9歩 「制服」
「これ、学校の制服じゃないの?!」
小屋を借りて着替えたわたしは、あらためて傾奇者の少年に礼を述べ、返す刀で質問した。
中学女子が着る制服だ。ちなみにわたしはもう高一だ。
――いやいや、ちがうって。ツッコミがズレてる。一番聞きたいのはそこじゃない。なのに聞いちゃった。
「維蝶乙音さまから預かったものだ。勘違いするな」
小屋の中。囲炉裏の薪をくべながら冷静に弁解された。
「……いちょう……おとね……?」
聞いたことがある名……!
――確か。
「あ! あぁ!」
妹の恋のトモダチ。――維蝶乙音ちゃんだ。はっきりと思い出した。家に遊びに来たこともあったはず。色白で欧米人のような目鼻立ちの整った美人さんだった――。
――彼女は、不登校になったってウワサされてた女の子だ。
イジメだとか病気だとか、家出だとか交通事故でとか……。ガッコウ内で勝手な憶測だけが飛び交って、でも真の理由は誰一人知らなかったんだけど……。
けれども、それからもう10日以上経ってると思う……!
「あ、アンタ、ゆ、ゆ、誘拐したの……? あの子を……? こ、この制服が、どうしてここに? わたしが着てるって……こ、ことは……!」
「さっき言った。勘違いするなと。維蝶乙音さまはオレの主だ。オレは命じられて一時的にこの小屋の番をしているだけだ。そして、来訪者が裸なら是非なく保護しろと言われてな」
彼は鋭い目でわたしを睨んだ。それともコワモテだから睨まれたようにみえるだけなのかな?
「あなた……サムライ、なの?」
おそるおそる確認してみる。
「オレは、尾張海東荒子城々主、前田蔵人が四男、前田又左衛門犬千代。オマエの名はなんだ? 札を見せてくれ」
「札?」
「そうだ、札だ。戦国時代に来る前に、手にしただろう? カードとも言ったか。とにかくそれを見せてくれ」
もしかしたら、コインシャワーの脱衣所で天井から降ってきた、アレかもしれない。
「カード? 分かんないよ。失くしたよ」
しかたなく、少年にすがる眼差しを向けた。
この子、いま前田犬千代って言わなかったっけ?
ガチ戦国武将を名乗っちゃってるよぉ、ヤバくない? やっぱ、逃げた方が良いかなぁ……、ドッキリにしたってちょっとやりすぎじゃない?
わたしの混乱をよそに彼は立ち上がり、小屋を出て行った。
今? まさに、逃げ時?
ワナワナしていると、すぐに戻って来た。
「あぁ、あああぁ」
わたしのグズ! グズっ! 戻ってきちゃったじゃんかよお。
「落ちてた。……これだろ? オマエの?」
ヒョイっと投げ寄越したのをキャッチする。
「あ? これ、そう……だね……」
彼の手の中では無反応だったものが、わたしが触れたとたんに電源が入ったように「フッ」と心なしか明るくなった。ツルツルのテレビ画面っぽい部分に【木下藤吉郎さま、こんばんは】と文字が浮かんでいる。
うおおおおお。なんと!
そんなのさっきは無かったじゃん?! ういヤツ、ういヤツ!
……ただやっぱり、他にボタン? らしきものは見当たらない。
真横から無遠慮にのぞき込んでくる彼。
「木下藤吉郎……か。美濃姫……乙音さまがくれた情報と合致するな」
横顔が近い!