表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クリーンハンズ

作者: 理財 学
掲載日:2020/11/05


陰で、変なあだ名をつけられていた。


『ゾンビ』。それが、私がいないときの私の名前だった。

中学生のときのことだ。いま思えば、ゾンビというあだ名をつけた意図がよく分からない。私自身もなにがそんなに嫌だったのか、わからない。


同級生たちは、わざと私が気付くように、こそこそ話をしているところを見せつけるようにしてきた。決まって、それをするときは、私からは横顔しか見えない。彼らは別の同級生と私の悪口を言いながら、瞳だけをこちらに向け、口角を少し上げている。

その下卑た表情をよく覚えている。







いきなり、後ろから股間を蹴られた。


その日の体育は、武道場で行われた。柔道の授業だった。私たちは、20m四方程度の武道場に散らばって、準備体操をする。

開脚の準備体操をしていたとき、私の股間に激しい痛みが走った。何かをぶつけられたような、痛みだった。


「ごめん、間違えて蹴っちゃったー」


なにを間違えたのか?蹴る動きなんか、準備体操にはないだろう。私は、そんなことを考えたが、ただ静かに黙って、見つめることしかできなかった。

そのあと、保健室に寄ってから教室に戻ると、「ゾンビの痛覚実験」という言葉がどこからか聞こえてきた。





財布から、金を取られた。


私は母から、月にいくらか夕飯代を渡されていた。母はシングルマザーで、夜遅くまで仕事をしていたからだ。

あるとき、お金が見るからに目減りしていた。

彼らが、机に座って、これ見よがしに千円札を何枚かヒラヒラさせていた。私が文句を言ってくるのを待っているのだろう。文句を言ってきたら、証拠がないとでも言うつもりなのだ。

私は、黙っていた。






制服に泥をかけられた。


鉛筆を折られた。


上履きを汚物入れに入れられた。


私の提出物を捨てられた。


鞄の中にヘアスプレーを吹き掛けられた。























あれから30年。

私の心は、中学生のときから成長していない。進むことができなかった。


私は、勉強だけはしてきた。その結果、まともな学歴を得て、就職は思うようにはいかなかったものの、地元の地域の小学校の教員となった。

心は中学生のときのまま、決して時は進んでいないが、仕事はこなしていた。




それに気がついたのは、生まれ故郷である市の、隣の市の小学校に赴任したときだった。


一つ下の学年の名簿に、私をいじめていた男の苗字が名簿に書いてあった。

調べると、たしかにあの男の、子のようだった。生まれ育った市と隣の市に、家庭を築くのは、なんともモデル的、悪くいえば典型的な生き方だ。



私のやることは決まっていた。


その子を、教員の力を使って、徹底的に追い詰めた。





細かな行動をあげつらって成績を下げた。


提出物に薬品を擦り付けて劣化させ、白紙提出扱いにした。


他の教員の私物をカバンに入れて泥棒の濡れ衣を着せた。


体育着にトイレの尿を塗りたくった。


筆記用具を犬の汚物塗れにした。











特に、尿や汚物は効いた。


小学生は匂いや汚れに敏感だ。あの男の子供はすぐに、汚染物扱いされいじめの対象になった。


私は胸がすく思いだった。

男の子供が、男の大切なものが、追い詰められていく。傷つけられていく。私の手によってだ。

これほどの快事はそうはない。










罪のない子供を巻き込むのはどうか、というのはごもっともな意見だ。

では、いじめられた私にはなんの罪があったというのか?私がやつに蹴られて負った怪我は、なんの罰だったのか?私が盗まれた金は私がなにをしたからだったのか?










私に罪はない。

あの男は、罪のない者を傷つけることを首肯したのだ。

私は、あの男の価値観に則って、行動をしているだけだ。

あの男のルールでは、罪のない者を傷つけることは許される。であれば、私が今あの男の子供を傷つけていることは、責められようもない。








近いうちに、あの男も気がつくだろう。私が彼の大切なものを傷つけているということに。



そのときは、証拠がないとでも言うつもりだ。

この主人公に対し、いかなる倫理的批判が考えうるか興味があります。

ぜひご意見を伺いたく思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 虐め側の後悔する姿がみたいわな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ