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【完結御礼】戦国武将ゲーム! 豊穣楽土 ~木下藤吉郎でプレイするからには、難波の夢を抱いて六十余州に惣無事令を発してやります~  作者: 香坂くら
第3部 天下争奪編 京坂動乱 ~東軍盟主を引き受けるからには天下分け目の天王山で勝ってみせます~

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044 心の死


 大友宗麟は元々の本拠地であった臼杵(うすき)城を放棄し、府内城(豊後国=大分県大分市)に兵力を集中させていた。


 上杉勢の入領以後、各所の劣勢を跳ね返し気を大きくした彼は、臼杵城の奪還を目指したいと上杉謙信に熱弁を振るう。

 謙信には何の義理も義務も無いどころか見返りさえもなかったが、彼は二つ返事で協力を約束した。


 上杉軍2000は、大友宗麟が直接指揮する兵4500と共に南下を開始した。

 最初に目指すのは豊後鏡城。先般島津に奪われたばかりであった。そしてその拠点の先には鶴賀城があり、北上しつつある島津軍がここらに主力を据え、大友との間で激戦地帯となっている。


「上杉さんがいれば百人力だ。鏡城も鶴賀城も一瞬で取り返せるさ。島津なんて瞬殺だろうね」

「……キミ、キリスト教に入信してんの?」


 大友宗麟が胸元で十字を切ったので謙信がいぶかしんだ。

 そこまで実在だった人物になり切ってるのかと感心した反面、十字を切る手の順番が間違っていたからだ。


「ああ。せっかく戦国武将に成り代わったんだし、俄かでも本人の気分を味わいたいじゃん?」


 そんなものか、と謙信はうなづいた。


「これはゲームだが、人が生き死にするゲームだ。本当に死ぬ恐れもある事は頭に入れておいた方がいい。つまり、オフザケは良くないという話だ」

「分かってるさ、謙信君。でも、そういうキミだって、実に謙信っぽい気がするよ?」


 虚を衝かれ、ポッと赤面する謙信。

 彼も上杉謙信という戦国武将に強いあこがれを抱いているという点で図星だったからである。



 さて。

 ふたりの進軍に待ったが掛ったのは、豊後鏡城を落とした直後だった。


 待ったを掛けたのは長宗我部コンビ。

 府内城に着いたら出陣のの後だったので慌てて追い掛けたという。


「キミらは戸次川の戦いをご存じか?」

「戸次川? 知ってるよ? オレらが大負けした戦いだろ?」

「知っているのならなんで同じ過ちを犯そうとする? もっと慎重に島津と戦うべきじゃないか?」


 鏡城城中で、長宗我部信親が眉を吊り上げて説教する。


「確か……。その戦いは豊臣軍の九州征伐で起こった戦いで。――長宗我部軍が大損害を被ったんだったな」

「ああ。オレが戦死して、元親センパイが失意に沈んだ。長宗我部家凋落の発端だ。この状況はとてもじゃないが看過できないよ」


 普段おちゃらける長宗我部元親も後輩の言にしかめっ面で応じた。

 なにもわざわざ史実再現しなくてもいいだろうと信親が吼える。


 大友宗麟は笑い飛ばす。


「ここにはええと……ダレだっけ? 豊臣の配下の……」

「仙石秀久」


 史実では豊臣軍の軍監だった仙石秀久が反対を押し切って我攻めを強行したため、散々な負けを喫している。


「そう。ここに仙石クンはいないよ? 無謀な作戦を言い出す人物がいないってことだ。みんなでキチンと話し合って作戦を決めたらいいだけだよ。――それにさ、こっちには何と言っても、軍神・上杉謙信クンがいるんだぜ? 負けるわけが無いじゃないか」


 得意そうに肩を揺する大友宗麟は大柄で声も大きい。

 何故彼が得意そうにするのかが不明。

 長宗我部元親が指摘のつもりで咳払いした。


 腕組みし目を閉じていた上杉謙信が口を開く。


「鶴賀城は籠城して1か月経つ。士気が限界だろう。見殺しには出来ない」

「だが。島津軍は島津義弘を筆頭に、川の向こう岸で我々が渡河するのを待ち構えている。さらにその先の臼杵城にも大勢の後詰がいる。史実よりもさらに悪条件が揃っている」


 すかさず長宗我部信親が釘を刺す。

 このままでは上杉謙信の意に場が流れると警戒したためだ。


「……では長宗我部はどうするつもりか?」


 元親と信親を交互に見詰め、謙信が問う。


「決戦はまだ早い。しばらく待てば毛利も加勢に来るだろう。その手筈は整えている」

「手筈? それはいつだ? 毛利はいつ来るんだ?」

「鶴賀救援に間に合うのか?」


 大友宗麟と上杉謙信の詰めに、長宗我部コンビは窮した。彼らとてただの希望的観測で物を言っているに過ぎないのだ。


「理解している。このゲーム世界の人間に死は無いと。だが、だからと言って見殺しにするのは、オレたちにすれば、死を意味しないか。人としての心の死を」


 謙信の眼が、火を帯びたように熱く滾っていた。

 このまま放っておけば、彼は独りでも島津の陣に向かって行くだろう。

 進んで戦いはしたくないはずだが、状況はそれだけ切迫していた。


 長宗我部コンビはそろって長い息を吐き、首肯した。

 元親が断言する。


「分った。では3日くれ」

「……3日」


「木下藤吉郎陽葉が先に薩摩に入っている。ヤツらと話し合うそうだ」


 だが、木下藤吉郎陽葉は音信不通。

 カードを確認すればプレイヤーならすぐに知れる事実。

 またもや長宗我部コンビが放ったハッタリに、謙信は遂に力を抜いた。


「……承知した。3日待つ。3日だけだ」

 

 不服そうに大友がカオをいからせたが、謙信の言に反対はしなかった。


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