6歩 「コインシャワー(4)」
これまでに既に入れちまった金額は、101円ナノデ。
じゃあ、つまり残り、……335円。
これを投入! する。
……きっとこれが本当の正解だ、きっとそうだ。そうに違いない……。
素直に、大胆に、思い切りよく、お金をイン!
――行け!
「わたしの436円!」
数秒間の無音。そして、
『コレですべての登録が完了したよぉ、じゃあ、またねぇ』
「はあぁぁッ?」
説明になってないい。
『じゃあまたねぇ』ってなんなのっ?
何度だって聞き直しますが、時間跳躍するコインシャワーなんですよね? ねッ?
「手続き終わりなんですか? 今から戦国時代に行けるんですか? とてつもなく素敵なゲームが始まるんですかぁ? さっきたしかさ、言ってましたよね? 戦国ナントカゲームって!」
しかしながら質問をぶつけまくっても応えてくれる人などおらず……、わたしは無言のまま、脱衣を続けてシャワールームに入った。当然、ガックシ肩を落とし。
フツーに考えりゃ、そりゃそーっすよね。
……ひとときの夢、アリガト。
「はぁ……ツマンネ……」
異変を感じたのはその直後。
シャワーの使い始めからカウントダウンのアナウンスが始まったのだ。
唐突に。心構えする間など一切なく。
「残り、7分47秒……7分30……6分……」
などと。
そして室内がそれとともに、青から黄色、続いて赤へと変動。
頭を洗って、体を洗って……どころじゃないしッ。
「うわ、どーする? どーするよ?」
期待していたんでしょ? って言われりゃそうだけどもさ、そりゃ酷だよ。一糸まとわぬ無防備な姿になった途端、途方もないドッキリが再開するんだよ。一段また一段と恐ろしさが積み重なっていくカンジしかしないよ、実際。
「もうこれ以上ムリぃ、もう止めてー! 分かったからっ、ノリが良すぎたわたしが悪かったですっ、ごめんなさいーッ」
ダレに謝ってんのか、そんなの知るもんか。とにかくこの状況から逃げ出すことが出来るんなら、「何だってします」って神さまに誓えるよ。
わたしは、ラスト10秒をきったあたりでパニックになった。
「うわうわうわ……」
と、ガチョウか何かみたいに擬音生産機と化した。
ついに「のこり3秒」と、淡々とした声でコールされた。
「いやぁぁッ」
シャワーを止めたわたし。
その瞬間、異世界の扉が大きく開かれた。
……なんて。