69歩 「信長さまの野望」
那古野城近郊にて、信長さまとお話。
板敷の床に札を置く信長さま。
札……じゃなくって戦国武将ゲームのプレイヤーカードだそう。一見すると木でできてる。今まで見たことないタイプだ。
信長と乙音ちゃん、そしてわたし。
ただいま付近の庄屋さんちの離れを借り顔を突き合わしてる最中。又左と前将さんは縁側で待機。
いかにも緊急面談って雰囲気だ。
「京の旅籠屋で襲われたのはボンヤリとだが覚えておる。中岡が盾となってくれ、その間に逃げた。必死に逃げた。……しかしどこをどう逃げたのか、今もって思い出せん」
中岡スマヌ……と呟いた信長さま、ギリリと歯噛みした。
「近江屋事件、ですね。史実では坂本龍馬という人物はそのときに暗殺されたことになってます」
「ああ。そのあたりは藤吉郎がくれた教科書で知った。ちなみに本能寺の変も最近ワシのコトじゃと理解した」
土佐弁が出そうで出なくて妙な気分。
織田信長と坂本龍馬は全くタイプ違うから!
「なんにせよワシはこの日ノ本を出る。戦よりも商いで名を成したい。それには銭が要る。亜米利加に渡れるほどの大船が欲しいのだ」
「そんなの……カンタンには造れませんよ」
「美濃よ、そなたは藤吉郎と共に未来人であろうが。未来人のふたりが知識や技能を結束すれば何事も為せるはずじゃ!」
「……カンタンに言いますが……」
そう言いつつ乙音ちゃんの眼は建造に向けた算段に入っている。
太平洋を渡るほどの船か……。
幕末でもようやく蒸気船だもんねぇ……。
あ、肝心なコトに気付いちゃった。
「殿。幕末ならいざ知らず、この時代のアメリカに行ってもまだ未開の地ではないですか? ニューヨークもロサンゼルスもまだないでしょ?」
「……う、うむ。そーか。そーじゃった」
乙音ちゃんが申し訳なさそうに「そうですよね」と首を振ったが、こればっかはしょーが無いよね。
「とにかく船の建造は進めたら? 乙音ちゃん。この時代だって商売が成り立つ国はたくさんあるはずだから。今後の織田家にとっても有益な取り組みかもしれないでしょ?」
「ま、それもそうですね……」
「なら印度や蝦夷地、東南亜細亜諸国に繰り出すのも悪くない。江戸時代であれば東印度会社を経由し西欧へ進出する事も夢では無かろう」
信長さま、子供っぽい笑顔をふりまいた。ホント、まるで少年だ。
「アニサマ。織田家の当主の座を本当に降りるのですね?」
「武士に二言は無い。銭での解決を望む」
「乙音ちゃん」
紙と硯を並べる。黙々と信長さまが筆を走らせる。花押を入れ血判を押す。念が行っている。
筆をおいた信長さま、ふと天井を仰いだ。
「勘十郎。気の毒な事をした」
「……勘十郎アニサマの死はアニサマが仕組んだのですか?」
首を振る。
「蜂須賀小六という男の差配だ。恐らく裏で美濃の斎藤が動いておる」
「斎藤道三……」
わたしでも知ってる有名な戦国武将だ。……でもなんで?
「斎藤は織田美濃の血縁者だからな」
乙音ちゃん、コクリ。初耳の気がする。
ってコトは尾張国織田弾正忠家は、美濃国斎藤家とより強固な同盟関係になるのか。
「東国信濃を制圧した武田晴信、通称信玄がたびたび美濃に押し寄せてるから、道三もすがる思いでわたしたちと協力体制を構築しているんです」
「父? あーやっぱそうか。乙音ちゃんは美濃国の出身だから美濃さまね。そういう設定だっだったんだね」
「設定言わないでくださいっ。まーそうですが」
信長さまが立ち上がった。
ニッとわたしらに笑いかけ、手を振って縁側からいずこへと去ろうとした。
「どちらへ?」
「津島に挨拶がてら矢銭を無心する。熱田にも赴く。美濃、勝幡城にカンパニーを築くが良いか?」
「カンパニー? 会社、ですか?」
「そうじゃ。津島を今以上の貿易拠点にする。相手は西国、四国や九州、琉球じゃ」
「今以上に……」
乙音ちゃんだって津島の繁栄に貢献してる。彼女なりに自負があったろう。
……気を悪くしてなきゃ良ーけど。
けど彼女の目は信長さまに向けてキラキラ輝いてた。
あーコレ、乙女の目だぁ。
「そうじゃ。ゆくゆくは伊勢や堺にも拠点を広げて商いの巨大ネットワークを構築する」
カンパニーの発想、この時代の人たちに果たして通用するか?
この信長さまならいとも簡単に通用させそうだ。
今週から火木土の定期更新を目指します。




