046 身ぐるみ剥がし
香宗我部イチゾウが言葉にならない言葉を発した。
別の言い方をすれば、それは狂乱状態に陥った者の喚きだった。
「黙れ大久保オオオォォ!」
喉をつぶしそうなほどの怒鳴り。
陽葉が暴れるイチゾウを羽交い絞めしようとする。
だが女の力では男を抑えられない。振りほどかれた勢いで転倒した。
「イチゾウ! 香宗我部イチゾウッ!」
それでも止める。
必死に。死にもの狂いで止める。
彼女の叫びが届き、彼はハッとした。
床に手をつく陽葉の、何かに耐える眼差しに我を取り戻した。
「済まねぇ。お、オレ……!」
「イチゾウ、大丈夫だよ! 又左は大丈夫!」
その慰めの言葉は実は陽葉自身に言い聞かせているのだと、瞬時に彼は理解し恥じ入った。
守りたい相手に守られてどうするんだ! と。
大男、藤兵衛はズンズンとイチゾウに迫り、彼の銃を平手ではたこうとした。とっさにそれを避けると「オヤ?」というカオをする。
生憎戦意喪失はしていない。
「そう簡単に盗られるか。よしわかった。勝負だ」
「では木下藤吉郎陽葉さん。藤兵衛は隣の部屋に控えさせますので、どうぞこの部屋を自由にお使いください。香宗我部イチゾウさんも、どうぞご自由に」
後は好きなように勝負に挑んでくれという事らしかった。
ふたりは完全にナメてかかられている。
「待って、大久保さん」
「はい?」
「まだ、あなたが勝ったときの条件を聞いてませんが?」
「はぁ。……そうですねぇ。えーでは、アンカーカードとやらを貰う事にでもしもんそか」
語尾を薩摩弁で茶化した大久保に、陽葉は冷めた目を返し、
「アンカーカード? そんなのだったら別に勝負しなくても、欲しけりゃいつでもあげますよ。但し、それじゃこっちの条件も変えさせて頂きます。もし1日経って又左が生き返らなかったら、あなたを殺す許可をください」
陽葉は侮蔑を込めて吐き捨て、アンカーカードを彼の前に投げ捨てた。
「たとえゲームだろうと何だろうと、命を粗末に扱う人とは、まともな交渉はしたくないです」
一方的に告げて、陽葉は又左の横から動かなくなった。
大久保はヤレヤレと言ったカオで首を振り、カードを取り上げた。
「大久保さん。そのカードを手にした以上は、全プレイヤーたちの命を預かったという事ですからね?」
「なるほど……。木下藤吉郎陽葉。その言葉、西郷さんに伝えておくとしよう」
「勝負はどーすんだ、大久保さん」
「お好きにどうぞ」
うなづいたイチゾウは部屋を出、縁側を突っ切り、庭の石積みに腰掛けた。
目線は藤兵衛から離さないでいる。
「……やれやれ。では。また後ほどこけ来っね」
大久保の退室と同時に女中数人が入室した。
陽葉をぐるりと取り囲む。
「へ? 何ですか、あなたたち?」
「木下藤吉郎陽葉さん。手持ちの一切を預からせて頂きます」
「ん? 手持ち?」
「ごめんなさいねぇ。これは決まりなんです」
「き、決まりって?!」
「一対一の勝負をなされる場合の島津家の約束事なんよ。第3者に無粋な横槍を入れさせないための。許してぇね」
女中頭と思しき20代くらいの美人が、そう言って妖し気に目を光らせた。
「な、何すんのって……!」
「身ぐるみ剥ぐだけ。ですから」
「ふへぇ?! そんなあ?!」
大久保が去った部屋から、陽葉の悲鳴が響いた。痴漢に遭ったかのような。
と言うか、痴漢だった。同性らによる、疑う余地がないほどの完璧痴漢、いやこりゃ性犯罪だった。




