056 伊達政宗説得か懐柔か
空想歴史ファンタジー!
あと3話。
「と言いますか、ハナシは簡単です。あの子のパソコンをぶっ壊せばいいんです」
「ちょ、乙音ちゃん。それこそそんなコトしたら、いったい何が起こるか分かんないって!」
4人のカードが同時に「ピコン」と鳴った。
◆◆◆
ゲームマスターよりプレイヤーの方々にお知らせ
――いつも元気いっぱいに戦国武将ゲームを楽しんで頂きまして有難うございます。
しばらく停止しておりました時間跳躍を本日より再開することといたしました。
また全プレイヤーに置かれましては日頃の感謝を込めて、軍資金100億円を進呈します。購入できるのは戦争に必要な物資のみとなります。但しプレイヤーカードでの決済となりますのでご承知ください。
なお時間跳躍のためのコインシャワーの設置場所は、各々のカードの表示でお確かめ下さい。
今後とも戦国武将ゲームをご愛顧下さいますよう宜しくお願い致します。――
◆◆◆
「クッ、これは……。危惧した通りになった」
頭を抱える信長。
明らかに伊達政宗はプレイヤーたちをそそのかしている。
せっかくまとまりかけた天下がふたたび乱れる恐れがある。
「わたしが無思慮な発言をしたからでしょうか?」
青くなる織田美濃。
木下陽葉は「わたしに任せてほしい」とふたりをなだめた。
「家康ちゃん、ごめん。あなたはついて来て」
「承知でする」
理由も訊かず、家康は二つ返事で立ち上がった。
○○
再度アパートを訪ねると、伊達政宗は机に突っ伏し昼寝していた。
カーテンを閉め切った部屋は真っ暗だった。
「伊達ちゃん。伊達ちゃん」
揺すると、ウザそうに目覚めた政宗は服を着替えだした。
「何しようとしてるでするか?」
「コインシャワー行く。いつも信長がちゃんと風呂入れっていうから……。……信長は?」
「彼は近くのホテルにいるよ」
突如ムッとした政宗は机に向かおうとした。
ゲームのシステム画面は立ち上がったままだ。
「待ってよ。今日はわたしと家康ちゃんとで過ごそうよ」
「……イヤだイヤだ。アンタらどんな人間か知らんし」
さらにキーボードを叩こうとした手を、家康がそっと握って制止させた。
「まずは銭湯にでも行きまするか」
「オマエはナニモノだ?」
「わたしは家康。徳川の家康でする」
「で、わたしは木下藤吉郎」
「キョーミなーい」
ふたりは戦国武将ゲーム上、重要プレイヤーなのだが。
伊達政宗の眼中には無いのだろうか。
「いいよ別に関心なくても。けど、わたしと家康ちゃんは大いにキョウミあるんだよね、伊達ちゃんのコト」
「……へ?」
「はっきし言ってキミ、天才ゲームマスターでするから、一体どんな子だろうと、しんしんキョーミなのでする」
「ほんとう? じゃあわたしもキミらに興味もつ。名前はなんて?」
「徳川家康」
「木下藤吉郎」
「長い。イエヤスとトウキチ」
「わたしはヒヨでいいよ」
「じゃあヒヨ。お風呂セット持ってろ」
○○○
「やはりコインシャワーはいい。最高に至福。メンドーくさいのに、いざ行くと幸せになる不思議」
近所の大衆浴場でひとっ風呂浴びた3人は帰りのコンビニでアイスを仕入れ、アパートへ戻った。
陽葉にとってはアテが外れた思いだった。
「あれはコインシャワーじゃないよ? 立派な銭湯だよ?」
「でも政宗はシャワーしか使ってなかったでする」
伊達政宗はシャワー付きの銭湯をコインシャワーだと思い込んでいた様子だった。
陽葉はてっきりコインシャワーに案内されると思ったのである。それが正真正銘の銭湯であったので拍子抜けするとともに、信長がなぜわざわざ新幹線を乗り継いで移動したのか、ようやく合点がいったのだった。
「陽葉どの」
手短にと前置きし、家康がひそひそ報告した。
「大友宗麟が秋月と語らい、島津領に侵攻。また荒木村重が毛利と国境の線引きで揉め、木下連盟脱退を表明したでする」
「報告アリガト」
パソコン画面に食い入り、ニヤニヤする政宗に話し掛ける。
「政宗ちゃん。提案なんだけど」
「いま忙しいから後で」
「アイス食べちゃうよ?」
「それイヤだ。わかった。よきにはからえ。ナニ?」
着替えた寝間着を脱がし始める陽葉。
「独眼竜政宗。わたしらと一緒に戦国時代に行こう」
「……はい?」
「あなたが創ったゲーム世界に行ってみよう。外から眺めてるだけじゃツマンナイでしょ」
「……わたしをこの部屋から追い出す気?」
大正解。これ以上、ゲームルールの改変をされたらタイヘンなので。
存外スルドイ子。
タラリと冷汗を垂らす陽葉。
「あなたなら無双展開し放題。存分に暴れられまする。とっても羨ましいでする」
家康の援護射撃。
無口クールドライをモットーにしている彼女の、なりふり構わないアタックだ。
「おう、それ。いいなあ。心揺らぐなあ」
「もしかして、部屋にいなくちゃダメなの? 誰か帰って来るとか?」
「お母さん。3ヶ月に一回は帰って来るし」
「前はいつ帰ってきたの?」
「去年の大晦日。蕎麦食べてスグ出てった」
去年の大晦日。それだと2年弱は経っている。
それに気付いたのか、政宗は目をいからせて「どーでもいいわ、別に!」と付け足しで怒鳴った。
「行こう。政宗」
「……うん。信長が行くなら行く」