78歩 「交渉成立」
手縄をされた女の子が土間に連れてこられた。
小学校の3年か4年くらい、男の子向きの青っぽい木綿着を着ている。髪の毛をだいぶ短くしてるがスグに女の子だと判る。黒目勝ちの可愛らしい双眸を怯えさせている。
小六を押しのけたわたしはその子に駆け寄り、抱きしめた。
「痛かったねぇ。ヒドイ大人がいたもんだよねぇ。お姉ちゃんが村まで連れて帰ってあげるからねぇ」
「何度も逃げ出そうとするもんでの。悪リィな」
「にしても、やり方ってのがあるでしょ! この不良少年!」
謝っとるがや! とウザそうにする小六が憎たらしく、ボカボカと殴りつけてやった。頑丈な胸板にはばまれ一向に効いた様子が無かったが、わたしの気はやや晴れた……ことにしてやろう。
「どーか、話を聞いてくださいでしるっ」
解縛された女の子が、すっとんきょうな声を上げた。
「ずっとこの調子なんでさ」
彼女の監視を任されていた小六配下の世話係らは、早く引き取ってくれとわたしに泣きついた。昨晩はやかましくて眠れなかったらしい。
あらためて女の子を見る。よくよく観察すると体のあちこちに擦り傷や切り傷があった。
くくりつけられる時にだいぶ抵抗したんだ。
「小六ッ!」
もっかい殴っちゃる! このっ!
「お嬢。気持ちは察するが、この子と一緒に行動していた者どもは一様に身のこなしが侍じゃったというコトだ。小六が用心し、かような仕儀となったのは無理からぬことぞ。お嬢も気にした通り、やもすると鳴海城の山口教継か、跡目の教吉が係累かも知れぬぞ?」
前将さんの抗弁。
目線の高さを同じにして女の子に対する。
「ねえ? 聞いてくださいって、いったい何を聞けばいいの?」
「ええとね。わたしのお城はだいじょうぶでしゅる。織田の殿に早く会いたいでしる」
――えーと。
「お名前は?」
「知らぬ人に言えぬわって言えと父上が」
知らぬ人には言えぬ。
……言えぬ、デスカ。
「……小六」
「は。なんですかい?」
「この子を織田美濃さまに会わせる。アンタも付いて来て。警護役ね」
「警固ね。いーぜ?」
「そう。日当は60文でいいよね」
「否。日毎ひとりにつき1貫文。オレ以外に2人つけてやるで計3貫文。道中の宿と飯代はそちら持ちじゃ。前金で500文を今すぐ頂く」
な?! 1貫文!
……ニヤニヤする小六。まっじにムカつく。
「ほう。呑代は取らんのか?」
苦笑の前将さんがイヤミをとばすと、
「これはお役目だぎゃ! 酔っちもうてて不覚は取れんで」
と小六が真顔で返した。
「藤吉郎。本来のお役目はいいのか?」
又左が聞くので逆質問で応えてやった。
「父上が『名前を名乗るな』って言ったって子がここに居るけど? どーする?」
「……う。……そうか」
スグに連れて帰ろう。と、又左が珍しく狼狽した。
17件目、ブクマ有難うございます!
本日はごめんなさい、明日御礼イラスト描きたいです。(剥がれてるかな)




