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47歩 「開発! 移動式コインシャワー(2)」


 ――愛知県名古屋市緑区の鳴海町。


 この街の一角に『砦』って(あざ)がある。

 お椀をひっくり返したような急こう配の土地に古くからの住宅が建ち並び、登坂の行きつく先には小さな公園があった。その入り口に【砦公園】とかかれた石標が立っている。


 尾張東部の土地カンが欲しかったわたしは、最近時間があればチョロチョロこっち方面に出張っている。今日も地図を抱えて、()()()香宗我部(かそかべ)に頼んでバイクでここまで乗せてもらったってわけ。


 公園の中央までバイクを乗り入れ、あたりをグルリと眺めまわし、「景色いいなー、ここ。けど案外地味なとこだな」と、使い捨てカメラ【写ル〇です】を自撮りに構え、後ろにまたがるわたしにニヤリと笑みを向ける、香宗我部(ヤツ)


 オイ、公園にバイクを侵入させるなっ!

 それと、勝手にツーショット撮るな!

 これじゃわたしも同罪じゃないかっ!


「――にしてもよ、この展望台っての? 妙なステージ、なんのためにあんだ? 登ったら、オマエのいう【鳴海城】ってのが、見えんじゃねーの?」


 コイツの言うように砦公園ってネーミングの公園、物見台(っていうより物干し台?) のような高舞台(ステージ)がデン! と目立つ位置に組まれてるんだ。


 ……って、待て。


 妙とか地味とか辛辣にけなすだけけなしといて、わたしとバイクを置いてウキウキと、そのステージとやらに上がっていった……バカな男、ひとり。それがコイツ、香宗我部一三(イチゾー)


「何のために作られたのか? ……さァ、ねぇ、わたしに聞かないでよ。夏まつりとかで盆おどりの舞台にでもなってるんじゃないの?」


 清須城の凝香亭を思い浮かべたわたしは、不愛想さを装いつつ、……じゃなかった本当に不機嫌な気持ちで、ステージにいる香宗我部の横に立った。


「……あ、風が気持ちいい……」


 それにとっても眺めがいい。

 街並みを、ぐるりと一回転し見渡す。木々が視界をふさぐ方角もあったが、全体的にはじゅうぶん監視の役が果たせる場所だと判った。方位磁石を持ってくればよかったなと後悔した。


「ここに乙音(おとね)がお城を築いたんだろ?」

「うん。お城ってか、砦ね。……400年前にね」

 

 ――ここは、かの善照寺(ぜんしょうじ)砦。


 鳴海城を囲む三砦の一つ。……なんて、あれからちょっとは勉強したんだよ。ホメて欲しいところですよ。

 でも、けっこう狭いなー。収容人数は何人くらいなんだろう?


 公園そのものはタテヨコ60メートル四方くらいか、仮にここだけが砦の全部だったとしたら、20人もいたらギッチギチであふれかえるんじゃない?


 ……想像してみる。


「うっ……」


 ひしめく男どもの臭いでわたし、たぶん死んでしまいそう。……ああ、ブルブル。

 ゼッタイに近寄りたくない。


 いざ戦が始まっても、わたしはこの砦には入らない。うん、賢明だな。


「ここからだと木がジャマで鳴海城が見えないよ。でもたぶん当時はハッキリ見通せたんだろうなぁ。海岸線も当時は近かったらしいよ?」


「現地確認はしてないのか?」


 はい、してません。

 出来たらしたくありません。


「鳴海城が今川方に寝返ったのは、織田勘十郎さんの差し金ってウワサがあるんだ。乙音ちゃん陣営が動揺しない為にも弾正忠家の力を見せつけなきゃなんない。鳴海城を一刻も早く奪還するだけじゃなくって、第2、第3の鳴海城が生まれない為にも」


「……それで今日はここに来たかったと?」

「うん。鳴海城への侵入ルートの調査と、ここらへんからの海域への見通しと……」


 グルリと周囲を眺め回す香宗我部。


「コインシャワー……は少なそうだよな。あ、そうだ! だったらよ、コインシャワー自体持って来りゃいいじゃん」

「……はぁ? アンタ何言ってんの? いっぺん脳波計ったら? どうやってコインシャワー運ぶのさ! だいたいあんな代物……」


 悪態をつきながら香宗我部のニヤニヤを眺めてたら、わたしの中でひとつのアイディアが、花が咲いたようにひらめいた。


「あ、そっか! 軽トラで運ぶ、とか!」

「そうそ。テレビで見た事あるぜ、出張ロケ先で熱湯コ〇ーシャルとか。要はアレの応用だろ?」


 技術的な問題とか開発にかかる費用だとか、それと戦国武将ゲームのそもそもルール適合するのか? とか課題点はあるけれど、試してみる価値は……ある!


 むむむ。興奮してきたっ。

 よし、やってみよう!


「あ、そうそう。ヨンフォアってんだ、オレのバイク。ちょい(ふる)だけど気に入ってる」

「……は? ナニ?」

「バイクのこと。前にたしか聞いてたの、陽葉、オマエだったよな?」


 オイオイ、いきなり今その話をするんですか香宗我部さんっ。

 時差ありすぎでしょ! この天然マイペースヤローめ、ついて行けないよ。


「ま、まぁ。そんな古くは感じないけど」

「なぁ、陽葉」


「だから。勝手に下の名前で呼ばないでって」


「あのよ。オマエこないだ、その……」

「その?」


「いいや、まぁ別に」

「何なのよ!」


 んもぉ。


「いいたいコトがあれば、ちゃんと言う。アンタとわたしの仲でしょ!」

「陽葉とオレの仲?」


「……あ。いやあの、その。そ、そういうイミじゃなくって、腐れ縁ってコト!」


「フウン。じゃあ言うよ。陽葉さ、こないだ名鉄百貨店とメルサをはしごしてエンゲージリング買ったそうじゃん? それっていったい何の目的なんだよ?」


 エンゲージリング?!

 なんでそれを知ってる?!


 確かに買ったよ! でもどーして、そのコトを知ってるんデスカっ!



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