77歩 「昭和アイテムで錬金術」
矢作川に橋を架けよう。
藤吉郎陽葉の商才発揮?
蜂須賀小六お手製の関所で周到に準備を済まし、ついにくだんの矢作川を越えて三河の国に踏み入ったわたしらは、まず手始めに岡崎の町に赴いた。
予め家康ちゃんと結託し、近郊の商家をでっち上げて騙り、当地のお奉行を務める山田新左衛門の屋敷を訪ね、矢作川架橋の許可を得るのに成功した。それはまぁ、カンタンだった。
すべての費用は当方持ちとの申し出に、相手が二つ返事で承知したからだ。尾張への軍事経路がタダで整備されるのだから、これは有難いと都合よく解釈してくれたんだろう。とりあえず心変わりされるまで時間のゆとりが出るってもんだ。
その足で、わたしたちは周囲への警戒を怠りなく近郊の有力商家を丁寧に訪ね回ることにした。
訪問の用向きはこう。
今後貴殿らと商いをしたいが、なんせこのご時世やたらと物騒で、尾張への物資の行き来がそうそう容易じゃない。そこでまず、村同士が結託して矢作川に分相応の橋を架けようではないか。往来の道がはっきりと定まれば、おのずと警備すべき要所が絞られて、自衛策もそのぶん打ち立て易くなるでしょう? と。
これには大方の商家が賛同してくれた。そりゃ一部にはバックに潜むサムライの陰に不信感を抱き、拒絶する人たちもいたにはいたけども。
例外を除き、ほとんどの人たちが今川と織田の間でうまく立ち回り、あわよくば今以上の地位や財産を得たい、少しでも浮かび上がりたいと思っている素振りが透けて見えた。
わたしは、商いの取引をするうえでは、今川や織田などとの関係には一切こだわらない事を強調し、ただ、どんな小さな内容でも両家に関する情報を仕入れたら教えろと伝えた。それも大事な商品として扱い、ネタの質に応じて、情報料を支払うと売り込んだ。但しそれらの情報がガセだと判明した場合、その後の取引は無いことを承知させて。
そして今回、お近づきのしるしとして交易したい品々の一部、たとえば目覚まし時計、ソーイングセット、カセットコンロ、カンヅメなんかを無償プレゼントした。
はじめは奇妙な商談を持ちかけてきた素性のしれない余所者に、そうとう疑り深い目を向けていた連中も、その進呈品の珍妙さと品数の多さに驚き、やがて自分たちが気付かないまま、前のめりなくらいの関心を示し、ついには、「協力を惜しまないから頼む」とすがりつくほどの勢いで契約を結ぼうとしてくれるまでに至った。大部分がそういう反応だった。
未知の品々をただでくれるってんだから、そりゃ興味がわくだろう。
だけどプレゼントされた全部が消耗品を必要とする商品だとしっかり断っておき、「これから定期的な取り引きが必要ですよ」と、はっきりご理解いただくことも忘れなかった。
だってさ、カセットコンロにはガスボンベ、目覚まし時計には乾電池が当然必要なんだから。
これでわざわざ通行料取って資金集めしなくても小さな橋を架ける費用くらいはすぐに稼げるだろうし、小六の悪行も続行する口実がなくなるよね。
「はい。約束の20貫文。手付金には十分でしょう? 公約通りとっとと橋、つくってね? さもないと今川の連中が怒鳴り込んで来るよ?」
「――はあ? オメーたった2日でこんな金、いったいどうやって……?」
「それ聞きたきゃ、指南書は50貫文でいいよ。それとも口伝えで良ければ日銭30文で請け負うけど? 時間ないでしょ?」
「このオンナ……」
プルプルさせたごっつい腕を、やられるのが分かってるクセにわざわざ彼の傍らで殴られ待ちしてる丸坊主さんに思い切りぶつけ……いや、かわされた!
……と、すかさず代わりにキックをお見舞いし。いっぺん通りの八つ当たり儀式を済ませた。マンゾクしたかな?
「監禁してる子、連れてくね」
――こうして、その子に面会したわたしは驚いた。
男の子ではなく、女の子だったから。小六、ちゃんと見ろ!
もしかしたら緒川城々主、水野藤七殿のご子息なんじゃないかって期待していたわたしと前将さんは、少しばかり落胆した。
陽葉と又左「一緒に跳ぼっ」(ブクマ16件目御礼)




