88歩 「感じれそうで感じれない、予感めいた何か」
恋愛物である事を忘れないよう割り込み回です。
あ!
切れた。乙音ちゃんからのとの通話。
切られたんだ、一方的に。
クソなんて子だ。香宗我部の事になったら途端にコレだ。けしからん。
「前将さん、行くよ!」
「な、なんじゃ、いきなし出立するのか」
「そうよ。グズグズしてらんないよ。相手が動揺してる間に畳み掛けるのよ」
又左とイチゾーがわたしを見詰めている。
なによ! わたしは今すっごく機嫌が悪いの!
「陽葉、何度も言って悪いがオレも連れてけ。戦国時代に」
「ハアッ?! 何言ってんのイチゾー。連れてけるわけないじゃん」
命の保証なんて出来ないよ、とまでは言えなかったが、その代わりに睨みつけてやった。
「連れてけないってんなら、もう行くな。戦国時代には行くな」
そう言ってわたしの腕を掴もうとした、のを払い除けて、又左がわたしの手を取った。
「藤吉郎、行こう。もう時間が無い」
「ウン。……って又左、ちょっと手が痛い、あんまり強く握んないで」
すると今度はイチゾーが又左の前に立ちふさがり、彼を押しのけた。そしてわたしを乱暴に自分の方に引き寄せた。
わたし、されるがままだ。
「陽葉は行かせない」
「……何だと? 急に何を言い出してる? オマエはオマエに与えられた任務をちゃんと全うしろ」
又左とイチゾーが一気に険悪なムードになった。
イチゾーの胸の中に収まってるわたしは必然、男らの間にはさまれたカタチになり、パニック状態。
ナニガ、ドーナッテンノ?!
「……ワリいな、陽葉。……オレ、この期に及んで勝手だよな。でももう、それでもいいや」
そう呟かれ、抱き止められていたのをグイ! と後ろに押しやられる。まるで又左から引き離し、遠ざけるように。
「ちょ……!」
反発してイチゾーの前に出ようとしたとき、又左の右拳がイチゾーの顔面に飛んだのが見えた。イチゾーはかわした。――ので、わたしに当たりかけた。
すんでで止めた又左の頬は引き攣っている。振り返ったイチゾーの額も青くなっていた。
「ふたりとも! どうしちゃったの!? すっごくヘンだよ? 言いたい事があるんだったら殴り合いなんてしないでとことん話し合いなよ! お互い納得するまで、わたし、待ってるから」
ふたりから数歩キョリを取ったわたしは、目についた木にもたれかかった。こうなったら仲直りするまで付き合ってやる!
……そのつもりだった。
が、前将さんがそんな悠長な空気をぶち破った。
イチゾーと又左、ふたりの首に腕を回し、怒鳴った。
「お前ら。タマついてるならさっさとしろ。どっちが先だ、さぁどうだ、このヘタレども!」
何だか分からないが、挑発されたふたりは敵同士のように目を怒らせ合い、少しの間黙っていたが、やがてイチゾーの方がわたしの前に立ちはだかった。
「……陽葉」
名前を呼ばれて、何故かドキンとした。




