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【完結御礼】戦国武将ゲーム! 豊穣楽土 ~木下藤吉郎でプレイするからには、難波の夢を抱いて六十余州に惣無事令を発してやります~  作者: 香坂くら
第3部 天下争奪編 京坂動乱 ~東軍盟主を引き受けるからには天下分け目の天王山で勝ってみせます~

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055 伊達政宗の住処

空想歴史ファンタジー!

あと4話で完。


 織田信長は令和時代の山形県米沢市内に行った!

 ゲームマスターの伊達政宗がそこにいる!


 服部半蔵がもたらした報告は衝撃的だった。


「コインシャワー……」


 現在のゲームシステムでは、過去未来間の時間跳躍は出来ないはずなのに。

 信長はそれをやってのけた。この点だけでも彼がゲーム世界で特別な存在なのが分かる。


 しかも時間跳躍にコインシャワーを使ったという。

 特定の場所に設置されたコインシャワーなら跳躍可能だということだ。


『新大阪駅の近くのシャワールームとつながっています』

「半蔵さん。わたしも今からそっちに行く。カードに場所送っといて」


 木下藤吉郎陽葉、徳川家康、織田美濃の3人で米沢市に行くことにした。




○○





「本当にここなの?」


 築40年以上は経ってそうな2階建てボロアパートの前で、3人は服部半蔵と合流した。


「間違いありません。たくさんの食糧を抱えた織田信長がこの建物の一室に入って行きました。それから丸2日経ちます」

「どうします?」


 木下陽葉に伺いを立てた織田美濃は中学時の制服姿。

 他に現代風の服装が無く仕方なかったが、少しサイズがキツかった。これはガマンするにしても、スカート丈があまりに短かったので、衣装持ちの徳川家康からノースリーブの白っぽいフード付きコートを拝借している。

 ちなみに家康は同じ白のダウンジャケット、陽葉は迷彩柄のフライトジャケットを着ている。

 3人三様に久しぶりの現代を意識している。


「インターフォン押すべし、でする」

 

 ふたりが止める間もなく、家康が押す。

 反応が無く、2度目を押すところで不意にドアが開いた。


 小学校高学年くらいのツインテの女の子が3人を見上げていた。




○○○




「――この子が伊達政宗。こっちは徳川家康、織田美濃、そして木下藤吉郎陽葉だ」

「独眼竜政宗だ。良きにはからえ」


 独眼竜と言いながら、独眼ではない。よくある眼帯もしていない。雑なキャラ付けだ。

 だが身なりはキチンとしている。

 被っている黒いニット帽に不格好な大きさの三日月のバッチをつけている。兜の前立てのつもりだろうか。やたらと目立ち、気が散りそうである。


 室内は隅々まで清掃が行き届いて良く整頓されているが、6畳間のせまい空間に、戦国の英傑が車座になったので寛ぐには程遠かった。


 政宗を紹介した信長は、きびきびと冷蔵庫からパックジュースを出し、皆に配った。


「これキライ。トマトジュース、苦」


 政宗は信長にパックを突き返してイスに座り直した。

 向かった机にはノートパソコンが開いていて、【戦国武将ゲーム】と表示されたタイトルらしきものと以下、無数の機械文字が並んでいる。


 サブモニターには何人かのプレイヤーたちのカード画面も表示されていた。

 プレイヤー名から本名、住所、年齢、出身校、趣味、嗜好まで個人情報が赤裸々に晒されている。無論、行動履歴もリアルタイムで追跡されていた。


「――好き嫌いはダメだ。身体を労われ」

「わたし、長生きなどしないのだ。死ぬときは死ぬのだ」

「バカを言うな。いいから飲め」

「ムリヤリ飲まして信長は殺す気まんまん」


 信長と政宗の噛み合わない会話にキョトンとしつつも、美濃が無遠慮に割り込んだ。


「アニサマ。ふたりはどういう関係なんですか?」


 政宗が先に答えた。


「信長はわたしのご主人さま。食事のお世話から、トイレ後のオシリ洗いまでしてくれる、とっても優しい人」

「ほ、ほ、ほ、ホントーなんですか?! あ、あ、アニサマ?!」

「真に受けるな。コイツは分かっての通り、この戦国武将ゲームのゲームマスターだ。ボクはコイツに声をかけられ、あるときここに呼び出された。それからずっとゲーム運営の手伝いをしている」


 信長の表情は硬い。

 当然だ。

 彼は陽葉らに「自分が説得するから待っていろ」と忠告した。

 だが結果的に彼女らは信長の言うことを訊かず、勝手に訪ねて来た。しかも突然に。


「信長が怒ってる。お前らは死刑だ。アンカーカードも廃止しよ」

「ま、待て政宗。ボクは怒ってなどいない。死刑とか言うな」

「怒ってないのか?」

「ああ。怒ってない」


 信長が荷物をまとめ始めた。


「政宗。じゃあまた来るからな。掃除、洗濯、風呂、食事に歯磨き。キチンとしろよ」

「もう行くのけ?」

「ああ。行く」


 陽葉と美濃が切羽詰まったカオになって彼を止めた。


「どういうことですか、説得するんじゃなかったんですか?!」


 彼は頬を強張らせてふたりの腕を引っ張った。

 置いて行かれた家康も、急に政宗とふたりきりにされ、当惑して3人の後を追いかけた。





○○○〇





「言ったろう。ヤツは戦国武将ゲームの世界では神だ。ゲームマスターだ。下手な発言をヤツの前でするな」

「だから。アニサマはあの子供といったいどういう関係なんですか?!」

「それも言ったろう。ボクは彼女の手伝いをしている。ゲームを盛り上げるために尽力している」


「盛り上げる? それって……」


 4人は近くのファミレスでテーブルを囲んでいたが、周囲にはばかって小声になっている。


「それって。ゲームを終わらせる気が無いってハナシですか?」


 咎めるような陽葉の口調に、彼は若干苛立ちを含ませて、


「続けるのも止めるのもヤツ次第だ。ヤツを、伊達政宗を、どうにかして説得し、ボクはゲームを止めさせようとしている。キミらが横合いから余計な事をしたら話がこじれるかも知れん」


 頼んだチョコパフェを食べ終わった家康が、思い出したかのようにつぶやいた。


「時間跳躍のアイテムが、どーしてコインシャワーなんでするか?」

「さぁ、それはよく知らんが……。彼女の近所にそれがあり、彼女はよくそれを利用しているそうだ」

「彼女……伊達ちゃんは独り暮らしなんでするか?」


「それもよく知らんが……ボクの知る限りではボクの滞在している時にはキミら以外、誰一人訪ねて来る者はいなかった」


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