89歩 「言っちゃえば楽になれるの?」
ラブコメ的展開の続き。
「陽葉、聞いてくれ。オレはずっと言いたくて言えなかったことがある」
「……ま、待ってよ!」
作戦開始前、異常な高ぶりの中で突然降ってわいた妙な雰囲気にひたすら困惑するしかなかったわたしは、何かを言いかけようとするイチゾーの前から逃げた。
ちょうど背にしていた木の向こう側に、ひとまず隠れ。そうしてさらに走り出そうとした。
けど彼の声が容赦なく追いかけて来た。
するとどうしてだか、足がすくんで動かなくなった。
「陽葉。オレはこのワケの分からない【戦国武将ゲーム】ってのを憎んでる。でもそれに夢中でのめり込んでいるオマエにはずっと協力して来た。最初はそうすることで、乙音がこっちの世界に帰って来れるようになるだろうって思ってたからだ」
「……」
「けど最近はそれだけの理由じゃなくなってた。……なんて言うか、陽葉が楽しそうにしてるのが嬉しく思えるようになってたんだ」
わたしは耳をふさいだ。
それでもイチゾーの言葉は一字一句、しっかりと届いた。
「昔からだ。昔から陽葉はオレに心を開いてくれなかった。本心を言ってくれなかった。常にオレの言う事なんて聞けるかって態度だった。オレはオマエに嫌われてる……。そう思ってる」
そ、そんなコトはないっ!
そんなコトは無いよ!
「だから乙音と付き合った……っていうのは身勝手な、ただの言い訳だ。でもアイツは、乙音はオレのその気持ちに気付いている。分かっている」
もうダメだ。
もう、黙ってられない……!
「き、嫌ってなんてないよッ! ただアンタさ――!」
振り向けないッ。
けども一生懸命話そう。話して分かってもらおう!
「乙音ちゃんは確かによそよそしいかも知れない。……きっと心の余裕がないだけなんだよ、イチゾーのコトを忘れたわけじゃないんだよ。そんな投げやりで場当たり的な発言、やめてよ!」
「投げやり? 場当たり? 違う! ――オレは昔から……!」
「だから、やめてって! 乙音ちゃんに悪いでしょ! 何を言おうとしてんのか分かんないけど、トチ狂った発言しないでって言ってんの!」
トチ狂ってるのはわたしだ。
何を言おうとしているのか分からないですって?
ウソつけ!
どの口が言ってんの?
乙音ちゃんに悪い?
いったいわたしは何様なんだ?
「――とにかくオレは陽葉に危ない目に遭って欲しくない。今からオマエがしようとしてるコト、必死さが伝わりまくるんだよ! だからオレは止めてんだ、オマエが今からしようとしてんのはアソビじゃねえだろ、人を傷つけるかもしれねぇ物騒なケンカだろ、そんで、オマエ自身がケガをするかも知れねえ行為だろっ! そんなのに付き合えって? わたしの言う通り動けだって? フザけんじゃねーぞ! もうこれ以上は言いなりにならねーぞ、だってオレは」
どうして。
どうしてわたしはイチゾーのカオを見ているの?
ずっとカオ、そらせていたのに。
へたっびいな演説をする、声を嗄らしてわめいている彼を眺めているの?
いつの間にか振り向いてしまってた……。
「い、イチゾー……」
又左がわたしとイチゾーの間に割り込んだ。
青筋を立てている。
「藤吉郎。オレと所帯を持とう」
「え……?」
作者的にこちら(ラブコメ要素)の展開も気になってました。
ヘンな構成ながら、挿入できて良かったです。




