64歩 「あに・いもうと、あいたいする(1)」
織田勘十郎信勝さんを説得したい陽葉。
上手く行くの?
「どうせ残り短い人生じゃ、ワシは念願を果たす。我が織田弾正忠家の名を天下に轟かせるのじゃ! このワシ自らの手でな!」
言い終わった途端にゲホゲホと咳き込む織田勘十郎信勝さん。
もうっマスクしなさいって! それに大声出すからでしょ!
あきれつつも背中をさすってあげる。
――と、上半身が動かなくなった?!
どーやら羽交い絞めされたらしい。
わたしの真後ろに、天井に頭が届きそうなおっきなお侍さんがそびえている。ひゃー……。
「藤吉郎。お主は美濃姫との交渉するための人質なのだ。……良い、放してやれ。藤吉郎、逃げるなよ?」
クッ油断したぁ。
お侍さん、命令には従ってくれたが表情を変えずわたしを注視したまま。
それ、結構ブキミだよ、「逃げたので斬りました」なーんて平気で斬り捨て御免しそう。
そうなっちゃえば、かなり憐れな最期だよ。逃げませんからその目つき、わたしに向けないでクダサイ!
「権六! 林! ただちに出陣せよ! 一気に那古野を抜いて清須を奪うのじゃ!」
「ハハッ!」
柴田の権六勝家さんと林秀貞さんが気勢を上げる。
「清須方には人質がいる旨、喧伝せい! ヤツらの出鼻を挫くのだ!」
「オウ!」
待って待って待って! わたしなぞ人質の価値まったく無いと思いますよ!
乙音ちゃんの事だから「センパーイ、あの世で待ってて下さいねー」とか言っちゃって、人の命軽々と蹴飛ばしちゃいそーですから! きっとそうなりますから!
勘十郎さんの号令一下、弾き出されるように城から兵馬が次々と進発していった。
たちまちガランとする末森城。
「ワシも行く……。ゲホゲホ!」
「まずコレ。飲んでください、風邪薬。わたしの国で売ってる安価な市販品ですが」
パブリン錠剤だ。怪訝そうにしてるので水差しを使ってムリヤリ飲ませた。
「……ところで勘十郎さん。なんであんな無鉄砲な出撃をさせたんですか?」
「なんだと、軍師気取りか?」
「素人目にも勝ちを捨ててるように見えただけです。わたし思ったことをすぐに口にしちゃうんです」
「はっはっは。ナルホドそりゃそう見えたか。そりゃ尤もだ。ワシもそー思うでな」
遠くで法螺貝の音が聞こえる。
両者、遭遇戦突入の気配だ。
「わたし、行かなくちゃ」
「お前は人質だぞ」
勘十郎さんから少し距離をとったわたし。
先刻からの長身のお侍さん、そして警固衆らを眺め渡す。
わたし近頃、アニメキャラみたくどこに行くにもいっつもピンクのパーカーを着てるんだが、そのすそをいきなりまくり上げた。いっとくが露出狂に目覚めたわけじゃないから。
「おっと! おあ兄さんもおあ姉さんも刮目してんかッ! 動くとこのアテイの、【ダイナマイト】がドカンと火ィ噴いて炸裂すんでぇ!」
ビビれ、おまいら!
ところでなんちゅう言葉遣いだ。極道の妻か、鉄砲玉の三下か? わたしは。こりゃテレビの見過ぎデスネ。




