41歩 「勝利条件」
ジャ〇コのフードコードでの会話が続く。
バス待ちしてた幼稚園帰りの親子連れがチラチラ増え始めている。
「ところでどうして今日わたしらがここに来ることが判ったの?」
松平元康ちゃんのメガネの奥をうかがう。
「刈屋の城に前田将右衛門さんの配下を侵入させておりましたでしょう? わたしと姉の会話を録音されたはずでする」
うっ、余計なコト聞いちゃったかな。
刈屋の城ってのは、現在の刈谷城……跡。
……ですって、前将さん。やっぱしバレてましたよ?
「あ、いやぁ。とりとめのない会話、してたよね? 機密情報は得てないよ?」
「はい。でも録音機? 昭和時代はラジカセでしたか? ウォークマン? われわれ世代で言うところのICレコーダーに当たる機器は没収しましたでする」
「IC?」
「ボイスレコーダーでする。……わたしたち姉妹は実際、平成20年から昭和時代に来たのでする。もちろん、あなたに会うために。」
ちょっとナニ言ってんのか分かんない。そーいや、さっきもそれっぽい話してたよね? ダメだ。アタマがめっちゃ混乱してきた。
「グランドプレイヤーの特典でする。現世と戦国時代以外の時代にも行くことが出来るんでする」
ああ! そーいや言ってたな。
それで昭和に来れたと。……その平成とかいう時代から?
元康ちゃんの傍らにいた今川氏真がツマラナイ発言をする。
「――にしても携帯は無えし服のセンスも無えし、イマイチな時代だなぁ、ショーワって」
「あ、そこ! 昭和をバカにすんな。この女児真、あ、ゴメン。氏真ちゃん」
「コンノォ、テメーケンカ売ってるな? そーだな? ああっ?」
「美濃姫さま……でありましたな? 織田弾正忠上総介殿に代わり、尾張を切り盛りしている女領主、戦国武将ゲームの有力プレイヤー。本名、維蝶乙音さん。なかなかの優秀プレイヤー……」
乙音ちゃんと手を組んでくれるのかどうなのか? 曖昧な笑みを浮かべた松平元康ちゃん。あなたもなかなかにクセモノですな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
那古野城に帰ったわたしは、さっそく乙音ちゃんに事の次第を報告した。
彼女はペラペラめくった【戦国武将ゲーム】のガイドブックを脇に放り投げた。
「うーん……。陽葉センパイはどう思いますか? この本」
「わたしはひゃくぱー真実だと思うよ」
えーッ、と眉をひそめた乙音ちゃん。
「わたしは百パーセント、ウソが書いてあると思います」
人払いをした乙音ちゃん。コホンと咳ばらいを一つして。
「まず、戦国武将ゲームの勝利条件の項。『全プレイヤーの戦国武将ゲームカードを入手する』とありますけど、そんなの物理的に可能でしょうか?」
「そうだねぇ……。それじゃ第二条件の『自分以外のプレイヤーをすべてゲームオーバー』にしちゃうとかは?」
言いながら内心ゾッとする。
つまりそれって殺すとかになるわけじゃない? ……って思い至ったから。
「ああ! それなら可能ですね!」
「えっ?」
ナニーッ、その明るくひらめいたような表情は?
乙音ちゃん、コワイ。怖すぎるっ!
「屈服させて織田家の傘下に入れてもーたらいいんですねっ!?」
あ、そーゆーコト?!
何だよ、ビビらせないでよ。
わたし、あなたへの接し方を考え直さないとダメなのかって、おののいちゃったよ。
「……そんじゃあ、この疑問。ルールの中に【18歳縛り】というのが書いてありました。『18歳の誕生日を過ぎた者は本来のプレイヤーとしての資格を失う』って。これ、ゲームオーバーってことですよね? ……わたしなんかはどうなるんでしょう? 数年以内にゲームクリアしなきゃアカンくなります」
「うーん……」
悩むフリするわたし。
わたしは元康ちゃんが言ってた、「オープンプレイヤー」って文言を思い出していた。
多分、本来のプレイヤーとしての資格を失う……ってのは【グランドプレイヤー】か【スイッチプレイヤー】を対象にして言ってんだと思う。
要は【オープンプレイヤー】扱いになるよ、と。そう言ってんだと思う。
わたしが不可解なダンマリをしたからか、乙音ちゃんは不機嫌になり、手元の菓子をわしづかみにして頬張った。そしてムセた。
「けほッ、けほ……!」
「ちょ、だいじょうぶ?!」
「とにかく! わたしはこのガイドブックの信ぴょう性を疑います。こんな本、ただの謀略、イヤガラセですっ!」
まーまー落ち着いて。落ち着いて。
「とにかく松平元康ちゃんと今川氏真ちゃんは多分わたしらと共闘してくれるよ。当面の問題は彼女らと対等に交渉が続けられるように、織田弾正忠家自体の力を高めること。とにかくがんばろーよ」
「センパイ。意外としっかりしてる……」
今余計な一言言ったね?
「センパイ……。ちなみにゲームオーバーになったりしたらどーなるんでしょうね?」
ガイドブックを見てくれと?
わたしは信用してないけど、目通ししてくれと?
ホントにアンタは甘えたさんだなぁ!
陽葉お姉さんは心配だよ。
「えーと。ゲームオーバーしたプレイヤーについて。ゲームオーバーした時点の時代で余生を送る。余生って……」
「うーん。……ってコトは今とあんまし変わらん状況ですかね? それに、そのとき元の時代にいてたとしたら……」
うん。その前向き発言は、陽葉お姉さん好感持てたよ!
「乙音ちゃん、それとさ……。いや、いーや。また話す」
香宗我部のコト、今は言わない方がいいかな……と、乙音ちゃんのカオを眺めて思った。




