど具合は良くないけど」
「…許さない、許さない、許さない…」
「あはは。どう許さないの?教えてほしいなあ」
シンユがなにかを取り出す。またなにかされる。
ひっ、と嗚咽が漏れて、恐怖からか、俺は意識を失った。
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そして目覚めると、-----焚き火を三人と囲んでいた。
「どうしましたの?」
「ユーシャン、連日の無理がたたってるんじゃないのかい?少し休みなよ」
「…明日は中ボスを倒しにいくのだから、浮つかないでください。」
……。
俺は、またチャンスをもらえたのか?シンユに汚された跡も残ってない。
俺を優しく心配するふりをする、まだ仲間のふりをしてる頃のシンユをねめつけた。
こんどこそ、絶対に…!
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ユーシャンが自分を睨み付けていることにシンユは気づいて笑いそうになった。
胸元には、時戻しの時計。人身御供実行の時、つまり二回前の人生で、王に持たされたものだ。
『ユーシャンは勇者じゃ。どう抵抗されるかもわからぬ。そなたは聡明で強い、この神具を預けるから、抵抗したら使え。特定人物の時を戻したり、止めたりできる。ユーシャンの抵抗を止めるのじゃ』
最初は、洞窟で。次は、ユーシャンを陵辱したあとで。シンユは、この時計をいじりユーシャンとシンユだけがわかるよう時を戻した。
…シンユはユーシャンとずっと旅を続けてきた。ユーシャンのまっすぐさが、優しさが、いつしか友情以上の気持ちに育っていった。
だからいつだって彼が怪我をすると心配だった。
なのにユーシャンは「大丈夫大丈夫!」と、いつも傷だらけで、心配なんて構わず笑っているのだ。
仲間がサリー、ユミと増えて、ユーシャンが自分を見てくれる時間は減った。それに二人を庇って怪我する頻度が高くなった。
怪我のたび心配した。でも伝わらなかった。
ユーシャンを生け贄にするときかされた時、王の命に逆らえば自分も殺されるとわかりつつ、シンユはなんとか助けたかった。
サリーとユミは、二つ返事で受け入れていた。サリーにいたっては、勇者が死ぬとわかると、こんどは自分に色仕掛けをしてきた。
だからある夜、二人きりの時にそっと、もしサリーやユミが悪いやつだったら俺と逃げてくれる?なんてたとえばなしを、冗談めかして言ったのだ。
忘れもしない、ユーシャンは。
『俺は二人を信じてるから、例えだとしてもそんなことは絶対ないぜ!』
それから少したって、ユーシャンは、サリーを救うべく寿命を投げ出した。ずっと親友でいようと、一緒にいようと言ってたのに。………。
彼はお人好しのバカで、シンユの助言はちっともきいてくれない。
シンユの内面はどろどろした感情で煮えきった。
そして彼は、王から時計を渡された時、暗い決意をした。
ユーシャンに現実をことごとく叩きつけてから、逆行して何度も何度も僕を恨ませよう。
そしていつか他人のために命を投げ出すことを忘れ、僕だけを見てくれるのを待とうーー。
そしてシンユは、サリーの色仕掛けを受け入れ、準備を進めた。
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今、ユーシャンは憎悪の目でシンユを見ている。
シンユは、鬱蒼と微笑みかけ、それがバレぬよう優しい表情に戻ってから、つとめて明るく言った。
「黙り込んでどこか痛いの、ユーシャン。心配だよ。」
おわり