81歩 「三河進攻(2)」
ピリピリした空気が漂ってる。
今川の氏真と、緒川の水野雪霜ちゃんとの間にだ。
「氏真。上杉とのトモダチ登録、有難う」
「ああ。それよりよ、雪霜だよ」
雪霜ちゃんはわたしの後ろに隠れて身を縮めた。
「氏真姉さまと家康姉さまに会いに来たんでしる!」
クッ――と、氏真のカオに朱が注がれた。
わたし、事情は家康ちゃんからすでに聞いている。
雪霜ちゃんは、ふたりにとって腹違いの実妹。
氏真が雪霜ちゃんに対し険のある態度を取っているのは、たぶん雪霜ちゃんがお父さんとの浮気相手との間に生まれた子だから……。この様子だと彼女を疎ましく思ってるってコトだろう。
「家康がオマエをどう思ってるのか知んないがな、わたしはオマエがキライなんだよ」
「氏真! 言ーすぎ!」
わたしの空手チョップが氏真の脳天に炸裂した。
……あ、しまった。先に手が出ちゃった。
「いってーッ! ナニすんだ、コイツ!」
「雪霜ちゃんはアンタと家康ちゃんを心配したから後を追って来たんだよ? それが分かんないの? 姉ちゃん想いの妹なんだよッ?」
「イイ人自論、ブッコむな! ……ある日平成時代に戻ったら、雪霜がいなくなったってオヤジが大騒ぎしてやがった。普段どこに住んでんのかも知らねーし、まーったく音信不通のクセしやがって、突然家に乗り込んで来やがってこれだ。わたしと家康を見るなりいきなり罵倒だよ。『お前ら、何か仕出かしただろう? 雪霜をどこにやりやがった?』 っだってよ……。……そんなん知らねーよ。……ハハハ。雪霜のコトになるとクソオヤジ、必死になりやがるなって。あのときはなんか、無性に可笑しくなっちまったよ」
雪霜ちゃんが、背負っていた自分のリュックサックから小さな包み紙を取り出した。
「なんだよ、それ?! んー? デイスティニーリゾートの紙袋?」
「誕生日プレゼント渡したかったのでする! 氏真姉さまと家康姉さまに」
「……サリーメイのマスコット?」
スグ分かったようだ。氏真のカオが紅潮した。案外好きらしい。
「デイスティニーリゾート、前に3人で行ったでする。そのとき買ってもらったでする。そのお礼でする。これでお揃いでする!」
氏真、袋紙の中味、マスコット人形のキーホルダーと雪霜ちゃんを交互に眺め、ちょっと瞑目した後嘆息した。
「……とにかくオメーが無事で安心したよ」
取り出した懐刀にそのマスコット人形をぶら下げた。……しまうにはちょっと大きいね。
「可愛いキャラクターだね。わたしの時代にはまだ無いよ」
「昭和にこんなカワイイのがあってたまるか。物欲しそーにしても、やんねーからな」
「一言多いなー。呉れても受け取らないよ! 大事にしなよ!」
フン……と刀をしまう氏真。
「ついでに家康も安心させてやれ」
「がってん承知の助でするー」
「しょーわかっ!」
わたしと氏真のツッコミが珍しく被った。




