57歩 「尾張統一(9)」
陽葉、信長の叔父と交渉中。
「丹羽チャン。ワシには坂井殿の真意が分からないボ。なにゆえわざわざこんなチビっ子女子を遣いに寄越したボ」
そう言ってイヤミなプウちゃん(=織田孫三郎信光※信長の叔父)は、「ブモッ」と鼻を鳴らし、こちらにするどい眼光を刺しつけて来た。
女をバカにされた怒りでアタマがまるごと吹っ飛んじゃいそう。
それに加えて「チビっ子」ですと!
極度に興奮しているせいだろう、わたしも自分の鼻息でプウちゃんが白くけぶって見えるよ。
ツンツンわたしを突く又左。冷静さを取り戻せだって?
悪いけど、んなの、どうでもいいんだよ。
このフトッチョ! いったいどうしてくれようか。
思いつめた五郎左さんが、プウちゃんの近習から手ぬぐいをうばいとり、前に出た。
「孫三郎さま、御汗がヒドイようでございます。失礼」
孫三郎? ダレだソレ? ああ、プウか、プウちゃんでございあすか。んベ。
心の中で悪態の限りを尽くしたわたしをさておいて、五郎左さん、首すじから背中にかけて、かいがいしく彼の汗を拭き始めた。あッという間にビチョビチョになる手ぬぐい。
だがそれに反比例して急速にプウの機嫌が回復した。
……わたしの機嫌は相変わらずですけど。
「五郎左は幾つになってもカワイイ、ボフ。ほっくら落ち着くボ」
わたしは耳が凍り付いたよ、ボ。
でもとにかく、その場は辛うじて収まった。グッジョブ、五郎左さん!
今回同行してもらったのは、五郎左さんがプウちゃんさんに慕われてるって、前将さんの情報があり、乙音ちゃんが気を利かせてくれたからなんだ。前将さん、乙音ちゃんファインプレー! ナイスです!
「で、こたびは清須、つまりボ、織田大和守が武衛さまに盾突いたゆえ、成敗するのに力を貸してほしいと?」
もう、プウちゃんでいいと思ったが、ここからはちょっと説明文になるんで、正しく呼んであげるよ。
……えーと、プウちゃんこと織田孫三郎信光さんは、信長さまのお父さんである先代織田信秀の弟。信秀さん存命中から弾正忠家のために働いてた彼は、信秀さんの後を継いだ信長の殿を当主だと認めて彼に好意的に接している。
彼の所有する尾張国守山城は堅城だし、擁する兵力は1000から2000。これは非常に心強い味方。
だけど日和見が常態化した世の中、力を示さなければ誰もなびかないし心変わりだってする。「勝ち馬に乗り続けてオイシイ思いしよう」って欲望よりも、「家の存亡にかかわる重要な見切りをしているんだ」ってキモチが勝ってる。誰だって連鎖倒産したくない。生き延びたい。
実際問題、信光さんがどれだけ織田信長さんを本気で認めているか。頼りにしているか。生き死にを掛けているのか。
そのあたりがポイントだろう。
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