1幕 北条家篭絡
再始動、第2部開始です。
――相模の国(現神奈川県)。
小田原城の城門を叩いたのは、ふたり連れの行商人風情。
彼らは城番らにこう告げた。
「北条シンクローさんに会いたいんですが」
「ナニモンだぁ、きさまら!」
「あー。わたし? 甲斐信濃を領する【木下藤吉郎陽葉】って言います。こっちはお供の前田又左衛門犬千代。ちゃんと事前にアポ取って来ましたよ?」
◆◆
「ちょっとシンクローさん。門番にちゃんと言っといてくださいよ。散々疑われた上に、槍で突き殺されそうになったんですから」
「だからって……。足腰立たなくなるまで暴行加えなくても」
「それはオレがしました。主人の命を守るためですから」
平伏する前田又左。
しかしその眼には警戒心を強くこめている。
「――で、さっさと用件を言いましょう。ズバリ、上越の春日山城と同盟を結んでください。戦国武将ゲームのプレイヤーであるあなたなら、言ってるイミが理解できますよね?」
「戦後武将ゲーム。……ああ、そうだけどね」
――戦国武将ゲームとは。
あらゆる時代のあらゆる人が、戦国時代に召喚されて戦国武将などに成りすまし、天下盗りを目指すクソなゲームである。
北条氏康は昭和50年代のごく平凡な中学生だったが、ある日戦国時代に跳ばされ、こうして北条氏康になり切ってプレイしている。
交渉相手の木下藤吉郎陽葉、この者は木下藤吉郎秀吉に成りすました15歳の女の子だが――この娘も昭和末期からこの戦国時代にやって来たプレイヤーのひとりなのである。
「オレ、徳川家康がキライなんだよね。それに、アンタも」
「わたしも?」
「だってアンタ、史実だとオレっちの子孫を滅ぼすでしょ? ほら、小田原評定とか言って後々まで北条家は歴史好きにバカにされてるし」
木下藤吉郎、正座を崩し、北条氏康にすり寄った。
「まーまー。冷静になってくださいよ。それは過去の話でしょ? いま歴史を作ってんのはわたしたち。あなたが言う歴史になんないように、あなたは頑張ってる。そうでしょ?」
「……え、ま、そーだけど」
木下藤吉郎に手を握られた氏康は、赤面してそれを振り払った。
「あなたの当面の問題。それは何ですか?」
「問題……」
藤吉郎の言う通り、北条家には重大な問題が生じていた。
それは東国の脅威である。
北関東に盤踞する佐竹氏、更には東北の雄、芦名氏が南下の動きを見せていて、それに呼応した南房総半島の里見氏がふたたび北条家に反抗の意思を示した。
木下陽葉は、その状況を的確に指摘している。
「わたしの木下家と徳川家、そして上杉家は強固な軍事同盟で結ばれています。上杉家と長年敵対している北条家を目障りに感じているのは木下家も同様です。だって――」
木下藤吉郎がジッと彼を見詰めた。
「だ、だって?」
「だって。わたしの目標は上洛。一日でも早く京にのぼって天下に号令をかけたいんですもん。地方でグズグズしてらんないでしょ?」
グッと喉をうならせた北条氏康に対し、木下藤吉郎がトドメを刺した。
「コレ。携帯電話って便利道具です。プリペイドタイプだし取説はわざと付けてないんで、色々制限付きでしょうけど。お近づきのシルシに進呈します。わたしとこの又左の連絡番号を載せてますんで、今夜中に返事ください。そうしてくれないと明日にはここ小田原城に向けて徳川、木下、上杉の連合軍が進発してしまいますんで、なるべく早くに連絡。お願いしますね!」
北条氏康プレイヤーの時代にはまだほとんど普及してなかった携帯電話。それを呉れるというものだから彼のボルテージは一気に高まった。
「携帯電話……だと?! 噂には聞いていたし、前に今川氏真に見せびらかされたことがある!」
「あー。アイツらの時代の物はこれより更に進化してると思いますが。それでもこれも十分に高性能ですよ!」
「……本当に呉れるのか?」
「ええ。本当だともさ。でも、ちゃんと言うこと守って電話してくれるかな?」
くく。と肩を揺らす氏康。
「ああ。いーとも!」
木下陽葉再始動




