63歩 「織田勘十郎信勝の野心(2)」
織田勘十郎信勝さんは信長さんの弟。
坂井大膳さんといい、若武衛ちゃんといい、これはフィクションですから。
乙音ちゃんの兄、織田勘十郎信勝さんは寝屋着でフトンに伏していた。
わたしが入室すると咳き込みながら半身を起こした。
……まさか。本当に病気だったの?!
「『ほんとぉに病気だったんだぁ、きゃーわたすぃ意外ィー』など言いたげな、ヘンチクリンな面をしてるぞ、藤吉郎」
うそっ。てかわたし、そんなヘンチクリンな言い方しませんっ。
「不審に思うならもそっと近づいたらどうじゃ?」
うわぁ、それ、明らかに赤ずきんちゃん的展開てすよねぇ??
というのもですねぇ、あなたさまの脇を固めてらっしゃるお侍さんたち、いったいどういう了見で抜刀してるんでしょうねぇ? その理由をハッキリして欲しいんですってば!
「どうした? 藤吉郎。そばに来んか」
だから! んなコトいわれても、ねぇ。
正座で平伏のまま、しばらくモシモジ。
そして。意を決し、近づく。
「勘十郎さんッ!」
「うおっ、いきなり近づくか!」
抜刀の警固衆。わたしの首根っこ目掛けて振り下ろし――。
「ヤメロ! 控えよ!」
ザッと刀を収め、彼ら平伏。
「勘十郎さん! 降参してくださいッ。あなたは、わたしたち織田弾正忠家にとって無くてはならない存在です。無駄死にしちゃいけない存在です!」
イケメンの呆け顔もなかなかステキ。
その後の破顔ももっとステキ。
「わっはっは。無駄死にと? 歯に衣着せず言いよるわ! ……藤吉郎、ナゼお前は、……いやお前と乙音は、ワシではなく信長兄を選んだ? 理由を聞かせろ」
「あ、いや。歴史が……。いえ、わたしたちふたりが選んだのは織田弾正忠家です。信長さまも勘十郎さんも大事です。片方だけの味方なんて出来ません」
「現に美濃は兄の味方をしておるではないか」
そんな悲しそうな目をしないでよ。まるでフラれた男子みたいだよ?
……いや……フラれた、のか?
「乙音ちゃんは、美濃姫さまは信長さまに心酔してます。乙女は盲目なんです。……たぶん」
信長さまには吉乃さまという奥さんがいる。それでも乙音ちゃんは……。
「藤吉郎。ワシは本当に病に罹っておる。高熱で体の節々が痛い。喉が痛く、声を出すのも辛い。恐らく流行風邪じゃが一向に良くならん。このところ食も細くなり先はもう長うない」
よって……と言葉を区切り、わたしを見詰めて。
「織田弾正忠家を我が物にする事に決めたのだ、ワシは」




