67歩 「那古野(なごや)城陥落(2)」
勘十郎信勝さんの死。
突然の死。
又左が肩をつかんで、気負ってるわたしをムリやり制止させた。
「ナニすんのよッ!」
「将右衛門殿を待て」
こっちは乙音ちゃんの元に早く駆けつけたいと気が立ってる。
「藤吉郎。状況が変わった。柴田勢が那古野を占拠したようだ」
後を追ってきた前将さんが珍しく血相を変えている。
那古野城なら、乙音ちゃんが末森城に先んじて兵を入れてたよね?!
「信長さまの仕業だ。美濃さまへ予めの申し出なく、柴田を招き入れた模様」
「なんで分かるの?!」
又左が差しつけたのは、【戦国武将ゲーム】の参加証。勘十郎さんの座敷に置き忘れたんだ。受け取ると乙音ちゃんからのメッセージが浮かんでいる。
――待てよ? 冷静に考えよ。
ってコトは乙音ちゃんの軍勢は清須本隊から分断されたわけで、那古野と末森城の間で挟み撃ちになってると?
……いや待って?
そもそもそれじゃあ、信長さんの思惑はなんなの?
だいいち那古野は敵の手に渡ったの?
「……ナルホド」
「何がナルホドなんじゃ」
「那古野は落ちてないよ。柴田さんが降伏したんだよ、きっと」
「……恐ろしく前向きな思考じゃのう」
千種村は戦場にはならなかった。戦が始まる前に信長さまが矛を収めさせたんだ!
ゼッタイにそーだ。
前将さんにそう抗弁した。
――城門から織田勘十郎さんがあらわれた。従者に白い布切れを持たせている。
末森城が無血開城した瞬間だった。
いったん乙音ちゃんの攻囲陣に戻ろうと思ったが変心し勘十郎さんを迎い入れることにした。
「藤吉郎。何度も申すが儂は兄では織田家は持たぬと確信しておる。じゃが美濃は読めぬ。託すとすればアヤツだろうと思う」
「柴田勢が織田信長の指図通り那古野に入りました。裏工作していたのではないですか?」
「柴田が……? 存じぬ。あの兄がそのような機略を図るとは思えぬ。……それより藤吉郎。隣国三河の松平改め徳川元康じゃが」
家康ちゃんがどーしたの?
「アヤツは必ず味方につけよ。今川との対決には欠かせぬ存在だと知れ。それにはまず、水野家をなんとしても今川から護り通すのだ」
「……水野家」
「そうだ。水野家は元康と縁深い。あれが滅びるか今川に就けば、元康は否応なしに従う可能性がある」
ぞろぞろと馬に乗った武者衆が近づいてきた。木瓜の旗印を掲げている。乙音ちゃんの配下だ。
「――勘十郎さん、今川の力を利用して織田家を手中に収めようとしてたんでしょ? 良いの? そんな発言して?」
「聞き捨てならんな。儂は織田弾正忠家よりも尾張の民らを案じておるのだぞ」
「そうでした。失言でした」
そのとき――。
空気を裂いて一本の矢が飛来した。それが勘十郎さんの首根あたりを射た。
……貫通してる。
バタリと前倒しになって動かなくなる勘十郎さん。
「……え? 勘十郎さん?」
前将さんと又左がわたしの盾になった。
騎馬武者たちがやったのか! と思ったが違った。彼らは倒れ伏した勘十郎さんとわたしたちを囲んで護衛の構えを取ってくれた。
――じゃあ、いったいダレが!
「勘十郎さん、かんじゅうろうさんんっ!」
信じられないほどの血が流れている。
声をかけ励ましたが無駄だった。
……勘十郎さんは即死していた。
当作品は空想ファンタジー歴史ラブコメです。
そのはずです。




