93歩 「対武田戦(5)」
予想してたよりも早く火の手が回っている。
ただの脅かしのつもりだったのに、このまま手をこまねいてたら躑躅ヶ崎館全体が燃えちゃうかもしれないってビビリはじめた。
「信玄さんっ! 追い詰められてるのはあなたもでしょ?! 提案なんだけど、大人しくカードを渡して戦国武将ゲームを降りてくれたら、持参したドローン使って消火活動はじめるよ? いまならまだ本殿までは延焼してないだろうから……」
「女藤吉郎の言ってるコト、ちっとも伝わらねぇ。ハァ? なんだって?」
「奥御殿には、こっちの世界での信玄さんの家族も居るんでしょ?! 早く非難させてあげなきゃでしょって!」
はあそれで?
と信玄が首をかしげる。
それで……って。
「藤吉郎。コイツに日本語は通じないようだ」
又左が吐き捨てる。
薄々覚ってた。でもそういう風に傍から言われたら余計ヘコむ。
だってそれって、わたしお得意の説得作戦が通用しないってコトじゃん?
そりゃ、火をつけたのは確かにわたしら。
放火しといて「消火してやる」なんて、どの口が言うの? ……とも思う。
けどさ。コミニュケーションとろう、話し合おうって態度すら示してくれないなんて。
何とか踏ん張ってる前将さんも、撃たれた腕が相当痛そうだ。うーうー唸ってる。早く手当てしてあげたい。
なのに打開策が浮かばない。
まさにピンチの真っただ中だ。
「信玄さん。いえ、戦後のお兄さん。あなた映画、見たコトある?」
「映画? 無え」
「この場合さ、わたしがアンタの言う事聞いてカードを差し出したら、だいたいアンタは裏切って『これで用は済んだ、じゃあアバヨ』とか言って、躊躇なくわたしらを皆殺しにするんだよ。映画じゃほぼ100パーセントそうだ。わたしはそれを心配してんの」
「……」
「それならわたし、この場でカードを壊してこのゲームを無効にする。ノーゲームにする。つまり、アンタの行動はそれだけ信じれないっコト!」
声を励まし必死に訴えた。
ときどき降り注ぐ火の粉が口に入って、オゴオゴ喉を詰まらせながら。
ここまでしてもコイツの気分が変わらなきゃ、ホントにもう絶望的だ。
「……おもしれーな、オマエ」
面白い?
面白いなら、ちっとは笑みを見せろ!
「何がよ! 何が面白いのよ!」
「オレの行動がよく分ったなあって。占い師か、オマエ?」
……ヒイイ。やっぱしそーだったか。
「よく分かった。アンタはそう言うつもりだったんだね。じゃあ、カードはこの場で潰す」
又左がサッと剣を構えた。
わたしが取り出したカードに刃を当てた。
すると信玄が急に歯を見せた。
わ、嗤った?
「何が可笑しいのよ?!」
そう言うとさらに「ククク」と喉を鳴らした。
「オメーよ? 戦国武将やめて演劇俳優にでもなったらどーだ?」
「はぁ?」
問い返してやろうと睨んだら、反対に恐ろしい目で睨まれた。思わず絶句するほどの恐怖を感じた。
「――テメエ。ナメてたら即殺すぞ?」
背筋に刀を当てられた心地がした。
タラタラと汗の粒が両腕を伝う。
「な、何を……」
それしか言葉が出なかった。
「何を? それがオマエの答え?」
「あ、いや……」
グッと胸苦しさを飲み込む。
「茶番に付き合う気はねぇ。オメエの持ってるそのカードがホントーに自分の物ってんなら、壊してみろや。出来るんならな」
敵さんにバレてるぞ。
前将さんがくぐもった声でつぶやいた。




