33歩 「清須(2)」
舞台では3曲目に突入した斯波義銀さんが、観客らに愛想をふりまいて踊り、美声を披露している。
「……清須はテッペンまで来ちまってる。あとは下り道をたどるしかねぇ。坂井のオッサンは、なりふり構わず、何だかんだここまでよくやってきたと思うぜ。……が、しょせんは小川の稚魚、今川って巨大魚にくっついて安泰に生きようとしてんだろうが、あいにく巨大魚の方にはそんな悠長で優しい気持ちなんてこれっぽっちも無ぇのよ。ごちそうが自分から寄って来たって感覚でしか無かろうよ」
黙ってしまったわたしの代わりに又左が再確認する。
「将右衛門どのは、近いうちに今川の本格的な攻勢があると?」
「ああ。間違いねぇな」
今川の後ろ盾を得て生きるのは、結果的に織田家の寿命を縮めるだけだっていうのだ。今のわたしの知識レベルじゃ正解は分からない。
言ってる事は分かる。
よーするには、だ、反今川派が決起し、尾張で内紛が起こる。その混乱に乗じて隣の大国、今川軍が津波のように押し寄せてくる。泥沼の内輪もめに興じてる間に、織田家は津波に呑まれて跡形も無くなってしまうって、将右衛門さんは嘆いてるんだ。
ちょうど斯波義銀さんが歌い終わった。入れ替わって氏真が舞台に登った。
登った途端、わたしに「ビッ!」と指を差し、
「さあ、登って来い! 勝負だ!」
挑戦状をたたきつけてきた。
「……将右衛門さん」
「なんぞ?」
「……相手にしなきゃダメ?」
「おおさ。自分から言い出したんだろうが?」
「ちぇっ」
スッと立ち上がり。
「ま、いーや。わたし、氏真気に入らない。斯波さんって子が可哀想だし」
「……本気か?」
「ちょ、将右衛門さんが促したんだよ? 当然やっちゃるよ」
「ただのからかいのつもりだったが」
「待て、止めとけ」
又左の制止も聞かず舞台に登った。
意外に思ったのか、戸惑いを見せた氏真からハンドカラオケをむしり取ったわたしは、選曲せずにそのマイクを通して大勢の前で彼女に問い掛けた。
「氏真。ちょっと質問なんだけど」
「はあ?」
歌い出すと思った?
歌合戦の前に問い質したい事ありなんだよ、こっちは!
「戦国武将カードが無いと現代に帰れないんじゃないの? どうして斯波さんのカードを盗ったりしたの?」
「……は?」
「返してあげて、斯波さんに。カードを」
「オマエ、唐突にナニわめいてんだ? ああ?」
氏真の不快さを察して、彼女の護衛衆がぞろぞろと登壇した。
「イカン」
将右衛門さんの叫びと同時に又左が割って入り、わたしをガードする。
気持ちにうらはらに足が動かなくなったわたしは、又左の着物のすそを強く握った、そして深呼吸。
「氏真! 返すべきだよ。元々あんたのモンじゃ無いでしょう!」
ありったけの声量で怒鳴ってやった。
当然ドヨつく観衆。事態の把握が出来てなさそう。互いに顔を見合わせ合っている。
「イラつく! マイク返しやがれ!」
カラオケマイクを分捕り返した氏真はそれを口に当て、そうしてカンカンになって、それを再びわたしに突き返した。
「こんにゃろぉ、電池抜きやがったなあ……」
残念でした。電池が無きゃ音なんて出ないもんねー。
ちょっと陽葉ぼんやりタイム




