040 真名パートⅡ
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空想歴史ふぁんたじ。
「ひとつ確認なんだが毛利家は完全に屈服したのか? キミらに?」
「屈服、というか、休戦です。実際のところ播磨一国じゃ満足してないと思いますし」
木下藤吉郎陽葉の言いように長宗我部元親が苦笑。
「長宗我部は淡路でじゅうぶん満足したけどなぁ」
額に手を当てたキメポーズで「うーん」と考え込む元親。
その佇まいは割にサマになっている。
が。
庭に向けた視線の先では、石谷姫妹が侍女たちと戯れている。
(ちなみに彼女は後輩・信親のヨメ)
まるでニンフがひらひら蝶のように舞っているような可憐さ、美しさだ。
それをジッと……いや、ジットリと眺めている。
彼の鼻の先は伸び切り、いまにも「ふへへ」と不審者特有の笑いを発しそうで、陽葉はいたたまれなくなりカオをそむけた。
そんな様子に腹を立てたのか、長宗我部信親が元親の背後に近付き、何の躊躇もなく蹴りをかました。念のために断るが、仮にも主に対して!
「ぐおっ?!」
「オイ。アレは自分のヨメです。分かっとりますか、先輩」
「分かっとるってー」
約10秒のノックダウン後、ひょっこり起き上がる元親の眼差しは澄んでいて、後輩に蹴られたことに対する怒りも焦りも一切見られない。
まるで今のやり取りがそのものが無かったかのようだった。
陽葉はその様を目の当たりにし、ふと「ポーカーフェイス元親ですから」と竹中半兵衛が話してたのを思い出した。
元親が続ける。
「――で島津だ。あの連中、一筋縄ではいかんなぁ」
彼が言うには、島津の大将、島津義久は市井の戦国武将ゲームプレイヤーでなく、歴史上の有名人である。
とっくに18歳ルールの基準を超えていて、20歳にも到達しているらしい。
この時点でゲームプレイヤーとしての勝者にはなれないだろうが、他のプレイヤーが元の時代で中学生や高校生、下手をすれば小学生までいるのに比べて、色々な意味で大人の知恵がまわり、抱く企みもさぞかし複雑怪奇で厄介だろうと推察し。
「島津義久。彼は西郷隆盛が成り代わっていると思われ、当年とって22歳。それから軍事担当の島津義弘が伊地知正治で21歳。最後に参謀格の島津歳久が大久保利通で23歳。どうしてそんな歴史上の人物がこんな雑な遊戯の世界に迷い込んだのかは知らんが、今はそんな事はどーでもいい。問題はあいつらの思考パターンと予想される今後の行動だ」
それまで訳もなくウロウロしていた元親がようやく円座に腰を落ち着けると、それを見計らって、信親が抱えていた手紙の束を広げた。
これまでに島津と遣り取りしたものだ。
「プレイヤーカードを登録し合ったんだけども、彼らは機械に不慣れなのか、それとも機械を信用していないのか。8割方手紙のやり取り。故にこうして記録が残っているわけ」
「信親よ。今更そもそも論をするが、アイツらは真に西郷や大久保だと思うか?」
「は? 元親先輩。なんか試してる? ……ホンモノもニセモノもないよ。だいたいこの世界自体がニセモノなんだし」
「仮に西郷が幕末から来た志士だとして。しかし弱冠20歳すぎだ。臈長けた晩年の大久保もただの若造だ。そんなのに、必要以上に怖気づくことは無いんじゃないかと」
陽葉がフラリと挙手。
「あのさ、又左。ずっと前、わたしがこっちの世界に来たばっかのとき、諱? 真名? で呼ぶなとか、どーとかって怒ったよね? 憶えてる?」
「ん……。織田……信長さまの事でか?」
「そう。信長って名前を出すなって。いまソレ言わないよね?」
む、と唸る又左。
言われてみればと思い当たったのかも知れない。
「何が言いたいの?」
「だからね、その一件だけでもこの世界がヘンだなって感じるし、架空の世界だなって思えるんだよね」
信親がうなづいた。
「だいたい西郷にしても、20歳ごろだとまだ隆盛とは称してなかったと記憶してるしな」
「吉之介、だっけ?」
「知らんけど」
その後もしばらく名前談義が続いたが、香宗我部イチゾウが「どーでもいい」とあくびをしだしたので打ち切りになった。
結局、九州に行く前に毛利家も訪ねるべきだという結論に至った。




