60歩 「尾張統一(12)」
今回で「尾張統一」のサブタイはお終いです。
むなしく那古野城に引き返す途中、出迎えの乙音ちゃん本隊と無事合流したわたしたちは、そこでようやくにして彼女ととプウちゃんの企てを知らされた。
わたしはともかく、もちろん大層な怒りを示した坂井さん……だったけど、結局後の祭りなのは誰の目にも明らかだった。戦国の倣いで片付けられる小事だ。
中食をとるため間借りした豪農家の一室に半刻、あ、いや、1時間ほどこもった坂井さんは、さっぱりとした諦観の面持ちで現われ、わたしたちに今後のことを頼むと念押しした。
もっとも氏真の予言書によると、彼はいまごろ流浪の憂き目に遭ってるはずだから、尾張の地に留まれたのは有難いと本音を漏らしたのには、少しだけ救われた気がした。
「……若武衛さまがご無事でお健やかなのがなによりだ。欲に目が眩んだ儂のせいじゃ」
こうして彼と、彼が背負っている一族郎党は、格下だった弾正忠家・織田信長陣営の傘下に加わる事になり、彼自身は処遇うやむやのまま、若武衛ちゃんの後見人としての後半生をスタートさせたのである。
「おとねんっ。また焼肉おごってよ!」
後ろめたい気持ちを引っ張っていた乙音ちゃんは、若武衛ちゃんの声掛けに何度も「うんうん」とうなづいていた。
――この一件により、織田弾正忠家は尾張国の中枢を領し、名実ともに戦国大名の仲間入りを果たすことになったのだった。
尾張統一編 ―了―
陽葉(ブクマ12件目御礼)




