51歩 「尾張統一(3)」
清須城からまっすぐ庄内川を目指した地点に【小田井】って小城があって、そこを会合の場所に指定されたわたしは、丹羽五郎左さんにもあらかじめ相談し、気心の知れた前将さんと又左の3人だけで場に臨むことした。
ここ小田井城は、織田三奉行って呼ばれる尾張国名家の一つで、信長さまと乙音ちゃんの弾正忠家と本来同格だった藤左衛門家てのが彼女に仕えることになって、その家の差配を任されていた。
現在は織田太郎左衛門信張って人が当主となって居住している。
かれは名目上は坂井大膳擁する大和守家の家来でもあったし、でも実際は乙音ちゃんに臣従している立場でもあったので、会見場としてはちょうどいいってなわけになったんだ。
そんな人物に案内されて、わたしたちは奥の座敷に進んだ。
薄茶の素襖に袴をはいた坂井大膳さん、数名の部下をしたがえて約束した時間よりもだいぶ早くに到着し、落ち着いた微笑みをうかべるほどの余裕でわたしらを出迎えた。
「木下藤吉郎どのと申されたな」
「は、ははっ」
インパクトのない、ただの中年のおじさんだったよな? と高をくくっていたわたしは、身分相応の貫禄を示す相手に少なからず緊張を覚えた。そして軽々な態度で臨もうとした自分に愚かさを感じるとともに、彼に対して強い警戒心を抱いた。
なんせ相手は、乙音ちゃんと敵対している陣営の最有力者。
昨夏にはこのあたりにある萱津という土地で合戦までしたんだよ。
その戦いは乙音ちゃん側の勝利だったけど、そうとう恨みを残していて当然だろうし。
「まず尋ねるが、そのほうは若武衛さまと同じく、来世人であると申すか?」
来世人!
ナルホド、そりゃそうだ。
だからわたしみたいなのとわざわざ話してみようって思ったのか。激しくナットク。
「あ、えーと、……坂井さまがご存知の通りかと思いますが?」
「ならば、これより先、尾張はどのようになるのか、よく承知しておると申すのだな。ゆえに弾正忠家に忠義立てし、恩を売っておるのだな?」
――ここはとりあえずうなづくしかない……んだよね?
正直そんな小ムズかしいコト質問されても答えらんないよ……って、前将さんと目が合った。……うう、そんなに睨まないでよ。
「織田美濃さまは、将来尾張……いえ、日ノ本にとってかけがえのない存在になります。だからわたしは、おそばにいるのです。未来の……来世人のためにも」
口をへの字に曲げた坂井さんは、
「斯波武衛さまでは力不足と申すか?」
「あの方は過去の方です」
「……な、この……誠に無礼じゃが……。なるほどハッキリそう申すか」




