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40歩 「共闘しよう」 


「香宗我部。ガイドブックの続き読んで」


「へーい。


****************************

 ――第二章。各プレイヤーについて。


 ◆グランドプレイヤー

 

  優勝特典付きプレイヤー。

  優勝特典とは:アンカープレイヤーがプレイする時代以後から自分の元の時代までの間を自由に行き来できる。


 ◆スイッチプレイヤー


  アンカープレイヤーのプレイする時代と自分の元の時代とを往復できる。


 ◆オープンプレイヤー


  アンカープレイヤーがプレイする時代のみで生存できる。自分の元の時代へは戻れない。


****************************


 ……陽葉、ってコトはお前、スイッチプレイヤーなんだな? オープンプレイヤーじゃねぇよな?!」


 香宗我部が狼狽えるまでもなく、わたしの頭に真っ先に思い浮かんだのは維蝶(いちょう)乙音(おとね)ちゃん。

 彼女は戻り先のコインシャワーが無くなったから戻れなくなった。

 じゃあ彼女はいったいどの位置づけなんだ?


「維蝶乙音さんでするか? 彼女はスイッチだろうと思いまする。ただ特殊事情なのでどうゆう扱いになるのか……」


 元康ちゃんの発言に香宗我部がギョッとした顔になった。乙音ちゃんの名前に反応したためだ。


「乙音? 乙音がどうかしたのか?!」


 コイツが取り乱すのもムリはない。コイツ、()()()()()()()()()んだから。


 わたしは手短かに状況を説明した。

 織田美濃というのが乙音ちゃんであることも告げた。

 別に隠してたわけじゃない。でも言わなかったのは事実だ。


「……ゴメン。いままで話せなかった」


 香宗我部は黙っていた。黙ったまま考え込んでいた。


 乙音ちゃんはこのあたりでもかなり有名な政治家のお家の子で、香宗我部は交際が親にバレたから家から出してもらえてないだけだと思ってたらしい。最初はずいぶん憤慨してたけど近頃はあきらめ気味だった。というのも彼女からまったく連絡が無かったから、フラれたものだと早合点してたみたいだった。


「アイツ。そっちの世界で元気なのか?」

「うん。まーね。すごく元気だよ」


 織田家に属していて、今回もいつ滅ぼされるか知れない……なんて言えないし、そんな事させない。

 わたしがどーにかしなければ。


「元康ちゃん。【戦国武将ゲーム】の最終目的はなんだと思う?」


「――わたしにも見当がつかぬのでするが。……そーですね、答えが載っているわけではありませぬが、ガイドブックには【勝利条件】や【敗者の処遇】なんかを書いているので、どうぞご参照を。ちなみに、グランドプレイヤーに対する特典だとかで、わたしがルール化出来た事項もありまする」


 例えば、シャワー室に入る大きさの物なら、行く先の世界に持ち込める。とか。

 わたし、知らん間にそのルール試してたな、そーいや。


 そこで「あっ!」と気付いた。

 よーするに、それは()以外も可じゃん!

 その手を使って氏真を同行させたんじゃん! くーっ、やっるう!


「じ、じゃあ、あなたの他にいる残り2人のグランドプレイヤーも、ルールが作れるの?」

「はい。そういう事になりまする。がしかし、ルール化出来るのはゲームマスターに申請し、認められた事項だけ……」

「そっか。どっちにしろ、ゲームマスターっていう神さま的人物にしか、こんな大掛かりで空想めいたゲームは創造できないし、始められなかったんだね?」


 元康ちゃんの悲壮なカオと、苦々し気にテーブルを睨んでいる氏真と、怒ったカオで考え続けている香宗我部とを交互に見比べながら、わたしは席を離れた。


「……藤吉郎殿。ひとつだけ要らぬ苦言を申しますが、このゲームの本質は戦国時代という舞台を使って未来人にリアルな殺し合いをさせていること。あなたにはまだその自覚が足りないように感じまする」


 殺し合い……か。

 言われてみりゃあっちの世界に行ったっきりの人間はあっちの世界で人生を全うしなきゃなんないんだし、何かの事件に巻き込まれて死ぬこともあるだろうし。

 でも殺し合いってのは言い過ぎなんじゃないの?


「戦国武将ゲームって、このカードの奪い合いなんだよね? カードを奪うために殺し合いまでする人がいるっての?」


「可能性として、もしわたしがカードを奪うために本気で藤吉郎殿を襲いましたら、藤吉郎殿もその気になって応戦できまするか? 衝動的に強い殺意を抱いた相手から、仲間を護ることが出来まするか? そういう意味の苦言でする。かくいうわたしも姉を巻き込んでいますので」


 挑戦的な目を向けて来た元康ちゃん。

 彼女の真意を測りかねたわたしだったが、悩むのが面倒になったので笑い飛ばした。


「しかしまあ、……このガイドブックさぁ。事実が書いてあるかどうかは分かんないんだよね? だってコレ、元康ちゃんが作ったものなんでしょ? 元康ちゃんとしては、そんな【得体の知れない】本を渡されたわたしがどんな反応するのか……要は試したんだよね? アンカープレイヤーの器かどうか知りたかったんだもんね? 渡した結果、相手がどう捉えるかは相手次第だし元康ちゃんには関係ないし、もしくは虚言を鵜呑みにしてくれたらこれはこれでめっけもの。自分の思い通りに動いてくれるかも知んないしね」


「……はー、なかなかの推察でする。わたし、関心しま……」

「わたし、元康ちゃんの言うコト、100%信じるよ。その上でトモダチになってよ。あっちの世界で共闘してほしい」


 カッと元康ちゃんの目が見開かれる。


「元康ちゃん。わたしはあなたの言葉と共にこの本の内容を全面的に信じます。なぜなら、あなたはウソをつけない性格だから」


 臆面ないわたしの恥ずかしいセリフに、元康ちゃんの顔が一瞬だけど赤くなった。


「そうですか。……でもその判断の根拠は聞かなかった事に致しまする」

「そうなの?」

「それにしてもわたし、気に入りました」

「気に入ったって何が」


「明るく断定的に物事を言い切るあなたの性格を、です」

「バカにしてる?」

「滅相も無し。至高の好感をもって応えており申す」

 


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