58歩 「尾張統一(10)」
文末にイラストです。
「ひとつ確認したいボ。どうして信長ちゃんは姿を見せてくれないんだボ?」
プウこと信光さんは生来、武勇の士だと聞いている。でもそれだけじゃダメ。戦国サバイバル、策謀を練るしたたかさも兼ね備えてなきゃいけない。
彼が末森城の織田勘十郎信勝さんと裏でつながり、こまめに情報交換していることは、わたしも丹羽さんも前将さんも、そして又左も、ここに来た誰もが周知していた。
兄の信長と弟の勘十郎。
天秤にかけているのは間違いない。丹羽さんが前にズイと出た。
「我が主、織田上総介さまは織田美濃さまとともに、那古野城にて評定中です」
「……それはウソだボ? 上総介信長ちゃんは小折の城に長滞在しているボ。那古野城には美濃の小娘しかいないはずポ」
声を張る丹羽さん、
「ご推察の通り、全くのウソにございます。信長さまは現在、偽りの情報を流しつつ美濃方(斉藤家)の救援をお待ちでございます」
これは大方本当だ。救援を心待ちにしているかどうかはともかくとして、だけど。
目を細めた信光さんは考え込む様子を見せた後、「フウフウ」と息を継ぎ、胸元を開け広げた。
イケメン小姓がふたり、彼の両脇に寄り合ってバタバタと扇をあおいだ。
「信光さま、いかなるご返答を頂けるでしょうか?」
「フーン。……ワシ、信長ちゃんのことは大スキじゃし、亡き兄上にも弾正忠家のことは託されておるボ。織田美濃は気に入らぬが、加勢はすると伝えよ」
「ははッ。有難きお言葉、感涙いたします」
「相応の礼をしてもらうだけボ」
わたしは丹羽さん経由で乙音ちゃんから預かっていた【あるもの】を、今度は機嫌を損ねぬよう慎重にプウに差し出した。
「これは【YAOI】、その中でも特に耽美をあつかうペラペラに薄い絵物語です。織田美濃から、御礼代わりの献上品です」
「こっ、これは……銀映伝の新作同人! あ、ありがたく頂くボ。いつも済まない、ボ」
ちょ、新作って言っちゃってるよ。てことは、今までどれだけ乙音ちゃんに懐柔されてたんだ? この人。
「今後もよしなにお願いします」
「分かってる、分かってるボ」
あなたがキライなはずな女の頼みなのに、「しかと」耳に届いたんデスネ。
陽葉「前将さん、隠し撮りしてるでしょ?!




