31歩 「提案」
戸内から漏れる薄い燈火が、狭い裏路地に重なり歩く男女の横顔をぼんやりと浮かび上がらせている。又左はそれらをかいくぐり、宿の表側の通りへとわたしを誘導した。
そこには腕組みをしてたたずむ前野将右衛門さんの姿があった。
「災難だったな。にしても、そんなにしがみついてたら又左も動き辛いぜ?」
「あっ! ご、ごめんっ」
「別に。陽葉は軽いから苦にならない」
かあぁ……。そんな言い方ヤメテ、又左。
苦笑する将右衛門さんが目配せした先に、お侍の集団が居た。
その真ん中に居たのは――。
「あっ、チビっ子! じゃなかった、今川女児ざね!」
「てっめぇ、わざとだなっ。失礼にもほどがあんだろっ! 今川氏真だ! よっく覚えとけ」
「そっちこそ、いきなし襲ってきてんじゃん! 失礼通り越してハンザイだっ!」
わたしは握りこぶしを突き出して氏真一味を挑発した。……又左の背に隠れつつ。(笑)
「ふっ」
とナマイキに嘆息した彼女は、
「ま、どーでもいい」
とわたしの口撃をかるく受け流し(くふふ、口ゲンカはわたしの勝ちのようだ)、
「さ、カードを出せ」と迫った。
カード?
「なんだよ、ソレ? 何のコト言ってんの?」
だが、氏真はわたしがわざとトボけていると思ったらしい。
小ぢんまりした手をグーにしてブンブン振り回した。
「トボけんなーっ、カードだよ、カード! 戦国武将ゲームのカード! さっさと寄こせ!」
「バカなの? もらってどーすんのよ?! 第一、これがないと現代と戦国を行き来できない……――あ!」
ゾッとした。
真っ黒な邪なオーラ……。
「氏真、アンタ。……若武衛さんのカード、奪ったの?!」
「人聞きの悪いこと言うな。あのギャル娘はわたしの話に納得して、自分の意志でカードを差し出したんだ」
「あの子、クラスメートか友達なんでしょ? こっちの世界には氏真と一緒にやって来たって、あの子言ってたよ?」
「人の後ろを勝手について来ただけだし。友達でもなんでもねぇし」
いつのまにか、わたしたちの周りに人だかりができている。
お目にかかったことの無い奇妙ないでたち(ド派手なピンク色のパーカーと、もう一方は中学生の制服)の娘が、理解不能な単語(外来語まじりのセリフ)でギャーギャー怒鳴り合ってるんだ。
まーそりゃ目立つだろうさ。
「とにかくよ。ちょっと場所、変えねぇかい?」
否応なし。
横から口出しした将右衛門さんの提案にのったほうが良さそう。
「勝負して勝てばいいの?」
「あ? ああ。人の話を聞く気がなきゃね。どーせなら、いっそ殺し合いでもいいぜ」
「……。じゃあ、あそこで」
わたしが差した方角をみて、一同、どよめいた。
だってそこは。
「清須城、本丸?!」
「――凝香亭で、カラオケバトルしよう!」
「はぁ? 正気か」
と氏真が大笑いした。
わたしは本気だ。
又左と陽葉




