38歩 「登場!家康ちゃん」
小生意気女児、今川氏真!
戦国時代でサバイバルゲームを繰り広げているライバルのひとり。
アンタ! なんでこの場所にいんのよ!
「……なんでここにいるんだってカオしてんな。そりゃこっちのセリフっしょ。ここは織田領じゃねぇぞ。人様のテリトリーに無断で入ってくんな。それとも、降参しますって謝りに来たのか? 木下藤吉郎さん」
ムキーッ。とにかくしゃくに障るんだよね。
「や、やるの? なんなら受けて立つよ」
腕力には自信無いし、正直ブルってる。でも、女いっぴき、香宗我部入れて2匹、売られたケンカは買うつもり。相手はわたしよりも一回りはちっちゃいし、見たところ今日は一人の護衛も居ない。……これなら勝てるぞ?
「オイオイ。戦国武将ゲームの基本ルールも知らないの? 無知通り越して、罪悪だよね」
「ルール?」
さもバカにしたように頬をポリポリかいた氏真は、すぐ隣りの席で読書にいそしんでいた少女に、説明の代行をするように促した。
少々オツムが逆上していて気付かなかったが、氏真とわりあい年恰好が近そうなローティーン女子がそこにいた。ここらへんあたりの中学校の制服を着ているので、推定小学校高学年(ww)の氏真よりはやや年上なのだろう。丸いメガネをかけたその子は、きれいに切りそろえ眉の出た前髪に手を当てて、チラリとこちらを窺った。そうして栞をはさんだ本を閉じた。
少女はスッと席を立つと、
「こんにちは」
と、抑揚のない挨拶をして来た。
まるでアルプスの少女のお家に住んでるあの大型犬がしゃべったような、超低空飛行のトーン。
「? はぁ……、こんにちは」
「わたし、三河国刈屋城在番、松平元康でござる」
ござる? そう言った?
「はぁ、どうもって……ええッ?!」
いまこの子マツダイラモトヤスって言ったよね? ね?
――松平元康!
これこそ後の徳川家康! じゃないのよ!
今回のターゲットだよ!
やっぱり、氏真とつるんでたってわけか。
――てか、こんな子がなぜに家康ちゃんを演じているのか、かなりのオドロキだ。
「はじめまして。以後お見知りおきを」
丁寧なお辞儀をくれた後、わたしの真向かいに腰を下ろす。いたって冷静至極。それとも冷淡至極? 根拠ないけど大物の予感。……なんとなく家康っぽい。などとひるむわけにも行かず、次の言葉をどう繰り出そうかとひとまず口をモゴモゴさせた。
しかしこの子、感情を表に出さないタイプなのか、ずいぶんと表情にとぼしく、好意的なのか敵意マンマンなのかがゼンゼンわかんない。
「……木下藤吉郎どの、でござろうか。かねがねお噂はお聞きしてます。いつもお姉ちゃんがお世話になっておりまする」
「あ、いや。ど、どもどーも」
矢継ぎ早のあいさつ攻勢にタジタジだ。推定中学生の年下になんたる失態。さては恥辱攻めだなッ。
「……ん? って、お姉ちゃんって?」
「こちら、今川氏真、本名、小松原真はわたしの姉。こちらの方もなにとぞ、お知りおきを」
「あねぇ~?!」
氏真のヤツを心から不快気に眺め倒した。
このスーパー生意気&チビ娘が?
「オメーいま、わたしをナマイキで『ド』チビだと思ったろ?」
氏真が歯をギリギリ軋らせてわたしの襟首をねじってきてる。
「ああ、思ったよ。スッゴク思ったよ! アンタみたいなちっちゃな子に凄まれても、ちっとも怖くないモンね」
自らのおでこをキヤツのおでこにグリグリ押し付けてやる。するとキヤツはますます逆上し、大口でギャアギャア罵詈雑言をまくしたてて来た。
もうウルサ・ウザイッ。
見兼ねた香宗我部が、わたしたち二人をひっぺがすようにして、テーブルで隔てた席にそれぞれを落ち着かせた。
興奮した馬のように鼻息荒くソッポをむく。
元康ちゃんが厳かなトーンで話し始めた。
「戦国武将ゲームのルールでは、プレイの舞台である戦国時代以外での諍いは一切認められてないです。違反と判断された場合、即ゲームオーバーになるのでする」
淡々と説明する元康ちゃんに自称姉のバカ氏真は、「いちいち説明するだけムダ」と唇を尖らせた。
わたしと氏真の目の前にグ〇コのカフェオーレが置かれた。
香宗我部が気を利かせた模様。テンパリ気味のわたしはとっさにお礼すら言えず。ムズムズと無意味に肩をゆすってなんとかアタマを下げてから、フーッフーッと荒い息をした状態でストローをくわえた。
あう~おいしい~。これ好き~。
「姉のためにわざわざ感謝でござる。お礼にコレを」
バカにでかい紙袋。
ニッコリと開封をうながす元康ちゃんにつられて開ける。
「なにコレ? オモチャのヘリコプター?」
「平成の世ではこれを【ドローン】と申しまする。超小型の空撮機でする」
ヘイセイの世……? ドローン?
「フーン……。でも高そう。貰えないよ、こんなの。いったい何に使うのさ?」
「きっと戦国時代で重宝しまする。……まぁ、使いこなせたら……の話でするが」
使いこなせたら?
なんか引っ掛かるな、ちょっぴりカチンと来た。
「分かった、ありがとう。貰っとくよ。コレが取説だね? ……ほら香宗我部」
アレ? 無視した?
「下の名前」
「ハアッ?」
「下の名前で読んでくれたらトリセツ読み込みつつ預かっててやる」
「……イチゾー。頼んます」
お辞儀しブツを引き受ける香宗我部。そのしれっとしたカオったら。
女児真と目が合う。
「リア充、バクハツしろ!」
バクハツ? リアジュウ……?
なんだかワカランがこれはマズイ、ひじょうにマズイ。
気を引き締め直し、態勢を整えなければ負ける。……何に?
元康ちゃんに向き直る。
「……質問、いい?」
「なんなりと」
「なんで刈屋の城番なんてしてるの?」
「現時点ではお答えしかねます」
いきなし拒否るか? なんなりじゃねーじゃん。
「んじゃ。……この【戦国武将ゲーム】って、いったい誰が始めたの?」
「……」
メガネを下方に半ズレさせた元康ちゃんは、裸眼の上目遣いになってわたしを眺めた。
「なんか、この質問もマズかった?」
「……否。ちっともマズからず。当然の疑問だと」
少し考える仕草をした後、通学カバンからノート大のコピー冊子? を取り出し、わたしの前に置いた。四隅に小さなレタリング装飾が施された、シンプルなデザインの表紙だった。怪訝な面持ちで取り上げてみる。薄いために背表紙はない。裏はまったくの無地だった。
「これは……? 中見ていいの?」
「どうぞ」
表紙をめくると、そこには活字で【戦国武将ゲーム非公式ガイドブック】などと書いてあった。読ませる気があるのかってくらい控えめな、ちっちゃい字面。
キ〇ラ〇あたりが書いた字かっての! カワユイけど。
いやそんなのどーで良かった。逆にわたしが受けた衝撃の的は別にあり、もっと重大ですごいものだった!
「せ、戦国武将ゲームのガイドブックですってぇ?!」
「……はい。言うなれば《攻略本》です。よろしければこちらも進呈いたしまする」
しんてい?!
――と、元康ちゃんが言い終わる前に横から手が伸びて本を奪い去った。
「なにすんだ! このバカ女児真!」
氏真は、まったくもって腹立たしくわたしをムシし、元康ちゃんに抗議した。
「なんでそんな甘々なコトすんだ!? ルール無知を相手にする方が、こっちに有利だろが」
「……それは間違ってる。お姉ちゃん」
「なに?!」
「木下藤吉郎さんは、アンカープレイヤーかも知れないから」
「え?! ま、まさか、コイツが……!? いやいや。そんなわけあるわけないって。はい、この話題はオシマイ」
……は?
アンカー?
なんだソレ? てかナニ、内輪だけで話し完結?




