042 手分け
ようやく下船を許された竹中半兵衛ら一行は、岡豊城で木下藤吉郎陽葉たちと再会。
「藤吉郎ちゃんにもう会えないかと思ったよー」
「追い返されると覚悟したわい」
「死人が出なくて良かったな」
長宗我部コンビからバカにされたが、皆本心だ。無事に入城できたことを素直に称え合った。
「これからの手立てなんだけど。手分けしようと思う」
そう前置きをした陽葉は今後の行動に関し、仲間たちを班分けしてそれぞれ指示を与えた。
まずは。
毛利家を訪問して助力を要請、そののち九州の大友領に赴く組。
竹中半兵衛、前野将右衛門。
大友領に直行し、大友・上杉軍のサポートに回って島津軍の北進を牽制する組。
織田御市、武田信繁。
そして薩摩の島津領に入り、島津義久との面会を目指す組。
木下藤吉郎陽葉、香宗我部イチゾウ、前田又左。
「半兵衛さんは可能な限り、毛利の支援軍を九州に連れてきてください」
「可能な限り、では締まりません。5千は引き出します」
5千という数字は吉川元春の現在の最大可能動員数に匹敵する。
「……マジですか、有難うございます! でもあまりムチャはしないでください」
「ムチャは承知の上です」
ゴホン、と長宗我部元親が咳払いひとつ。
「九州征伐、なんならオレたちコンビも参加してやろうか?」
長宗我部元親が織田御市を気にしながら申し出る。
彼と眼が合った御市はウインク。ヘンな意味は無いだろうが彼には効いた。
真顔の早口でまくし立てだした彼。
信親の見るところ、かなり高レベルで興奮している。
「いーや。ぜひ行かせてくれ! 大友さんが困ってんのですわ、コレ助けへんでどーするっちゅーねん」
「元親先輩、方言がおかしいです。それと、先輩のヨメのあがり姫があなたの背後で拳を挙げてますが?」
――長宗我部コンビがこうして、織田御市・武田信繁組に参入した。
◆◆
長宗我部元親と信親は織田御市、武田信繁とともに大友領に向かった。
内陸に通した【百曲がり軍道】を利用、兵3000を引き連れての大行軍であった。
「オレらは正直、元の時代に帰れなくても、この四国で家族たちと平和に楽しく暮らせればいいと思っている」
「自分も元の時代にはあまり未練はないな。けれども先輩の言う通り、今の暮らしが乱れるのはイヤだ。それならまだ帰った方がいいとさえ思う。平和を守るために島津をどーにかするってんなら、最大限の協力を惜しまない」
利害の一致、と片付けてしまえばそれまでだが、長宗我部コンビはそれほど戦国での生活に幸せに感じていたのだと陽葉はあらためて納得した。
敵。
すなわち自分や家族に危害を加える者。
その輩を徹底的に排除することが、幸せを維持させる手段だと思い詰めているようにも見えた。
「だったら猶更、わたしたちと手を組んでください。わたしたちはあなたたちが裏切らない限り、全力であなたたちを護ります」
その言葉を聞き、長宗我部コンビは持てる精一杯の軍勢を陽葉たちに加担させたのであった。
◆◆◆
4日の後、毛利家訪問組と大友領入領組はまずその出だしのノルマを果たした。
そして。
木下藤吉郎陽葉の組は、日向国~大隅国あたり(現大分県~鹿児島県)の海岸べりでプツリと消息を絶った。




