表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結御礼】戦国武将ゲーム! 豊穣楽土 ~木下藤吉郎でプレイするからには、難波の夢を抱いて六十余州に惣無事令を発してやります~  作者: 香坂くら
第3部 天下争奪編 京坂動乱 ~東軍盟主を引き受けるからには天下分け目の天王山で勝ってみせます~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/187

047 痴漢被害ふたたび?


 グウ。

 ――と、いびきをひとつ、かく。


 ゴロンと寝返りを打つ。

 前田又左。


 やがて。

 浅いリズムふたつみっつで呼吸が整い。


「ん……」


 ゆっくりと薄ら目を開け、静止すること2秒。


「ウオオオッッ!」


 突如わめき、抜刀し、ブンと振る。


 切っ先から黒い、糸状の物がハラハラ……と流れ落ちた。



「……え? 陽葉……?」


 短くなった前髪をイジイジ、照れつ気にする陽葉が眼前にいて。のけぞる又左。


「……物騒なの、それ。はやく仕舞ってよ」

「す、す、す、済まんッ!」


 彼の記憶では大男が……、間違いなく大男が自分の眼前で刀を抜いた……。

 反射的にそれを避けようとした……のだが。


「オ、オレ……」

「前髪切れちゃったよ」

「あ、あ、ごめん。そ、その……」


 責めるような言い方をしてるのに、何故か機嫌よくニコニコしている陽葉。

 言い訳しそうになって、その必要はないと思い直し。


「オレ……ひょっとして。し……」

「お早う。又左」


 両手をいっぱいに広げた陽葉が、又左にぶつかってきた。

 ギューッとされて、彼は狼狽しつつ。かつて経験したことがない、甘美な感触と匂いにクラクラした。


 調子が狂う。

 アタマもカラダも思い通りにならないのに。

 たとえようの無いほど心地いい。


 頬同士が擦れ合うキョリで、彼は無意識のうちに女子の唇を求めた。

 それと気付いたのか否か、紅潮した相手がフッとカオを離した。

 自然、向き合う形になる。


「び……」

「……び?」


「びえーっくしょんッ!」

「うおっ?!」


 とっさにかわす彼。その反射神経、並じゃない。


「ご、ごめん。気が緩んじゃったら、鼻がグズついちゃった」


 ズズッと鼻をすする陽葉。

 彼はしばしポカンと、少女をまぬけカオを眺めた。


 今の今まで、いいカンジのフンイキになってた……ハズだったんだが。


「くく……」

「?」


「ハハハ……!」

「どーしたの?」


 又左が急に笑い出したので、陽葉はビミョーな、引きつった笑いでとりあえず彼に同調した。


「陽葉。オマエ、服はどーした? 取り合えずこのフトンを被れ」


 又左は、陽葉が布団を自分に使わせておいて、本人は座布団ひとつで過ごしていたのに気付いた。

 だから掛け布団を与えたのである。


「あ。えへへ」

「あってなんだ?」


「いやぁ、なんかさ。初めて又左と会ったときにもね、おんなじコトがあったなぁって」

「……ん?」


「『おい。そこの女!』 とか咎められて」

「……憶えてないな」


「あの、尾張の……萱津村の小屋で。とりあえずこれ被って小屋に行けって、おっきな布切れ投げ渡されて」

「……あぁ、あのときか。確か小屋にあった乙音さまの服を貸したんだったな」

「そーだよ」


 フ……と天井の板を見上げる陽葉。

 ポツポツ……。屋根を叩く音が聞こえている。軽快で不規則なリズムだ。


 雨が降り出したのだろう。

 先程まで晴れていたのだが。


「あのときは見上げたら、綺麗な星空が見えたんだよね。……まるで夢みたいな。宝石がキラキラ舞ってるカンジの」


 遠い目をする陽葉の真意は測りかねたが、又左はしみじみとした口調で「そうだな。あのときは道がまだまっすぐだったな」と応じた。


「んー? お互いイミ通じてんのかな」


 首をかしげ、軽く口の端を上げた陽葉は、隣室との間を隔てているふすまに、思い出したように這い寄った。そこに耳を当てた。


「……何をしてる?」


「藤兵衛さんだよ。隣にいるんだけど、彼の命をイチゾウが狙ってんだ」

「はぁ? 藤兵衛って……」

「勝負なんだって。わたしはもう興味がないんだけどさ。イチゾウはヤル気なんだよ」

「何だと……?」


 語気を上げ、ふすまを睨む又左だったが、その眼に力はこもらなかった。


「アイツ、強かった……」

「不意打ちされたからだよ」


「いや……。オレより数段上だった。つくづく自分の未熟さを知った」


 彼は自分は相当強いと自負していた。そう周囲に思わせていたし、現に強かった。


 だが。


「上には上がいるな。オレなんてまだまだ……」

「あのさ。ステップアップのチャンスをもらったんだって思うコトにしなよ。それってラッキーじゃんか」

「すてっぷあっぷ? ちゃんす? らっきーじゃんか?」


「もーメンドくさいっ。えーと、よーするに、新しい目標ができて幸せだねってコト」

「新しい目標……」

「そ。目標」

「目標か……」


 そのとき、ガラリとふすまが開いた。

 藤兵衛とやらがいる方ではなく、縁側の方のふすまだ。


「うっす。身ぐるみ剥がしにきたっス!」


 超重量級の男たち5人。

 ちょんまげこそ結ってないが、完全に関取集団である。


「何だ。オマエら」

「又左。ここは大人しく観念しなきゃなんだよ?」

「観念?」


 陽葉は、今イチゾウが挑戦している、大久保が提案したというゲームの内容、ルール? を丁寧に説明した。

 それのために自分がヘンな格好をしている事も付け加えた。


「な、なんだ? 追いはぎ? それは……?」


 狼狽し後ずさりする又左に上半身ハダカの猛者たちが、手をワキワキしながら近づいた。


「や、やめろ、ヤメローッ!」


 意気消沈気味の彼には抵抗心が芽生えない。

 ガッチリと両腕を掴まれた。

 もう振りほどけない。


 こうして、第2の被害者が前回と同じ事件現場で生まれた。




◆◆





「わたし……あっち見てたから。何も見てないからね?」

「……何も言ってないぞ、オレ」


「ところで、さ。何でわたしはポンチョみたいな服で、又左はブカブカのTシャツなの……?」

「し、知らんし!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ