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【完結御礼】戦国武将ゲーム! 豊穣楽土 ~木下藤吉郎でプレイするからには、難波の夢を抱いて六十余州に惣無事令を発してやります~  作者: 香坂くら
第3部 天下争奪編 京坂動乱 ~東軍盟主を引き受けるからには天下分け目の天王山で勝ってみせます~
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049 拳の会話


 よくよく観察すると、藤兵衛の居た部屋には複数の銃痕があった。

 香宗我部イチゾウの銃から発射された物だった。


 イチゾウは当初、勝負を楽観視していたようだ。

 相手がいかに剣の達人でも、こっちは銃。

 弾の速さに剣のさばきが追いつくはずないと。


 だがその考えは甘かった。

 数発試し撃ちしたところでそれに気付いた。


 一向に当たる気がしなかったのだ。


 藤兵衛は銃の弾道を見て避けようとしているのではない。

 イチゾウの銃を撃つ瞬間の彼の目線でおよその弾道を予測し、避けていた。


 そうと気付くのにさらに数発を要した。

 弾の残数は限られている。

 手持ちがないという事ではないが、もはや未来との行き来が不可能になった今は、現代式の武器と弾薬は非常に貴重なのだ。


 彼は焦り、そして慎重になった。


 必ず隙が生じるはずだと、藤兵衛の挙動の観察を重視するようになった。


 ところが対決がはじまって1時間もしないうちに、藤兵衛に変化があらわれた。


 座っていたのにそわそわ立ち上がったり、うろうろしたりと、ムダに動き回るようになった。

 一言で言ってしまえば、落ち着きのない動きだった。


 もっと言えば、心ここにあらず。


 だがイチゾウには、そんな相手の心情の変化にどんな訳があるのか? とまで考えるゆとりは無かった。

 弾を尽きさせるための作戦かなにかだろうと、雑な自己解析で片付けた。


 とにかく動いてくれる方が都合がいい。その方が何かの拍子に隙を見せるかも知れないから。と考えた。


 やがて大男がやたらこっちを気にしだす。

 と言うか、何かを訴えたがっている様子だった。


 ひょっとしてヤツは、ヤツにとって何らかの問題が生じたのか?

 これはチャンスかも知れない。とっさに思った。


 例えば話を聞いてやるふりをして最接近し仕留める、とか?

 が、いざ思い付くと、実際のところはそんなチンケで卑怯な手は取りたくない。

 イチゾウはそんな思考を巡らせたようにブルブルカオを振った。


 銃を降ろしワケを尋ねてやった。


「言いたいことがあるなら言えよ」

「貴殿には悪いがワシには次の用事がある。とっとと降参してくれい」


「は? 何だよそれ。だったらアンタこそ、とっとと負けちまえよ」

「そ、それはムリだ」


 イチゾウ、フンと鼻白み、ムシすることにした。

 勝手な事言いやがって、と。


 その後何べんも同じ会話を繰り返した。



 それから12時間以上が経過。

 香宗我部イチゾウは降って来た雨に閉口しつつ、正面の相手を見続けた。

 その相手の大男は半泣き顔で立ったり座ったり、相変わらずウロウロを繰り返している。



 丸24時間が経った頃、陽葉の居る部屋で「ワーキャー」声が聞こえた。

 それを耳にし、イチゾウは急速に力が抜けていくのを感じた。

 同時に深い安堵を覚えた。



◆◆




「又左が生き返ったか」


 ヨカッタ。

 本当にヨカッタ。


 クラクラしだした思考の中で感情をこみ上げさせ、雨天の空に感謝した。


 ああ。

 どーしよーかな。

 藤兵衛っておっさん、勝負切り上げたそうだよな。


 チッ。

 そんなことさせるか。

 最後まで付き合ってもらうからな。


 ……でもなぁ、ホントウは。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()を思い付きたいんだよなぁ。


 だってよ。弾当たって死んじゃったら、アイツも又左と同じ目に遭うだろ?


 ……チッ。

 メンドーくせえ性格だなぁ。

 アレコレ悩むんじゃねーよ、オレ。


 ……。

 …………。


 ……ダメだ。

 集中力が途切れてきた。


 クソ。

 こうなったら目くらめっぽう、ぶっ放してやるか、いっそ。

 いや、アカンに決まってる。そんなやり方じゃ、きっとヤツには当たらないし、第一、オレの気が済まない。


「……じゃあオレは……いったい何がしたいんだ?」


 あぁ、そりぁよ。

 認めたくないけどよ。




 でもよ。



 アイツらの代わりに一発殴らせてくれ。


 でないと。

 気が。

 済まねぇ……。


 ……。




◆◆◆





「おう。起きたか」

「……又左」


 直ぐに気付いた。

 全身が熱い。


 特に頭が発火したように熱い。手足がうだるように熱い。


「風邪だ。寝込んどけ」

「陽葉は?」


「西郷隆盛に会っている」

「なんだと?! ひとりで行かせたのか?!」


「隣の部屋だ。耳をそばだててみろ」

「……。あぁ、承知した。で? ワケを話せ」




 又左は、香宗我部イチゾウが気を失ってからの出来事を話した。


 イチゾウを部屋に運んだのは藤兵衛だった。

 彼はそこで負けを宣言し「大久保さまに忠言する」と告げた。


 彼が屋敷を出ようとすると門前で西郷隆盛と鉢合わせした。

 西郷は大久保からこの屋敷での事をすでに聞かされていた。珍しく語気を荒げ、激しく大久保を叱責したという。


 そうしてアンカーカードを木下陽葉に返上し、彼女に陳謝した。


 陽葉はそのとき、西郷の顔面が腫れているのを見つけ、さては大久保と殴り合いの喧嘩をしたのだと察した。さらにそんな彼が妙に晴れ晴れしているのを感じ取ると、彼女はにこやかに謝罪を受け入れ、あらためて自分が特使として薩摩にやってきたことを説明した。


 西郷は事前通知の無いまま薩摩領に入ったことを咎めながらも、彼女の訪問を歓迎する旨を伝えた。

 (実際は何度も連絡を寄越している。部下が揉み消していた)



「急に機嫌のよくなった藤吉郎が『話し合いしましょう』などと、西郷を連れて隣の間に行った」


 訝し気に又左はそう締めくくった。


「西郷と大久保が殴り合いの喧嘩をしたってか?」

「それは本当のようだ。オレが聞いたところだと史実ではふたりは仲違いしたらしいが、この世界でもそうなったのかも知れんな……島津家中がふたつに割れると厄介だぞ」


「んなワケねーだろ。晴れ晴れしてたんだろ、西郷は。きっと拳で語り合ったんだろうぜ。ホント笑うな、それ」

「? やりあって語り合うとはどういう意味だ?」

「どういうって、そりゃあ……」


 完全に昭和スポコンマンガのノリだろう。

 他の時代の者には到底理解できまいさ。


 しかしそう言えば、西郷と大久保は何時代の人間だったか? などと独りでウケるイチゾウ。


「友情に言葉は要らねぇってコトじゃねぇの?」


 きっと木下藤吉郎陽葉なら。


「どうにか話をまとめてくれそうだな」


 ひとりでドヤ顔するイチゾウに又左がパンチを放った。


「説明不足だ。もっとちゃんと話せ」

「いってぇ! こ、コイツ! ちゃんと話しただろーが!」


「フン。そんなヘナチョコな蹴り、――うぐッ?!」

「フェイントを知らねーのか、ヘナチョコ! ――うがッ?!」


 香宗我部イチゾウと前田又左衛門。

 ふたりの友情は果たして深まるのだろうか。


締めくくりをどうするのか、案が2通りあり、どっちを採用するのか思案中です。

今回も有難うございます。

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