18歩 「再訪」
天文21年春――。
「たのもー。たのもー」
城門前で素っ頓狂な声を張り上げてたら、中から血相を変えた乙音ちゃんが飛び出して来た。
従わせた屈強な男らふたりにわたしを「えっほえっほ」と抱えさせ、城内にある、屋敷の一角に放り込ませた。
「いって! 女の子をランボーに扱いすぎッ!」
――と、どうやらここ、乙音ちゃんの私室らしい。
人払いし、更に廊下の人気が無いのを確認した乙音ちゃん、
「もう来たらダメって言いましたでしょ!」
「まぁまぁ。はい、これ返す。乙音ちゃんの制服」
「……は? は、はい」
「もー血糊がべったりでさー、洗うの苦労したんだから」
「はぁ。……そ、それはそれは……」
お手間を掛けました。そう頭を下げつつハッとし、
「いえいえ、やなくって! これで十分戦国が危険なトコロだって知れましたでしょ!」
「だってぇー。来たかったんだもん。それに乙音ちゃんのコインシャワー、壊れちゃったんでしょ? 何とかしなきゃでしょ!」
「はぁ……。まーそーなんですが。でも、わたしはもう覚悟を決めてます。こっちで頑張ろーって。けどもセンパイはちゃうでしょう!? ちゃんと帰れるし!」
呆れ果てる乙音ちゃん。でもわたしはちっとも動じず。
「心配ご無用。わたしに任せて。手立てを考えるよ」
「んもぉ陽葉センパイ。どーせ、センパイも例の【戦国武将ゲーム】のコールでここに跳んだんでしょう?」
乙音ちゃんがカードを見せてくれた。
わたしのとまるっきり同じデザインだ。
「……ええですか? それを踏まえた上でわたしの今の状況を説明します。わたしとセンパイが属してる織田弾正忠家って、非常にクセモノでして、完全に逝ってまう寸前なんですよ。もはや滅びかけの、グズグズ最弱トンデモ小国です。これがホントにゲームなら初期設定ミス、ようするに失敗、ハズレ、リセット必至、帰れる手立てを発見する前にゲームオーバーなんですって」
これは負けてられないな。わたしも言い返す。
「お言葉ですが乙音ちゃん。織田弾正忠家ってたら【織田信長】の家ってコトなんでしょうが? ちっとは勉強したんだから! 誤魔化そうとしてもそうは行かないよ!」
「……別に……誤魔化しては居ませんが……。ま、その通り、当家は織田弾正忠上総介信長を頭領に戴いてますけれども。でも弱小国には変わんないんです!」
ニヤリとし、胸をバンバン叩くわたし。
「乙音ちゃん! 織田信長だよ! 知ってるよね? 歴史の教科書見た? 彼、将来天下統一するんだから! すっごく将来有望なんだって! だから悲観的になんなくていーんだよ?」
「……陽葉センパイは楽観的過ぎます。歴史くらいわたしだって知ってます。でもここの信長さまは……」
急に小声になり、
「信長さまは……?」
「それが。トホホなくらいに【ぼ・ん・く・ら】、なんですよ?」
「ソレ知ってるよォ、【うつけ者】ってんでしょ?」
「違います! そーじゃないんです。真正のぼんくらです」
「ぼんくら、ぼんくらって。悪口言いすぎっしょ」
「そーゆいたくなるくらい、ぼんくらなんです! 言い換えるとポンコツ、意気地なし、ヘタレ、ダメ人間!」
乙音ちゃん、声抑えて!
廊下に人通ったら大ごとになるよ!
「わかった、わかったから。……それもわたしが何とかしよう。廃嫡とかお家乗っ取りとか」
「ダメです! ダメなんです! でも彼、とってもエエ人なんです! だから、わたしは彼の救世主になろうって誓ったんですう!」
あららららー。
先日の彼女と性格が違いすぎる!
照れつつ、うっとりする乙音ちゃん。うっわ、かっわいい。
乙女チック・お花咲きまくりの背景コマが目に浮かんだ。
うーむ。




