86歩 「三河進攻(7)」
「それで家康ちゃんは大丈夫なの?!」
『心配ありませぬ。ゲリラ部隊にはゲリラ部隊を。身辺は常に闇戦闘のプロさんたちに警護してもらってまする』
や、闇戦闘って……、どんな日本語なんだ……。
一瞬、先日テレビで再放送やってた服部半蔵・影の軍団を思い出した。昔、お父さんが見てたっけ。
あれって徳川家康の配下だったよね? 違ったっけ? (作者注:厳密には違います)
わー、千葉真一さんしかイメージ出来なくなった。
『上杉軍が川中島に到達しました。駆けつけた武田軍と睨みあいの状態になったそうです』
乙音ちゃんは報告を打ち切り、先を急ぐからと通話を打ち切った。
家康ちゃんから申し出。
『藤吉郎どの。この後少しだけふたりきりの打ち合わせをして良いでするか?』
「大丈夫だよ。……でも手短かに行こう。なんせウチのお母さんが早く出発したいってウルサイんだ」
旅行気分か。と怒鳴りたいが、ゲームに無関係な人たちにとってはそりゃトーゼンのコトだ。イチゾーはわたしに気を使ってなのか、苦手な人だと口外していたお母さんに対し、愛想よく話し掛けている。時間稼ぎのつもりだろう、気を紛らわようとしてくれてるんだ。
「家康ちゃん。話を続けよう」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
東名高速と中央道を駆使して5時間半。
わたしの指図でお母さん号には妹の恋と又左、イチゾーのおじいちゃん号には前将さんに乗ってもらった。わたしはってーと、イチゾーのバイクにニケツ。
道中、とにかく辛かった。
「せっかくだからわたしたちは市内観光してくるわねぇ」
「元気だねぇ、いってらっしゃあい。でも軽トラは置いてってねー!」
「ええっ?! なんでよー?」
当たり前だ、母よ!
わたしらはそのためにわざわざ苦行の軽トラでここまで来たんだ。
――さて。着いたところは武田神社。
かつて武田信玄の居城、躑躅ヶ崎館のあった場所だ。
ここから手作りの簡易コインシャワーを使って戦国時代に跳び、あわよくば直接武田信玄を襲い、勝利する。
参拝者用の駐車場に車を停めて、あたりを眺め倒す。
なんて厳かで静かな空間なんだ。
400年前にここに一大勢力を築いた有名戦国武将の拠点があったなんて、いまいち考えつかない。
「陽葉。この後どうすんだ?」
「イチゾー。あんたは観光に行かないの?」
ハアッ? ってカオ。
「オマエな。オレがここまで何のためにオマエを乗せて来たと思ってんだよ?」
「……ナニその言い方」
「お前こそ」
……分かってるよ。乙音ちゃんのためにここまで来たってんでしょ。
いいよ。好きにしたらいい。
ガイドブックを広げてキョリを目算する。
又左がわたしの腕を引っ張った。な、ナニッ?!
「信玄の主殿はこっちのようだ。行くぞ」
「う、うん」
前将さんとイチゾーがわたしたちの動きに慌てて追い掛けてくるのが分かったが、又左の早足につられてつい、わたしも速足になった。
「ここって……」
神社の本殿だ。
現在は神社なんだって再認識。
どうやら巫女にでも化けない限り、ここから奥には入れそうにない。
「いずれにせよ、軽トラはここまで侵入できない。その上で作戦を練るぞ」
イチゾーが言うと前将さんも「うむ」と同調した。
「およそのところは家康ちゃんから聞いてたんだ。軽トラの駐車場所も戦国時代にはどんな建物があったかはボンヤリとは分かってる。……んじゃ、これからの手はずを言うから良く聞いててね」




