85歩 「三河進攻(6)」
突然だが香宗我部一三にはおじいちゃんがいる。
当年とって73歳だけども、若々しい!
かたや前将さんは20代半ばらしいが、見た目はオヤジだ。
そのふたりが出会った瞬間に意気投合していずこかに出かけていき、夜になっても戻らず。
結局帰って来たのは翌朝の9時すぎ。バッカじゃないの?!
「陽葉チャン! 甲府を攻めるんじゃったらワシが軽トラを運転してやろう! カナコさん付なんじゃろ?!」
てなノリで、イチゾーのおじいさんが運転手の仲間入り。前将さんに言わせたら一晩かけて説得したとのコトで、テキトーなウソつくなッ! ……と、とにかく作戦が続行できる運びになった。
そこへ、乙音ちゃんから連絡が来た。
『岩村城付近に進軍していた斎藤軍が武田の奇襲を受け、敗走しました』
「なあッ?!」
奇声を上げたのはわたしでは無く又左である。
「い、岩村城ってどこなの?」
「東美濃の……岐阜県の恵那だ」
「み、美濃国に武田が侵入したっての?!」
難しいカオで前将さんがうなづいた。
「そういう事だの。予想以上に武田の動きは速い」
「それで道三さんは――?!」
『音信不通です。多分、稲葉山城に引き返してる途中。春日山城の上杉謙信さんが信濃に出張ってくれたから追撃は受けてないと思いますが』
楽観を口走る乙音ちゃんの声は暗い。
『徳川の家康さんと今川氏真さんともつなぎますね』
『あーあー、聞こえまするか。家康です』
『あー、氏真だ』
挨拶もそこそこに乙音ちゃんは本題に入った。
『我が織田軍は無血開城させた鳴海城を破却して東進し、本日沓掛城に入りました。尾張の全兵力、2万5千の軍勢です。これで徳川軍と合流し、対武田戦に臨みます』
『わたしは急ごしらえの曳馬城改め浜松城で氏真軍と合流しました。松平の縁者衆と旧今川家来衆に呼び掛けを行い、ざっとでございますが5~6千ほどの数にはなったと思いまする』
『安倍元真、鵜殿氏長、朝比奈泰朝の3人が兵を連れて駆け付けてくれたぜ。コイツらみんな、いいヤツだ。それと水野家の連中もな』
『問題は美濃から信濃へ入るルートです。斎藤軍が敗れたとなっては2ルート同時攻撃は叶いません』
『どころか、武田の動きがいまいち読めん。ブキミの一言だぜ』
乙音ちゃんと氏真が不安を口にする。
家康ちゃんが話を継ぐ。
『わたしの配下のスパイによりますると、武田は、ベルリン壁崩壊前の旧共産圏から入手したと思しきサイレンサー付きのサブマシンガンを装備した精鋭部隊にて、斎藤軍本陣を急襲したそうでする。結論的には武田信玄は、昭和時代の反社組織か何かを後ろ盾にした危険人物だと思われまする』
イチゾーの身がブルッと震えたのを見た。
彼のおじいちゃんが珍しく腕組みし、しかめ面をしている。
まさかゲームプレイヤーにそんなヤツが混じってるなんて思いもしなかった。




